あ 諦めは悪い方だけど | ナノ

ж豪炎寺&円堂


*Web拍手の再録です。

お題は:afaikさまより『ありがとう』からお借りしてます。

あ 諦めは悪い方だけど


「俺、豪炎寺に会えてよかったな」
「・・・どうしたんだ、いきなり」


ひっそりと柳眉を顰めた親友を見て、円堂は小さく笑いを零した。
イナズマジャパンが世界制覇を遂げる前から格別な支持を受ける彼の顔立ちは、同性の自分から見ても本当に男らしく整っている。
そして見た目だけじゃなく、中身だって相応に格好いい。
イナズマイレブンが再び日本各地に名を広める切欠は、彼の存在あってのものだろう。
そうじゃなければもう一人の親友とこれほど親しくなれていなかっただろうし、雷門で共にサッカーに熱中している仲間達はばらばらになっていたかもしれない。


「運がいいんだよな、結局。俺は仲間に恵まれてる。お前も、鬼道も、風丸も、染岡も、それにマックスや半田や目金たちだって。今だから言えるけど、結構ギリギリの細い糸を綱渡りしてたし、一つでも別の選択肢を選んでたら今の俺はなかった。染岡と半田と秋がいなければサッカー部は成り立ってなかったかもしれない。入部してくれた一年生がいなければ帝国学園との試合に間に合わなかったかもしれない。あの日河川敷で小学生チームとサッカーしてなければお前と会えなかったかもしれない。そうしたらお前をサッカーに誘おうとしなかったかもしれない」
「・・・・・・」
「帝国学園との試合にお前が来てくれなかったら鬼道とは親友になれなかったかもしれない。鬼道と親友になれなかったら全国制覇なんてなかったかもしれない。全国制覇できなかったら宇宙人と戦うチームに選ばれなかったかもしれない。そうしたらヒロトや緑川や南雲や涼野や砂木沼にも会えなかったかもしれないし、あいつらが集まらなかったら世界大会で戦えなかったかもしれない。───な?俺って運がいいだろ?一つでもボタンを掛け違えてたら俺たちの夢は夢のままだったんだから」


にへらと笑い掛ければ、戸惑ったように切れ長の瞳を見開いた豪炎寺は、次の瞬間くしゃりと眉を下げて微笑んだ。
凛とした印象が強い彼だが、こうして時折見せる表情は年齢より幼くて可愛らしい。
もっともそんなことを誰かに告げた所で、同意してくれるかは難しいだろう。
豪炎寺がこんな無防備な笑顔を見せるのは、おそらく親友である円堂か鬼道、妹の夕香の前くらいなのだから。


「それは相手がお前だからだ。雷門中サッカー部のキャプテンがお前じゃなければ、俺をもう一度サッカーに誘ったのが『円堂守』じゃなければ、きっと俺は留まった状態から進めなかった。他のみんなもそうだ。お前が最後まで諦めずに全力で戦って、心の底からサッカーへの想いを叫んだからついてきたんだ。お前の持つ吸引力が俺たちを巻き込んだ」
「・・・豪炎寺」
「俺も、お前に会えてよかった、円堂。きっと一生ものの出会いだからな」


少しだけ照れくさそうに目尻を染めた豪炎寺は、それでも円堂の目を見据えたまま最後まできっぱりと言い据えた。
こういうところは本当に男前だと思う。決めるべきところで決める。それが豪炎寺修也という男だ。
豪炎寺に憧れる女の子が絶たない理由が親友の円堂にはよく理解できた。
自分から先に『会えてよかった』と言っておいてなんだが、向けられる側になるとこんなに照れくさいものなのかと苦笑した。


「なら、諦めなくて良かったな。諦めなかったから俺は仲間もサッカーも、他にも一杯色々なものを得ることが出来た。それって凄いことだよな」
「ああ。───追加で言うなら、お前が諦めの悪い男でよかったと思う。しつこくて諦めが悪くて全力で相手に向かう『円堂守』でよかった」


彼は今自分がどんな表情をしているかわかっているだろうか。
出会った頃からは想像もつかないくらいに穏やかで満ち足りた柔らかさを持つ豪炎寺の隣で、自分は今どんな表情をしているのだろう。
もし彼と同じならとても嬉しいと、言葉の代わりに笑みを深くした。

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