*『水蜜桃の人』続きです。ぬるぬるしたエロです。




その少年からはかぐわしい、
性の薫りがする。
甘い蜜のようなその香りは鼻孔を刺激し、
俺は呼び起こされる下半身を抑えるのに必死だった。
けれど目の前の少年はこの俺の苦しいまでの葛藤に気付く事もなく、
先程から真剣に盤の駒を見つめている。
そして一つの駒をつまみ上げると、
『カチッ』と小気味良い音を立て盤面に打つ。




「王手です」
「…え?」
「え、じゃありませんってば」



ほら、と言われ指差された盤の上には、
確かに桂馬に次の一手で差される王将が居た。
いつの間にこんな事なってたんだよ。
自分の駒と桂馬を何度も見比べる俺を見て、
少年は嬉しそうに口角を上げる。



「ダメっすよ静雄先生、
対局中にボーッとしてちゃ。
集中っすよ集中」



そう言って至極楽しそうに笑う少年を見て、
俺は悔しさと可愛さに頬を熱くした。




『俺、小さい頃からおじいちゃん子で、
昔からよく将棋の相手させられたんすよねー』



紀田は将棋部の部長だった。
その事実を知った時、
『やった!』と喜ぶ気持ち以上に、
血の気が音を立てて引いていった。
俺は紀田に欲情してる。
この気持ちを抑える為にと着任した将棋部顧問なのに、
(かなり無理矢理だったが)
まさかその将棋部に紀田が居るなんて思いもしなかった。
しかも他に二人居ると聞いていた部員も、
初日俺の顔を見た瞬間、
真っ青になってそのまま来た道をUターンしていってしまった。
それ以来あの二人は見ていない。
けれど二人きりとなると、
いよいよ俺にとってこの状況はヤバイ。
ぼうっとしてるとすぐに桃色妄想に耽ってしまう俺。
そして目の前には、
脳内であんあんと喘ぐ魅惑の少年紀田。
妄想の内はまだいい。
けれどいつか歯止めが効かなくなって、
この少年を組み敷いてしまったらどうしよう。
その細い両手首を一気にまとめあげ、
剥き出しになったその胸板や太股に、
舌を這わせる。
そんな俺を見て泣いて『やめて』と懇願する紀田…。
いつの間にか始まった妄想にはっと我に返り、
慌てて頭を振る。
とにかくこんな状況危険過ぎる。(紀田が)
今からでも教頭に掛け合って他の教師と代わるべきだ。
しかし俺のそんな危惧は、
いらぬ心配で終わった。
紀田は顧問の癖に何も知らない俺に、
懇切丁寧にルールや駒の種類を教えてくれた。
盤面で顔を突き合わせての指導の為、
最初はすぐ妄想にトリップしそうになったが、
紀田の本当に嬉しそうに輝かせるその目を見ると、
何だか申し訳無くなり妄想も自然と引っ込んだ。
そして最初は嫌々始めた将棋だったが、
やってみると意外に集中できて、
次の手を考えている間は、
妄想せずに済んだ。
そして何より、
俺は紀田とよく喋るようになった。
部室では勿論、授業後の廊下、
昼休みの食堂等ですれ違うと、
紀田はどんなに遠くに居ても手を振って駆け寄って来てくれた。
俺は次第に欲情とは別の想いを募らせるようになった。
ああ、俺コイツが好きだ。
今までエロばかりで忘れかけていたが、
元々恋はしていたと思う。
将棋部に就いてから2人の時間が多くなり、
想いは日に日に大きくなっていった。
以前は無理矢理系の、
乱暴に抱くイメージばかりだった妄想も、
今では可愛らしく恥じらう紀田を優しく抱いている。
(妄想してる事に変わりねえじゃねーかとかのツッコミは無しだ)
また違う方向に悩みは転んでしまったが、
今のこの気持ちに後悔はない。
俺は紀田が好きだ。
この想いは真剣だった。




色とりどりに輝くネオンに行き交う人々の楽しそうな表情。
揺らぐ俺の視界に、
ぼんやりと重い頭。
あやふやな記憶を手繰り寄せる。
えーっと、確か期末試験後の教師の打ち上げに初参加して、
苦手なビールを一気飲みして、
店を替えて、
心配する新羅先生と別れたとこまでは覚えている。
そっから…。
そこで意識は中断された。
急激に下がる血の気とせり上がる吐き気に、
俺は急いで路地裏に駆け込んで口まで来ていた物を一気に吐き出す。
よく覚えていないが、これだけは確かに言える。
俺は酔っていた。
とりあえずあらかた吐いたが、
それでもまだ覚めやらぬ酔い。
俺、どれだけ飲んだんだ。
震える膝に力を込め何とか立ち上がる。
立った瞬間脳がくらりと揺れたが、
ふらふらの足を引きずり家路へと急ぐ。
ここでぶっ倒れてなんかみろ。
懲戒免職ものだぞ。
終電も終わっている為、
ふらふらと歩いて帰る。
明日が土曜日で本当に良かった。
どれくらい歩いただろうか。
ようやく見慣れた風景が広がり、
俺は疲れた体を引きずり近所の公園へと入る。
さすがに疲れた。
少し休憩して帰ろう。
すぐ側にあったベンチに座り、
ずるずると項垂れる。
普段飲み慣れないものを飲むんじゃない。
大分時間も経ったというのに未だに定まらない視点に舌を打つ。
口内が酒と吐いたものでネチャネチャする。
何か口を濯ぎたい。
けれど立ち上がる事すら面倒だ。
次第に重くなる瞼にこのまま寝てしまおうかと考えていると、
遠くから『せんせい』と呼ぶ声が聞こえた。
何だようるせーな寝かせろ。
大体こんな疲れてる時に先生とか呼ぶな仕事じゃねーんだから。
どうせなら紀田連れてこい紀田。
無視していると、
次第にその声は大きくなり肩を揺すられる。
俺は仕方なく重い瞼を押し上げた。



