仕事終わりの深夜2時過ぎ。
今日は朝から仕事が四件もぶっ通しで、
上がる頃には俺もトムさんもへとへとだった。
ここんとこ睡眠時間も少ないし、
もう今すぐにでもぶっ倒れそうだったが、
何故か燻る俺の体。
(主に下半身)
明日は久々の休み。
風俗に行く金もなく、
こんな時に呼べる女もいない俺は、
帰り道にある黄色い看板のレンタルDVD屋に立ち寄った。






レンタル彼氏









「いらっしゃいませー」



狭い店内にところ狭しと並ぶ、
DVDの山、山、山。
深夜だと言うのに金曜だからか、
カップルや学生が多かった。
そんな彼らを横目に、
洋画コーナーも邦画コーナーも突っ切り、
目指す先は赤いカーテン。
狭い店内の更に狭い一角に、
先程以上に密集された、いわゆるアダルトビデオ達。
ここ数年特定の女もいない俺は、
ぶっちゃけアダルト以外全く借りねえ。
時々動物ものを借りるくらいで、
それでも数ヶ月に一本。
レンタル履歴を遡れば、九割九部酷い事になってる筈だ。
厳選に厳選を重ね素人ものを三本、
あと気に入りの女優の新作が出てたのでとりあえずそれも取っとく。
全部見れる暇は100%無いけど、
適当に見繕ってる間も楽しいし、
そん中で当たりを見つけた時の、
意味不明な満足感、達成感はたまらないので、
こうして月に2、3度借りに来る。
今日も二週間ぶりの来店だ。
上司であり、同じ常連客のトムさんが言ってた。


「いくつになったって、
男はガキだ。
エロと食いもんにがっつくとこは、
中坊ん時から変わらねえ」

まさしくそうだ。
現に死ぬほど疲れてる筈の今でも、
俺はこうしてエロを求めてる。
今日は結局4本選んで、レジに並ぶ。
普段は客も店員もまばらで、
こんな時間だと並ばずに即レジなのに、
今日は珍しく列が出来ていた。
そう言えば普段は客も店員ももっとむさ苦しいおっさんとかばかりなのに、
いつもより雰囲気が活気づいてる。
並んでいる間ぼーっと帰った後の事を考える。
とりあえず寝る前に一本は見たいが、
何から見よう。
風呂はめんどいし明日でいいか。
ぁ、そういえばビール切らしてたし、
帰りにコンビニも寄るか。

「お次のお客様、お待たせしましたー」

考えてる間に俺の番が来たらしい。
店員に呼び掛けられた。


「メンバーズカードをお願いします」

慣れた手つきでポケットから財布を出し、カードを探す。
が、二週間ぶりの来店と、溜まりに溜まったレシートで、
目当てのカードがなかなか見つからない。
畜生、並んでる間に出しときゃ良かった。
探してる間にも後ろに新たな列が出来てきているのが分かる。

「カード、お忘れですか?」
「いや、ちょっと待て…」

するとカードの束の奥に、ようやく目当ての物が見つかった。

「すんません。ありました」

そう言ってカードを店員に渡そうと顔を上げた。
目が合いニコッと微笑まれる。


「いえ、全然大丈夫ですよ」


途端、頭を後ろからぶん殴られたような錯覚に陥った。
目の前には普段のむさい店員とは違う、
若い少年が立っていた。
サラサラと音がしそうな程櫛の通った明るい茶髪。
男にしては真っ白いきめ細やかな肌。
長い睫毛で縁取られた大きい猫目。
声を聞かなければ、到底男とは分からない。
ぇ、誰だこれ。
つかこんな店員いなかったぞ。
彼の胸ポケットに付けられたネームプレートを見た。
『研修生 紀田』

呆然としてる間にカードを返され、またニコッと微笑まれる。
その笑顔に思わず頬が熱くなった。
ヤバい。
何だこれ。
その笑顔の眩しさに心臓が早鐘を打ち、
思わず視線を反らす。
けれど目の前の彼は俺をじっと見つめてくる。

「あの…」
「あ?はい」
「すいません、商品お預りさせて頂いて大丈夫ですか?」


その言葉に、熱くなった顔から一気に血の気が引いた。
俺の手にある商品。
それは誰の目から見ても分かる、
AVの数々…。
戻って取り換えて来ようか。
しかし後ろの列の奴らの
「さっさと会計しろ」オーラが、
冷たく俺の背筋を冷やす。
目の前が真っ暗になった…。





「ありがとうございましたー」


明るい声を背に、自動ドアをくぐる。
俺の手にしっかりと握られた袋の中には、
厳選されたAV達。
あの選んでいる時のわくわく感は一気に消え、
今では逆に恨めしくも思えるそれ達。
深いため息が自然に口から零れた。
もう当分ここには来れないかも知れない。
けれど…。
先程の彼の眩しい笑顔。
思い出すだけで自然と顔に熱が昇る。
次は、映画でも見てみようかな。
ジブリとか。
袋を片手に帰路につく。
自然と足取りは軽かった。









静雄の扱いが酷くてすんません。
続くかも。






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