が 願を掛けた日 | ナノ

ж鬼道&円堂


*Web拍手の再録です。

お題は:afaikさまより『ありがとう』からお借りしてます。


が 願を掛けた日



「・・・駄目だ。全然終わらない」
「終わらない、じゃない。終わらせるんだ。課題が終わらなければ、サッカー部の練習に参加できないのはお前もわかってるだろう?」
「わかってるんだけどさー」
「わかっているなら口を動かさずに手を動かせ。こうしている間にも時間は過ぎている」


さらりと真実ゆえに厳しい言葉を投げかけた親友は、それきり自分の課題に意識を集中させた。
円堂が苦戦している学校の宿題より遥かに難易度が高く、分厚いテキストを捲る手は一定のスピードが落ちない。
頭がパンクしそうな数字の羅列を眺めて、よくあんなに早く計算が出来るなと、思わず溜息を吐き出した。
そんな分厚いテキストが家庭教師から五教科分出ているのに、わざわざ忙しい時間を割いてくれたのは鬼道の優しさだとわかっている。
昨日のサッカー部の練習の後、イナズマジャパンが解散してから正式に雷門中サッカー部の監督として就任した久遠から出された春休みの練習に参加する条件の期日は明日。
残り二十数ページを二日の間に自力で終わらす自信がないとぼやいていたのを、どこかで聞いていたのだろう。
おそらく雷門の中でも一・二を争うほど忙しい彼は、円堂のために過密スケジュールを調整してくれたのも、口が裂けても絶対言わないだろうけどちゃんとわかってる。
だから彼のためにも頑張らなくてはと思うのだけど、処理能力が追いつかないのだ。


「うー・・・頭が爆発する」
「大丈夫だ。人体が自然と爆発することはありえない」
「そんなのわかってる。比喩表現だよ」
「比喩表現なのもわかっている」
「わかってるのもわかってる」


ぐたりと上半身を伸ばして机に懐き倒す。どうも数字の羅列が脳内で乱舞して纏まらない。
方程式を一度頭に入れてしまえば案外と点数を稼げる科目だが、正しい方程式を頭に入れるまでが長かった。
ひんやりした机に頬を押し当てたまま、壁に掛かる時計を見れば、もう二時間が経過していた。


「二時間で五ページか。あー!俺も鬼道みたいに頭良ければな」
「・・・なら俺と同じ時間勉強をしてみるか?」
「ごめん、軽はずみでした。お前や豪炎寺が頭いいのは勉強してるからだもんな。でも、こんなんじゃ俺来年は本気でヤバイな」
「今からもう夏休みの課題の心配か?気が早いな」
「違うって。課題じゃなくて受験の話だよ。俺たちも来年だろ?」
「お前の場合、苦手意識をなくせばそこそこいけるだろう。サッカーに対する集中力を勉強に向ければいいんだ」
「それが難しいんだって。でも鬼道に太鼓判もらえるなら、大丈夫かな?」
「?」
「俺、お前らと同じ高校に行きたいからさ」


下から見上げた鬼道は、つり上がり気味の瞳を軽く見開いた。
今日は彼の私室にいるせいか、普段掛けているゴーグルもなくシャープな顔立ちが露になっている。
きつく見える印象のルビーアイが実は結構大きくて、綺麗な顔だと感心した。
豪炎寺もそうだが、鬼道も『美形』と称しても十人中九人は同意してくれそうな端整さだ。
彼らみたいになりたいと思うわけじゃないけれど、つくづく格好いい。
戸惑いに視線を揺らす幼い仕草は、人を選んだ限定ものだ。
無意識に一歩引いた位置に立つ鬼道は感情を露にするのが苦手で、円堂のように感情に沿って動くタイプと違う。けど性格が全然違うからしっくりくる関係もある。
円堂は、鬼道が見せる素直な表情が気に入っていた。


「どういう意味だ?」
「どういうって、そのまんま。お前らは頭いいからレベルの高い高校を狙うだろ?」
「・・・お前は高校に特待生としてスカウトがきてるだろう?」
「それはお互い様だろ」
「断るのか?」
「ああ。俺はお前らと同じ高校でサッカーしたいし」
「俺たちがお前にあわせるという考えは?」
「俺の我儘なんだからお前らがあわせる必要ないだろ」
「俺と豪炎寺の志望校が違ったらどうするんだ」
「あ・・・」
「考えてなかったのか。───まったく、お前らしい」


内面から思わず出てしまったと言わんばかりにじんわりとゆっくり笑みを浮かべた彼は、眉を下げて仕方なさそうに溜息を吐く。
冷静沈着な思考を持つ司令塔として、穴だらけの円堂のプランはどうしようもないのだろう。
机にへばりついていた上半身を重力に逆らって持ち上げて、頭を掻いて誤魔化すようにテキストのページを捲れば、くつりと小さく喉が鳴る。


「いいだろう、それなら俺が空いてる時間を駆使してお前を鍛え上げてやる」
「へ?」
「豪炎寺にも頼もう。あいつも喜んで協力すると思うぞ。ああ、そうだ。高校をどこにするか選ばなければな。俺個人として選別していた高校はいくつかあるが、まずそこの資料からだ。いいか、円堂。勉強は毎日の積み重ねだ。俺たちが絶対にお前を同じ高校に連れて行くから覚悟しておけ」
「覚悟って、おい、鬼道?」


早過ぎる展開に置いてけぼりの円堂をおいて、何故か張り切った鬼道は、机の上に置きっぱなしだった携帯を手に取りいきなり通話を始めた。
相手は豪炎寺らしく、端々から聞こえる言葉から、円堂についての『特訓』の話だとわかる。
確かに二人と同じ高校に行きたいと望んだのは自分だ。
だが、それにしても、明日から毎日二人に課せられた分だけ予習復習を繰り返すって唐突過ぎやしないだろうか。
まだ春休みの課題だって大量に残っている状態で、どう考えてもキャパシティオーバーだ。
通話を終えた鬼道にすがり付いて訴えれば、嫌に爽やかな笑顔で断言された。


「大好きなサッカーはあれだけ頑張れるんだ。明日からは勉強もサッカーと同じくらい好きになれ」


そんなの無茶苦茶だと叫んだけれど、明るい表情の天才司令塔は『大丈夫』と何故か自信満々に切り捨てた。
明日から受験日まで毎日勉強するのを約束させられたものの、始める前からやりきる自信が持てないのはどうしてだろう。

塵も積もれば山となる。
この行為が二人の願掛けと知ったのは、高校受験結果発表の当日だった。

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