ひ  陽がどちらから昇るのか確かめに行こうか | ナノ

ж染岡→円堂


*Web拍手の再録です。
お題は:afaikさまより『夕日影』からお借りしてます。


ひ  陽がどちらから昇るのか確かめに行こうか


「久しぶりだな、染岡」
「───ああ、久しぶりだな、円堂」


にかっとこちらを見て満面の笑みを浮かべた、どこか子供じみた雰囲気の残る青年の笑顔に、染岡もつられて唇が笑みを刻む。
身長は伸びて声が低くなり、肌が少しだけ黒くなってほんのわずか、記憶しているよりも落ち着いた雰囲気。
けど染岡の中では彼は永遠に中学生のまま。
どんな劣悪な環境でもただ一人サッカーを諦めなかった、雷門中サッカー部キャプテン『円堂守』のままだ。


「まさか、お前が錦の師匠だなんて思わなかったぜ」
「ははっ、すっげぇ縁だよな。日本から遥か離れたイタリアで、母校の後輩に会うんだからよ」
「そうだな」


本当に凄い偶然だ。けど今思うと運命だったのかもしれない。
革命の風を起こすのだと、後輩たちは戦っている。
かつて自分たちが全力で駆け抜けたフィールドで本当のサッカーをするのだと、支配サッカーをなくして自分たちのサッカーをするために。
大したものだと思う。今や日本の中学サッカー界全体に及ぶ負の踏襲を自力で打ち破ろうとする、革命の風。
自分たちの後輩は自分たちの足で立ち、真っ直ぐに前を見て、自分たちのサッカーを取り戻そうとしている。
もしかすると───本当にらしくない考えかもしれないが、自分が錦とであったのはこうなるために神様が導いたのではないかと思ってしまうくらいに、懐かしい顔を幾つも見つけて感じてしまった。


「もうすぐにイタリアに帰るのか?」
「ああ。ちょっとしたオフに遊びに来ただけだからな。愛弟子の成果は気になるだろう」


ぱちりとウィンクして告げた言葉は、半分は本当。
だが残りのもう半分は、違う。
確かに染岡は錦が気になっていたし、日本に戻った切欠は彼だろう。
しかし本音の部分では、それを理由にして会いたい相手がいた。
それが目の前の青年、円堂守。
最近イタリアで同じく活躍していた鬼道が日本に戻り、ヨーロッパで活躍してる不動たち旧友から彼の名前を聞いて、会いたくなった。
多分、少しだけ心が弱っていたのだと思う。ここのところ試合でもシュートが中々決まらず、仲間とのチームプレイもギクシャクしていた。

だから自分のはじまりを確かめに来た。
彼は、変わらずあのままなのだろうかと。
世界一のサッカー馬鹿と揶揄した、あの日の円堂守のままなのだろうかと。
彼が彼でいるかぎり、自分は大丈夫だと思える。
卒業し、それぞれの道を歩き、今ではもう滅多に会うことも叶わない。
それでも『円堂守』は、染岡の道の指針だった。

何食わぬ顔で会話をしつつ、大きく胸を撫で下ろす。
大丈夫。
どれだけ離れても、どこにいても、彼は何も変わらない。
立場すら変わり、怪我をして悔しい思いをしてるはずなのに、それでも彼の瞳は相変わらずキラキラと輝いて、サッカーを真っ直ぐに見ている。

風はいつでも彼の背中に追い風だ。きっと革命は成し遂げられる。
今はここに居ない仲間を思い、ひっそりとした笑みを浮かべた。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -