俺は恋愛に興味がない。
…ごめん訂正。
実際興味はある。
彼女欲しいなぁとは思うし、
町中を幸せそうに歩くカップルを見ると羨ましいなとも思う。
けど、それだけだった。
相手が居ないという事も、
機会が無いという訳でもない。
ナンパだってするし、
告白だって充分されている。
けれどそれらに心が全く動かされないのだ。
どうにもやる気が出ず、
自分の話の筈なのに、
何故だか全て他人事のように思えて仕方ない。
頭や身体は欲していても、
心が冷めてしまっているのだ。
以前メディア論の講義で、
昔の有名なキャッチコピーのCMを見せられた事がある。
その中のあるCMのコピーがやたら記憶に残った。
確か恋は遠い日の花火だどうこうっていう。
そんな美しいものでは無いが、
俺の心の状態を表すのは正にそれだった。
ゆっくりと瞼を閉じると思い起こされる過去の思い出達。
充分に愛し合っていたと思うし、
恋はしていたと思う。
しかしその記憶も単なる情報と化していき、
恋愛をしていたという事実が確かにあったのだろうが、
遠い過去の事にしか思えないのだ。
段々、寧ろ恋なんてしたことあったか?とすら思えてくる。
それくらい俺は今、
恋愛というものに縁もゆかりも無かった。
某キム○ク風に言やぁ今は完全に『閉じてる』状態。
けれど俺はそれを良しとせず、
もやもやと複雑な気持ちを抱えたまま日々を過ごす。
興味も、機会も、相手だっている。
なのに恋愛が出来ない。
こんな悲しい事ってあるのだろうか?
こんなにも縁遠いと、
何だか俺、実は童貞なのかも知れないと思えてくる。
そうだったら幾らかマジだが、
実際俺の体は充分に経験を積んでいて、
無垢だったあの頃には到底戻れやしない。
その事実が何だか胸を痛めた。
そんな感じの俺が、
もう半年以上続いていた。



「ぁの、お前のこと、
すきなんだけど」



突然の事に、思わず『ぇ』と聞き返してしまう。
俺が聞き取れなかったと思ったのだろうか。
彼は先程より些か声を張り、
ひとつひとつはっきりと、
丁寧に言い直した。



「俺、お前が好きだ」



薄ぼんやりとしていた脳にひとつひとつ落ちてくる言葉。
その暖かな彼の想いに、
僅かに胸に熱が広がった。
そう、『彼』。
告白してきたのは、女ではなく男だった。
彼は平和島静雄さん。
今年から同じゼミを取っている、
同回だけど一度社会に出てから大学に入り直した彼は、
現役の俺より六つか七つ程年上だ。
けれど威圧的な雰囲気とは違い、
実際喋ってみると意外と少年のような所とか、
やたらピュアというか可愛らしい一面に好感が持て、学校で会う度によく話した。
ゼミ以外でも講義が被ると近くの席に座るし、
昼飯を一緒に食べたりもした。
今日はゼミのプレゼン明けの打ち上げだった。
終電を逃し、たまたま家の方向が一緒だった静雄さんと二人でとぼとぼ歩いて帰っていた途中、
休憩がてら寄った公園のベンチ。
酔い覚ましにと自販機で買った冷えた緑茶を飲んでいると、
隣に座る静雄さんが『紀田、』と震える声で俺の名を呼んだ。
公園の街灯に白く照らされた静雄さんの顔は、
夜目でも分かる程に赤く染まっている。
静雄さんが飲んでいるコーラの缶みたいだな。
そういうどうでもいい事が頭を過る。
それほどまでに余裕があった。
例え、告白してきた相手が女子ではなく立派な男の人で、
それが静雄さんでも、だ。
余裕がある事が寂しかった。
それは俺の心に火が灯らない、
これは恋に繋がらないという、
確かな証拠だった。



「あの、静雄さん、俺」
「お前が今恋愛とかに興味がないのも知ってる」



断ろうとした矢先に言葉を遮られる。
意外だった。
今までの癖で、心は冷めててもついつい女の子に声を掛けてしまう。
軽いノリも変わらない。
だからいつも周りからは、
女好きの恋愛ばっか追いかけてる奴って思われてる。
実際半分はあってるから否定はしない。
だから誰も俺の心がこんなにも冷めているなんて気付かない。
何より自分でも分からないこの不思議な感情を、
理解されるとも思えなかった。
しかし静雄さんはそれに気付いた。
いつもちょっと不器用で、
恋愛沙汰にも鈍そうな彼が、
誰も気付かなかった俺の感情を読み取っていた。
その上での告白なんて、
余程自分に自信があるか、
そんな事関係ないくらい相手のことが好きなのかのどちらかだった。
静雄さんが伏せていた顔を上げる。
普段サングラスで隠れがちの目が、
今はまっすぐ俺を見つめる。
その目の真剣さは、はっきりと『後者だ』と訴えていた。



「だから、時間くれねえか」
「時間?」
「そう。
俺、お前に好きになってもらうよう頑張るから。
少しだけでいいんだ。
ちょっとでいいから俺のこと見ててくれねえか。
お前が飽きたり、
やっぱ無理そうだったら全然見限ってくれて構わねえから」



そう言う静雄さんの缶を持つ手が、
カタカタと僅かに震えていた。
俺の些細な言葉や行動、
その一つ一つが彼を震えさせ、
こんなにも臆病にさせる。
それは全て、この人が俺の事をすきだから。
恋という感情がこんなにも人を弱くさせるなら、
何て素敵なものなのだろうと思えた。
俺も誰かを想い震えていた日があったのだろうか。
(今はもう、それすらも忘れてしまったけれど)



「…いいんですか?
そんなんで」
「え?」
「そんな弱気な態度でいいんですか?
俺飽き性だから、
そんな悠長な感じだとすぐおしまいになっちゃいますよ」
「いや、それは…」



静雄さんが困ったように頭を掻く。
そんなつもりで言ったんじゃないのは分かっている。
けど無性にいじめてみたくなった。
この程度のわがまま、許されてもいいのではないか。


「じゃあ、試しに付き合ってみましょうか?」
「…は?」
「いや、俺も見てるだけとかそういうの性に合わないし、
実際付き合ってみた方が、
お互いの事よく分かるでしょう?
それとも嫌ですか?」
「いや、俺は全然嫌じゃねえ…
てかむしろむちゃくちゃ嬉しいんだけど、
お前はそれで…いいのか?」



静雄さんが伺うように俺を見つめる。
俺自身、なんでこんなこと言い出したのか分からない。
けれど彼のその真剣な眼差し、
まっすぐな言葉達が、
余りにも雑じり気のないきれいなものだったから、
俺の冷え固まった心が僅かながらに動かされた。
この目の前の人を好きになりたいと、
そう思えた。
俺は肯定の意味で静雄さんに手を差し出した。
彼はその手を見てぱっと頬を赤くさせると、
恐る恐る手を握ってきた。
重ねられた手は大きく骨張った、大人の男のものだった。
その手が今は緊張の為か、しっとり汗ばんでいた。



「…やべぇ」
「?」
「俺、今めちゃくちゃ嬉しい。
生きてきて一番嬉しいかもしれない」



そう言って静雄さんは、頬を赤らめ照れ臭そうに笑った。
その顔は本当に嬉しそうで、
繋がった手から彼の熱が伝わったのか、
俺も自然と笑っていた。







エロの反動でぴゅあぴゅあなのが書きたくなった。
つづきます。












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