離れてしまえば愛を叫べる | ナノ

ж不動→円堂←天馬


*Web拍手の再録です。
お題は:afaikさまからお借りしてます。
【イナゴ設定:不動→円堂←天馬】


「結局不動さんは、円堂監督が好きなんですか?」


子供ならではの直球の言葉を投げかけた少年に、じんわりと苦笑する。
羨ましいくらい真っ直ぐな子供だ。
同じ年頃の自分を思いだすと、天と地の差があるなと内心でつぶやく。
いや、今でもそうだ。
くるりとした前髪を持つあどけなさを残した目の前の少年天馬と、不動は似ても似つかない性格をしていた。
彼はどちらかと言えば、あの惚けた『キャプテン』を髣髴とさせる。
嫌になるくらい空に向かって背筋を伸ばして立つ子供。
逃げようとしても、拒絶しても、鬱陶しいくらいに追いかけて、『サッカーしよう』と誘ってきた円堂を。

捻くれた子供だった不動は、円堂への好意を素直に表すことは出来なかった。
『好き』と口にすることが恥ずかしくて、照れくさくて、天邪鬼な自分にとってとても難しいものだったのだ。
けど彼は違う。
円堂を好きだと語る言葉に躊躇いはなく、好意を曝け出すのも恐れない。
愚直なまでに正面からぶつかる幼さを羨み、好きだと口に出来る柔らかな性質を妬んだ。

もし。
本当にもし、の話だがあの時円堂に好きと言っていれば何か変わったのだろうか。
高校卒業と同時に、不動はヨーロッパへ渡った。
己の実力を試したかったのも本当だが、円堂への想いを抱えたまま、手が届くかもしれない場所に居座り続けるのが辛かったのだ。
あの時の判断を間違っているとは思わない。
ただ一つだけ思い残りがあるならば、円堂に向かって『好き』と口にしなかったことだろうか。
年を経てしまうと色々なしがらみが出来て『好き』と純粋な気持ちを告げるのすら難しくなる。
それでも抱えた想いを昇華することも出来なくて、燻った気持ちをずっと胸の奥に眠らしていた。


「その質問は、あいつの居ないとこでしてくれ」
「だから二人きりの今聞いてるんですけど」
「違う。もっともっと遠く。俺がどう足掻いてもあいつに手が届かない場所でしてくれっつってんだよ」


クツリと喉を震わせて笑うと、天馬は大きな瞳を更にまん丸に見開いた。
『キャプテン』に似てる気がするが、色恋沙汰では彼のほうが聡いらしい。
言外に告げた不動の想いを敏感に感じ取り、はんなりと眉間に皺を寄せる。
そんな彼の額を指先でつつき、さっさと踵を返した。
なんとなく、月を眺めたい気分だった。
円堂のイメージは太陽なのに、一人で彼を想うときに見上げたいのが月だというのも不思議な話だ。


手が届く場所で『愛』を叫べばもう止めれない。
歪に固まった不確かな実感を胸に、その機会があればいいと願う自分と、来てはいけないと拒む自分。
今は清浄な方向に傾いた天秤がいつか崩れてしまわぬように、ひらひらと降る粉雪のように積んでいた白い純情を黒で染めないように、胸を焦がす想いを溜息と共にそっと逃がした。


離れてしまえば愛を叫べる

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