【不動→円堂】 | ナノ

ж不動→円堂




「おい、円堂」
「ん?」


イナズマジャパンのジャージを着て、不思議そうに振り返った円堂は呼びかけにこてりと首を傾げた。
珍しく二人きりの時間。
買出しのクジではずれを引いた不動に、一人じゃ大変だからと進んで手伝いを申し出たお人よしは、今日も無駄に機嫌が良さそうだった。
がっさがっさと振られる荷物の中に、確か揺さぶってはまずいものもあった気がするが注意する気はさらさらない。
合宿所に戻って注意されればいいんだ、なんて意地の悪いことを考えながら大きな栗色の瞳を見詰めた。


「お前さ、今日は何の日か知ってるか?」
「今日?」
「そ、今日。マネージャーたちからチョコ貰ってたろ」
「ああ、勿論知ってるぞ。今日はバレンタインだろ?」


にかっと笑みを浮かべた少年は、当然だとばかりに頷いた。
その反応に微かに目を見開く。
正直、彼がバレンタインなんてイベントを知っていると思ってなかった。
サッカー馬鹿を絵に描いたら円堂守になるんじゃないかと思えるくらいにサッカー中心の生活を送っているくせに、恋愛なんて興味ありませんて顔で意外と卒がないのだろうか。
眉根を寄せた不動の反応に苦笑した円堂は、頭を掻きながら自白する。


「実は、俺も朝まで忘れてた。音無がチョコくれるときにさ、ハッピーバレンタインデー!ってくれたんだよな」
「・・・ああ、そういう」
「日頃の感謝を込めたって言ってたから義理だろうけど、もらえると嬉しいよな。バレンタインに母ちゃんのだけだと結構寂しいし」
「お前は、何だかんだ言って毎年数人から貰ってそうだな」
「あれ、何で判るんだ?」
「当たりかよ・・・」
「おう!クラスの女子連盟とか、今年は秋と夏未からも貰った。皆いい奴だよな」


へへっと照れくさそうに笑う彼には、残念ながら想いは届いていないだろう。
幾つも貰う義理に混じり、心が篭った本命チョコ。
彼みたいな性質の悪い男に惚れた女が悪いのだろうが、鈍い相手に玉砕していく姿が目に浮かぶ。
円堂みたいなタイプは無駄に誰にでも公平で、人を惹き付けるくせに頓着しない。
憐れなものだな、と同情しなくもないが、ざまあみろとの気持ちが正直なところだ。

何しろ、今の話を聞いて大体を推測した不動は、悔しいけれど安堵している。
『女』というだけで彼の特別になりえる彼女達に、円堂を奪われる心配はないとホッとしている。

誰かに依存したくなかった。特別なんて作りたくなかった。
それなのに勝手にずかずかと土足で人の心に上がりこんだ円堂は、さっさと居場所を整えると厚かましくも居座ってしまった。

真っ直ぐに『信じる』と訴える彼が忌々しくて仕方ない。
彼がそう告げる人間なんて両手両足の指を使っても数え切れないほどなのに、まるで唯一の特別になったと錯覚させられる。
綺麗な瞳や、無邪気に曝け出される心。諦めないサッカースタイルも、柔軟な彼の存在全てが特別で、にっちもさっちも行かない場所まで追い込まれていた。

男にこんな感情持つなんて異常だと悩んだ時期はもう過ぎた。
悩んで悩んで悩みとおして、昨日の夜に決めてしまった。

彼が泣いて叫んで喚こうとも、絶対に手に入れて幸せにしてみせる、と。


「円堂」
「ん?」
「ほれ」
「むがっ」


隠し持っていた一口サイズのトリュフを、無理やり口の中に押し込んだ。
手先が器用なので手作りしたそれは、目を白黒させた彼の口内で咀嚼される。
馬鹿みたいだと思いながら作ったが、目の前で段々とにやける円堂を見ていると、作ってよかったなんて柄にもなく考えた。


「何これ?」
「それはバレンタインチョコだ」
「バレンタインチョコ?誰から?」
「俺から、お前への。俺の想いを喰っちまったからには、きっちりと責任を取ってもらうぜ」
「せ、責任!?」
「ああ。これでお前は俺のもんだ。文句があるなら、口にした想いを取り出してみせな」


驚きで栗色の瞳を零れんばかりに見開いた円堂に、年相応の笑顔で不動は笑った。




進むと決めてしまった道


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