ささやかで、なによりも真実の幸いのなかで、きみには生きて欲しい | ナノ

ж染岡&風丸→円堂


*Web拍手の再録です。

お題は:afaikさまからお借りしてます。


「お前って、円堂のこと好きだろう」
「っ」


真っ直ぐで飾らない言葉に、思わず目が見開かれる。
夕暮れの雷門中サッカー部の部室には彼のほかに誰もいなくて、思わず周囲を見渡してから胸を撫で下ろした。


「・・・どうしたんだ、突然」
「いや・・・前から気になってたんだけどよ、聞くタイミングがなくて」
「聞いてどうするんだ?」


呆れ交じりの溜息が出る。熱が篭った髪を下ろせば、彼の視線から逃れれるだろうか。
悪気がないだけに性質が悪い状況に、緩やかに首を振った。


「どうって・・・どうするんだろうな」
「何も考えてなかったのか?」
「まあ、な」


ぽりぽりと頬を指で掻いた染岡は、困ったように眉尻を下げている。
しかし困っているのはこちらの方だと、淡い苦笑を浮かべた。
とりあえず彼の中でこの疑問に嫌悪感はないようだし、悪感情も感じない。
染岡ならばいいかと心中で軽く決心してから、唇を持ち上げた。


「好きだ」
「恋愛的な意味で?」
「ああ」
「あいつは男だぞ」
「そうだな」
「それでも好きなのか?」
「ああ」


一つ一つの疑問に肯定する。
的を射た質問は回答に手間が掛からず、もしかするとその疑問をずっと胸で温めてきたのだろうかと、逆に疑問を持つくらいだ。


「俺もだ」
「は?」
「多分、俺もあいつが好きだ」
「好きって・・・お前、わかってるのか?円堂は男だぞ?」
「わかってる」
「恋愛感情で?」
「・・・多分」
「本気で言ってるのか?」
「冗談で言うには性質が悪すぎるだろ、こんなこと」


嫌そうに眉間に皺を寄せた染岡の顔は、夕日の所為じゃなく赤く染まっていた。
もしかすると彼が風丸に想いを確認したのは、自分の想いを確信するためだったのかもしれない。
不器用な友人らしいやり方に、そっと息を吐き出した。


「告白は?」
「する気はねえ。お前は?」
「俺もだ。もし円堂が俺を好きになってくれたらと考えることはあるけれど、あいつはきっと『陽の下』が似合うから」


いつか誰かを好きになって、結婚して、子供が生まれて。
彼はいい父親になるだろう。子煩悩で妻を大切にして、サッカー馬鹿なのは治らないだろうけど、家族団らんが似合う、そんな父親に。
瞼を閉じれば描ける未来図を損なうには、風丸は円堂を好きになり過ぎていた。
もし風丸が想いを告白したら、優しい彼は心底悩んで、迷って、もしかしたら自分の手を取ってくれるかもしれない。
けれど風丸の手を取ると言うことは、世間に対しておおっぴらに出来ない関係を結ぶのと同意で、ずっと隠し続けなければいけない。
円堂にはお日さまの下がよく似合う。日陰を歩くなんて、太陽みたいな彼らしくない。


「───そうだな」


薄い笑みを唇に刷いた友人も、おそらく風丸と同じ心境なのだろう。
胸に抱いた想いを一生しまったまま墓場に持っていく覚悟で、それでも幸せそうに微笑んでいる。

子供だって一生分の恋をする。
この先の誰よりも大切だと想い続ける存在を脳裏に浮かべ、二人きりの静かな部室でひっそりと温かな心を共有した。


ささやかで、なによりも真実の幸いのなかで、きみには生きて欲しい

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