「先生!
起きて下さい!
風邪引いちゃいますよ!」
「…紀田?
お前何でこんなとこ居るんだよ」
「俺んちこの近所なんですよ。
コンビニの帰り公園見たら先生に似てる人いるなーと思って…」
「…分かった。
お前俺の妄想だろ?
最近出てこねえと思ったらこんなリアルなの現れやがって」
「はぁ?何訳わかんない事言ってるんすか?
…ってうわ!
酒クサ!!」



俺はそのまま目の前の紀田に寄りかかった。
その肩や腰の細さに頭がクラクラして、
何も考えられなくなる。
紀田が俺を起こしにかかろうとするが、
体格差があり過ぎてふらふらとよろけてしまう。



「〜ちょっとー!
自力で立って下さいよー!」
「紀田ァ、何でお前はそんなに可愛いんだよ」
「酔っ払いが何言ってるんですか!
ほら、立って下さい。
とりあえず俺んち来て下さい。
すぐそこなんで」
「…悪い、そこまでモタねえわ」



そう言っていきなり立ち上がると、
その反動で紀田は後ろにひっくり返る。
『いってぇ〜』と尻を押さえる紀田の姿にすらムラムラ来て、
俺はその手首を掴み立ち上がらせた。
何事かと慌てる紀田の手を引き、茂みへと連れ込む。


「ぇ、何?
ここで吐いちゃうんすか?」
「紀田ァ、俺やべぇんだわ」
「ぇ、そんなに気持ち悪いんですか!?」
「じゃなくて」



掴んでいた紀田の手を無理矢理俺の股間に押し付ける。
怒張して今にもはち切れんばかりのそれに、
紀田の顔がどんどん赤くなっていくのが暗がりでも分かった。



「お前のせいでここがヤバい。
責任取れ」
「…は?」



紀田の背をすぐ側の木の幹に押し付け、
その薄く開いた唇に、
目を開けたまま噛みつくようにキスをした。
紀田の瞳がみるみる大きくなり、
舌をねじ込んでやるとキュッと目を固く閉じた。
あぁ、その表情も可愛い。
見慣れない私服の白いパーカーの中に手を差し入れた。
紀田の肩がビクリと大きく揺れ、
ジタバタと暴れだすが、
そんな些細な抵抗大人の俺の力には全然敵わない。
むしろ嫌がるその素振りに、
俺の欲情はより一層掻き立てられる。
吸い付くような肌に手を這わせ、
目的の突起を見つけるとそれを軽く捻ってやる。
『あぅ』っとくぐもった声が俺の喉に吸い込まれていった。
そのまま優しく捏ね回していくと、
指の間でぷっくりと膨れ上がっていくのが分かる。
紀田の息が上がっていく。
息苦しいのかどんどんと胸を叩かれた。
唇を離してやると、
2人の間でねっとりと唾液が糸を引いた。
顎にも唾液が伝い、
余程苦しかったのか紀田が涙目で俺を見上げる。



「ちょ…、先生。
何すんの」
「いいから黙ってろ」



そのまま頭を紀田のパーカーの中に突っ込み、
すっかり立ち上がった乳首に舌を這わせた。
頭上から甘い嬌声が降ってくる。
きゅっとシャツの肩を掴まれた。



「どうだ?
気持ち良いか」
「せんせい…
もう…本当にやめて…」
「とりあえず一回イッとくか」



俺のその言葉に紀田は顔を青くさせた。
紀田の股間に膝を押し当てる。
そのまま些か強めにぐりぐりと力を込めた。
加減の無い刺激に、
先ほどまでとは比べ物にならない位の高い声が上がる。
紀田の膝がガクガクと揺れた。



「すげぇエロい反応…。
きもちいか?」
「ぅぁ、あぁ…」
「きもちいに決まってるか」


そのまま胸の突起や細い首筋に舌を這わせてやると、
紀田の喉から絶え間なく声が上がる。
虚ろな瞳からは、ぽろぽろと涙が零れていた。



「せ、先生…膝、もうやめ…」
「何だ?イクのか?」



紀田が苦し気に何度も頷く。



「じゃあそのままイけよ」



紀田の目が大きく見開かれる。
ちゅうと音を立て乳首に吸い付き、
膝でぐいっと股間を押し上げた。



「ーッぁ!」



一際高い嬌声が上がり、
紀田の背がくっと弓なりに反らされる。
デニム越しから、紀田の股間がじんわりと熱くなっていくのが分かった。
脚の間から膝を外してやると、
ずるずるとそのまましゃがみこむ。
俺も一緒にしゃがみこんで、
だらしなく唾液を垂れ流しているその唇に触れるだけのキスをした。



「そんなにヨかったか?」



聞いても返事はない。
ぜえぜえと荒い息だけが聴こえる。



「悪いけど、まだ終わらねえよ」



その言葉に紀田が顔を上げた。
その顔からはいつもの笑顔が消え、
今は固く強ばっている。
ああ、その顔も本当に可愛いな。
酒のせいなのか紀田の魅力か、
未だに頭はふらついている。
夜はまだ長い。







すんません続きます。










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