*男子校設定でお願いします。







『魔性』。
紀田正臣という生徒を一言で表すなら、
まさにそれだった。
まず顔がめちゃめちゃかわいい。
(同じ男を差す形容詞としては適当ではないと思うが)
きめ細やかな日に焼けない肌も、
零れ落ちそうな程大きな目も、
身長にしては華奢な細い肩も、
本当に俺らと同じモンが付いてんのかといらぬ心配をしてしまう程、
すべての作りが美しかった。
次にとても愛嬌があった。
誰にでも愛想がよく、よく笑い、
生徒どころか同僚達からも若干ビビられてる俺にすらなついてくる。
そして故意的なのか無自覚なのか、
彼の所作一つ一つからは、
男にはあるまじき異様な色気があった。
彼はその色気を男子校故の気の緩みで、
隙だらけに惜しみ無く振り撒きまくっている。
しかし彼が何の気なしにするその振る舞いも、
男だらけこの学校では酷く毒だ。
彼の周りには学年、教師問わず人が集まり、
禁断の恋に胸を焦がす輩が後を絶たないでいた。
転任して来たばかりの頃、
要注意人物として彼の話を校長から聞いた時、
『そんな馬鹿な話があるか』と鼻で笑った。
男が男を狂わせる。
それだけでも余り俺の周りでは聞き慣れなかった話なのに、
それが教師をも巻き込む学校全体の問題になるなんて。
(『馬鹿馬鹿しすぎるだろ…』)
どうせちょっと可愛い感じのガキが、
女に飢えた同じガキ共に軽いアイドル扱いされてるくらい。
そう思ってた俺が甘かった。
最初は『これが噂の紀田正臣か』程度にしか思っていなかった。
けれど転任して一月後には、
俺もすっかりこいつの毒に侵されていた。
恋なんて可愛いものじゃ収まりきかない。
俺は明らかに紀田に性欲が湧いている。
最初はちょっとオナネタに出る程度だった。
たまには好きな奴でも出してみるかくらいの気持ちだった。
けれど気まぐれに出演させてみると、
思いの外興奮出来た。
度々の出演が頻度を増し、
今ではすっかりレギュラー化していた。
借りてくるAVも教師と生徒モノが多くなり、
その女優を紀田に当てはめては抜いた。
夢にまで出るようになった。
夢の中での紀田は普段より幾分高い声で喘ぎ、
俺の下で淫らに啼いた。
結果、この年になって下着を汚して起きる羽目になった。
汚れた下着を風呂場に洗いながら、
徐々に冷静になっていく頭でさめざめと後悔する。
このままじゃいけない。
これは問題だ。
教師が生徒に痴情を抱くなんて、
あるまじき行為だ。
抜いた次の日、学校で紀田を見かけると、
興奮やら後悔やらで頭がぐらぐらと揺れる。
もう嫌だ、
考えたくない。
そう思っても紀田を一目でも見かける度に、
俺の馬鹿な頭はすぐに妄想の渦に呑まれた。
教師の為に設けられた狭い喫煙室で一人ため息をついていると、
隣に誰かが座ってきた。
物理の新羅先生だ。
この人は婚約者と同棲中とやらなんやらで、
この学校では数少ない、
紀田の毒牙(?)かかっていない奴らの一人だった。
よく話しかけてくれるけど、
喫煙室で見かけたのは初めてだった。



