う うんとたくさんの | ナノ

жヒロト&円堂


*Web拍手の再録です。

お題は:afaikさまより『ありがとう』からお借りしてます。


う うんとたくさんの


「うん、そう。それでこのまま証明終了」
「おー・・・終わった」


絶対に終わらないと思っていた課題の最後の一問を終えて、ばたりと机に倒れこむ。
もう頭の中は数字の乱舞だ。
大なり小なりイコールが乱れ、奇跡の証明に涙が滲み出そうになる。


「ヒロト、ありがとうな。折角遊ぶ約束してたのに宿題なんか手伝わせてごめん」
「ううん、気にしないで円堂君。俺の学校も丁度この間ここら辺を終わったばかりだからいい復習になったし」
「俺なんか昨日習ったばっかだけどもうデータが消去されてた」
「ふふ、円堂君の頭はサッカーばっかりだもんね」
「まーな」


サッカーの話題が出て少しだけ元気が戻る。
上体を持ち上げて笑いかけると、奥二重の瞳が柔らかく細められた。
ヒロトは黙ってると繊細な顔の作りも含めてきつそうな雰囲気があるが、笑うととても幼くて可愛い。
以前秋が言っていたけど、円堂と話してるときのヒロトは空気がふわふわしているらしい。
わかるようなわからないような表現だと感じたのを思い出す。
確かに目の前で楽しげに微笑むヒロトは、自分にだけ懐く猫みたいな雰囲気かもしれない。
心のどこかがむずむずとくすぐったくなって、勝手に笑いが零れた。


「どうかしたの?」
「いや・・・前に秋に言われた言葉を思い出してさ」
「なんて言われたの?」
「ヒロトって俺と話してるときは空気がふわふわしてるんだって。今、笑った顔、確かにふわふわしてるなって思ったから」


つい、笑っちゃったと続ければ、軽く目を見開いた後、一拍おいて瞬く間に耳元まで真っ赤に染まった。
口を掌で覆って僅かに顔を俯かせ、もごもごと何事か呟く。
小さなちゃぶ台の向かいなのに、手で遮られた言葉の意味はわからない。


「なんて言ったんだ?」
「・・・どうしようって。俺って、そんなにあからさまだったかな?」
「どうだろ?でも俺が気付くレベルだぞ」
「じゃあ結構あからさまだね。うわー、俺みんなにそんな目で見られてたのか。恥ずかしい」


どうして俺が気付いてたらあからさまなんだと喉元まで疑問が出かかったものの、寸ででごくりと飲み下す。
突っ込みを辞めざるを得ないくらい、ヒロトは理解し難い羞恥で悶えていた。
ごつりと音がする勢いで机に突っ伏した状態からそれきり動かなくなってしまい、暫く見物した後そっと肩に手を置いてみる。
大げさなくらいに跳ね上がった体に円堂のほうが驚いて身を引くと、いつも心が凪いでるように見える彼の動揺が目尻に僅かに浮かんでいた。


「おい、大丈夫か?」
「うん・・・ちょっと予想外のダメージを受けたけど、大丈夫。考えてみれば無意識なんだから気付かなくても当然なんだよね」
「だからみんなは気付いてるって」
「そうじゃなくて、『俺』が。円堂君といるときは全然構えてないし、条件反射で心からの笑みが浮かぶから、みんなが気づかないはずないんだ」
「でも他のやつがいるときも笑ってるじゃん」
「そうだね」


でも違うんだよと眉尻を下げたヒロトに教えられ、どうだろうと首を傾げる。
記憶する限り、鬼道や豪炎寺や風丸や緑川、そして南雲や涼野、砂木沼の前でも特に笑ってる気がする。
勿論他の仲間の前でも基本は笑顔だし、仲だって良好だ。
そうじゃなきゃ世界の天辺を獲るなんて偉業は成し遂げれなかったはずだ。
一体自分と他の違いはなんなのだろう。
考え込むあまり眉間に皺が寄っていたのだろう。不意に細く形のいい指が伸びてきて、ぐりぐりと痛くない力で眉間を押された。


「眉間の皺は円堂君には似合わないよ」
「そうか?俺だって考え込むときくらいあるんだぜ?」
「それはさっきまで目にしてたからわかってるって。そうじゃなくてさ、俺が憧れた太陽みたいな円堂君には似合わないって話。俺の中に居る君はいつも笑顔だから」


すぐ目の前の円堂を見ながら、どこか遠くを見詰めている気がする。
何かを思い出すように瞳を眇めて、くすり、と微笑んだ。
とても優しくて穏やかで満ち足りた表情は、嘗て宇宙人として敵対していた頃よりずっと『人間』らしくて好きだ。
機械的に手段としてサッカーをするのではなく、好きだからサッカーをしてた。
きらきら輝く瞳でボールを追いかけ、フィールドの風を感じ、仲間と心を繋げて、どこまでもどこまでも互いを磨いて高みに上る。
あの仲間との一体感は共有したものにしかわからないだろう。
ヒロトと関わる大半がサッカー関連である限り、円堂は笑顔の印象が強いかもしれない。
そう結論付けると、まるで考えを読んだように笑みを深めた。


「そうじゃない。君はさ、俺の憧れなんだ」
「憧れ?って、立向居みたいにか?」
「立向居君とはちょっと違うかな。彼が君を軽んじてるとかそんな風に考えてるわけじゃないけど、俺の憧れと彼の憧れは種類が違う。俺はキーパーの円堂守に憧れてるわけじゃなくて、『円堂守』その人に憧れてるから」
「・・・俺は別に憧れる部分なんてないと思うぞ」


心底不思議だと訴えれば、ふにゃりと子供みたいな顔でヒロトが笑った。


「君が気付かなくても、俺は君の魅力をたくさん知ってるよ。君から貰った沢山のものは、俺の心に息づいてるんだ」


心底嬉しそうに彼はそう告げるから、円堂もまた同じくサッカーを前にしたときみたいに満面の笑みを浮かべた。
抱えきれないほどのものをもらったのはお互い様だと教えたら、ヒロトはどんな顔を見せてくれるのだろう。
僅かばかりの好奇心で彩られた言葉を口にするまで、カウントは残り数十秒。

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