自分で言うのもなんだが、
俺は愛想もねえし学もない。
唯一出来るのは力仕事だが、
どうにも不器用な手先と加減の効かない力のせいで、
商品や備品を壊しまくってしまう。
要するに仕事が出来なかった。
それでも自分なりに一生懸命働いてるし、
出来るだけ丁寧に作業をしているつもりでも、
どの仕事も3ヶ月と持たなかった。
前の職場の先輩だったトムさんの紹介で仕事を回して貰ってなかったら、
この池袋の街で俺はとっくにのたれ死んでただろう。
当然のように保険にも入れてないし、
年金の督促状だって何通も来てる。
けれどそんなの構っていられない。
今生きていくのですら必死なのに、
老後の心配等する余裕も無い。
とにかく俺は、
日々を暮らしていくのに必死だった。




「平和島、お前今日この後暇か?」



閉め作業をしていると、
トムさんの知人である店長に声を掛けられた。
今の職場は個人経営の小さなダイニングバーだ。
バーと言っても名ばかりで、
オーナーでもある店長の気分次第で朝まで開ける日もあれば、
今日のように10時には閉めてしまう時もある。
今日は週の中日でしかも雨という事もあり、
客も2、3組しか入らず、
9時半には少しずつ閉店作業を始めていた。



「まあ、暇っちゃ暇ですけど…」
「最近よぉ、面白い店見つけたんだよ。
この後行かねえか?」




ここで言う面白い店とは、
いわゆる風俗店の事だ。
店長は人は良かったが無類の風俗好きで、
事あるごとに俺を色んな店に連れていってくれた。
エロジジイだなとは思うけど、
支払いは毎回店長持ちだし、
何より俺も興味がある為誘われる度について行った。
結局俺もエロが好きって事だ。
けれどあっさりOKするのも癪なので、
若干渋る様子を見せてから『仕方なく』と言った風に承諾する。
けれどこれも毎回の事だから、
店長にも俺が実はまんざらでも無いって事はバレてると思う。
けれど俺たちは儀式のように、決まりきったこの流れを繰り返す。
今日も最初は歯切れの悪い返事しかしない。
内心今度はどんなとこ連れてってくれんのかとわくわくしてたが、
仏頂面が得意な俺はそれを一切表情には出さない。



「ぁ〜もう分かりました。
ついてきゃいいんでしょついてきゃ」



そう言うと店長の顔がぱあっと明るくなった。



「よし、そうか!
そうと決まればさっさと店閉めるぞ!
なんせ今日は、
サービスデーらしいからな」



店長は鼻歌混じりにカウンターの奥へと消えた。
それもあって早く閉めやがったのかよ。
店長の余りの自由っぷりに若干呆れつつも、
俺も作業に取りかかった。



店を閉め牛丼屋で軽く飯を済ませた俺達は、
11時過ぎ、ようやく店長オススメの店に着いた。
店は雑居ビルの二階にあり、
扉の前には小さな看板と従業員らしき人物のパネル写真が貼ってある。
そこまでは普通だった。
だが、写真の中の人物に問題があった。



「…店って、まさかここっすか?」
「そうだよ。
今までに無い趣向だろうが?」



今までに無いも何も。
俺はもう一度写真の中の人物を見る。
写真の中でバッチリキメ顔を決める人物、
それは紛れもなく男だった。
驚き固まる俺を他所に、
店長は上機嫌で扉を開ける。
店長は常連らしく、
受付の従業員に『よっ!来たぞ』と気軽に挨拶を交わす。



「遅いですよお客様、
受付終了ギリギリになっても連絡も無いから、
今日はいらっしゃらないかと思ってましたよ」
「わりぃわりぃ、
そん代わり今日はうちの従業員も連れて来たからよ」


そう言ってばんばんと肩を叩かれる。
けれど俺の血の気は引いたまま。
アソコだって萎えるどころかすっかり縮んでしまっている。
セクキャバ、SM、個室サウナ。
色々連れていって貰ったが、
男が男に春を売る、
ゲイ専門のヘルスは初めてだった。
いくらなんでもこれは無い。
店長と受付の従業員に色々パネルを見せられたが、
目の焦点が定まらず一向に脳に入ってこない。
余りの動揺っぷりを見せる俺に、
従業員が顔を覗き込んできた。



「どうかされましたか?」
「あーコイツこの手の店初めてなんだよな。
俺はいつもの子で行く予定だけど、
こいつに誰かオススメの子付けてやってくんねえかな?」
「さようでございますか!
ならすっごくいい子お付けしますよ。
パネルはちょっと出してないんですが、
初めての方でもご満足して頂ける筈ですよ」



俺の意思など関係無しに勝手にあれやこれやと話を進められ、
結局60分でそのオススメの子に入る事になっていた。
従業員にプレイ内容やオプション等の説明されたが、
全く耳に入らない。
受付を済ませ店長と別れると、
遂にプレイする個室の前まで来てしまった。
この扉の先には、
既に俺の相手が待っている。
そう思うと緊張して手が震えたが、
いつまでもここに居るわけにもいかないので意を決し扉をノックした。
『開いてますんで、どうぞ』と中から返事が返ってくる。
その声はやはり紛れもなく男で、
その事がまた俺の気を沈めさせた。
いい加減腹をくくれ、俺。
俺はドアノブを回した。










続きます。












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