「お疲れ様です」
「お疲れ様です。
新羅先生って、喫煙者でしたっけ?」
「平和島先生、
何か悩んでいる事がおありでしょう」



俺の問いは難なくスルーされ、
いきなり言われた一言に俺はギクリとさせられる。



「どうしたんすか急に。
まあ確かにまだ学校には慣れてないですけど…」
「そんな話じゃなくて、
もっと別の話ですよ」



何なんだこの人。
前々から変わった人だとは思っていたが、
エスパーか?
どこまで読まれてんだ?
思わず非現実的な事が脳裏を過る。



「駄目ですよ。
教師ともあろう者がそんな雑念ばっかりだと」
「いや、俺もそう思うんですけど、
どうにも頭が言うこと聞かなくて…」




思わず知っている定で喋ってしまった。
けどもうどうでも良かった。
一人で抱え込むには余りにも辛すぎた。



「平和島先生…それは心に隙があるからですよ。
集中して下さい」
「集中…ですか」
「そう。
もっと別の事に集中力を高めれば、
邪な念なんて涌いて来ませんよ」



なるほど、確かにそう思えてきた。
スポーツにしろ何にしろ、
何かに打ち込んでいる間は紀田の事も考えなくていい。
もうこの淫らな想いに悩まされずに済むかもしれない。
目の前の新羅先生の背後に、
後光が差して見える。
一筋の救いの糸を垂らしてくれた新羅先生に礼を言おうとしたその時、
彼はにたりと口角を上げた。


「で、平和島先生。
将棋、やってみませんか?」
「は?」
「いや〜、実はずっと設立を申請されてたんですけど、
顧問をやってくれる人がいなくって」
「あの、ちょっと」
「平和島先生まだ何処の顧問にもなってないですし、
丁度いいですよね。
じゃあ、よろしくお願いします」
「は?いや…、
え?」



まんまと騙された。
気が付いたらあっという間に将棋部の顧問にさせられていた。
放課後仕事が終わったらこれからジムにでも通おうか。
そう思っていたのに、
明るいジムライフの夢は一瞬で消えた。
それも将棋部によって。
自慢じゃないが俺の将棋の知識なんて『羽生名人』程度しか無いし、
将棋崩しくらいしかやった事ない。
どうせなら五目並べ部とか、
オセロ部とかの方が良かった…。
しかし幾ら悩んでもそんな部無いし、
将棋部顧問という役職も消えない。
いつの間にか部活の日が来てしまった。
出来たばかりの将棋部はまだまともな活動場所も無い為、
特別棟にある普段滅多に使わない第二社会科教室が、
とりあえずの活動場所となった。
『もう生徒も来ている筈ですよ』と、
職員室で新羅先生に見送られた。
もう彼の背に光など差していない。
とうとう教室の前に来てしまった。
しかし扉を開けるには気が重い。
大体なんだ将棋部とか。
今時の若い奴らがやるには渋すぎだろ。
もっとはじけろ。体動かせよ。
ジムとか、水泳とか、ジムとか。



「何ぼーっと立ってんすか?」
「うわ!」



余りに考え込み過ぎて、後ろに生徒がいる事に気づいてなかった。
『悪い』と言いつつ振り向き、
頭ひとつ分下にある人物の顔を見る。


――と同時に、大きな音を立てて扉に背をぶつけた。



「ー紀田正臣っ!」
「はい?」
「何でテメェがここに!?」
「何でって、これから部活なんすけど――
もしかして、静雄先生将棋部顧問なんですか?」



ビビりまくって声も出ない俺は、
黙って頷くので精一杯だ。
すると紀田の不審そうな顔はみるみる内に華やいで、
あろう事にも俺に抱きついてきた。
あの紀田が俺の腕の中に。
そう思うだけで桃色の靄が頭を霞み、
下半身がむくりと起き上がりそうになる。



「はっ!?
おまっ!?」
「嬉しいっす!
俺、ずっと申請してたんですけど、
誰も顧問になってくれなくって…」



紀田が俺の胸から顔を上げ、にこりと微笑む。



「ありがとうございます!
これからよろしくお願いしますね、
センセ♪」



紀田のその『センセ』の一言が、
今まで何度も妄想してきた淫らな紀田の嬌声と重なった。
視界が靄で、完璧に塞がった。







静正はこんなアホ話が似合う。
続きを書くなら間違いなく、
サイト初のエロになると思います(ぇ








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