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【かくて君は世界へ謳う:アメリカ篇16】
「マモルさん」
「・・・・・・」
「あの、ぬいぐるみとカードを持ってきたんです。よければ・・・」
おずおずと差し出されたそれを見て、ベッドから上半身を起こした状態でひとつ瞬きをする。
それは随分と可愛らしい、大きな眼をしたテディベア。
茶色のモヘアの毛並みはふわふわで、腕に抱き締めればちょうど良さげなサイズだ。
両手でそっと掲げたカードには英文で見舞いと思わしき文章が記載されている。
流れるような筆記体は美しく、それでいて見覚えがある癖字で、目の前の少年がわざわざ直筆で持ってきてくれたのだろうと思い至り、はんなりと眉が下がった。
「わざわざ買ってきてくれたのか?」
「───その、マモルさんに似ている気がして・・・。こんな部屋に一人だと色々と考えてしまいそうですし、話し相手にでもなるかなと」
「そう」
予想外の言葉に咄嗟に反応が遅れ、気づけば腕のあたりにあどけない表情のクマが座っている。
きょろりとした大きな瞳に、心持僅かに持ち上がっているように見える口角。
首元に巻かれたリボンは青と白のチェックで、座った格好をした彼の足の愛くるしい肉球がこちらを向いていた。
この、どこか間の抜けた、それでいて挑戦的にも見える表情のクマのぬいぐるみが、自分に似ている。
右手を持ち上げてみる。くにんとしていた。
左手も持ち上げてみる。鬼道家で生活しているが故に上質なものには慣れているのでそれに比べようもないが、子供が贈るにしては上質なモヘアの肌触りは中々に癖になりそうだ。
なんとなく向き合ったまま両腕を交互に上げ下げしていると、小さく笑い声が聞こえ顔を上げる。
「気に入ってくれたみたいでよかったです」
はんなりと眉を下げて口元に手を当てた少年が、くすぐったそうな表情で笑顔を浮かべた。
もふもふの両手を掴んでいた手を、脇の下にさし込んでお腹のあたりに鼻をうずめる。
無抵抗な彼は守の無体な仕打ちにも反抗することなくされるがままだ。
ぬいぐるみをもらってはしゃぐ年齢でもない。
もともとそんな可愛げがある性格でもないし、自分から欲しいと思ったこともない。
誰かに干渉されたくないし、今にも叫びだして狂えてしまえたらと希求する心だってある。
───けど。
「ありがとう、マーク。大事にする」
「・・・はい」
もふもふの毛並みに遮られ、年下の少年がどんな表情をしたかなんて、守は知らない。
でも、憂鬱になるくらい真っ白な部屋に、一人くらい同居人が増えるのは、なんだか悪くない気はした。