宣戦布告(『昼想夜夢 −寝ても覚めても、恋い慕う−』より一話抜粋)

宣戦布告


「□□、また、今度は他の生徒さんも一緒に遊びにおいで」
「次は釣りも連れて行ってあげような。なあ! 五条君に狗巻君!」
「それはもうお父様! 喜んで!」
「しゃけ!」
 表面上は仲良くなったように見えるけれど、私には分かる。
 理由は分からないけれど、お父さん、悟ちゃんと棘くんに怒ってる……というか、なんだか厳しい目を向けてるような……?
「……ね、ねぇ……悟ちゃんと棘くん、父になにかしたの……?」
 荷物を玄関にまとめながら、家族には聞こえないように二人にコソッと訊くと、悟ちゃんは珍しくサングラスの向こうで苦笑いをする。
「あ、やっぱり? なーんか品定めされてるっぽいんだよね」
「しゃ、しゃけ……」
 棘くんもいつもより大人しくしている。まあ……怖いよね。笑ってるようでいて、厳しい視線を送られてるんだから。
 でも、荷物をテキパキと車に詰め込む二人を見て満足そうに頷いてるし、まあ大丈夫か。
「じゃあ、残りの荷物は宅配便で送るね」
「うん、ありがとう、よろしくお願いします」
「どうもお世話になりました」
「明太子」
 レンタカーに荷物を詰め込み、両親とお祖母ちゃんにお別れの挨拶をする。いくつかの荷物や私の趣味の道具は、そこそこ量があって飛行機に持ち込みが難しいため、宅配便で高専に送ることにした。いざ離れるとなると、やはり少し寂しい。
 お父さんが悟くんと棘くんを呼んで話を始めると、お母さんは三人を見てクスクス笑った後、私に話し掛けてきた。
「□□」
「ん? なに、お母さん」
「自分の術式は分かってるの?」
「いや、それが……まだ……」
「そこまでは思い出せないのね。お母さんの家系に伝わるのは、主に結界術だけどね……。□□は、違うかもしれない。お母さん、□□が小学校を卒業するまで、術式を使ってるところ、見たことがないんだよ。こんなに力を持って生まれた子は、久しく居ないらしくてね……。どう活かせば良いか分からなくて。どう導けばいいか考え倦《あぐ》ねている内に、呪力も普通になったから……。力になれなくてごめんね」
「お母さん」
 ずいっと、悟ちゃんが私とお母さんの間に顔を突っ込んできた。突然のことに、思わず少し仰け反る。
「大丈夫。僕、最強だから。最強と言われるからには、それに見合った力でちゃんと導きますよ」
「高菜!」
「あらあら、心配無さそうね」
 キメ顔でお母さんにウィンクする悟ちゃんと、ふんす! と意気込む棘くんに、お母さんも安心して笑う。
「父となにを話してたの?」
「□□を泣かせたら三枚におろすって言われちゃった」
「しゃけ」
「えっ」
「あらあらお父さんったら。□□のことが、それだけ大事なのよ。昨日の夜も、□□ももう嫁に行ってしまう歳なのか……ってしんみりしてたし」
「い、いや、まだ結婚の予定は無いから! もう……」
 また帰省するね。そう家族に伝えると、悟ちゃんと棘くんも、また一緒にお邪魔しまーす! と言って。
 出発直前、山のお社に向かって皆で一礼すると、神鏡だろうか、一瞬、キラッと光ったように見えた。


 神様、どうか、私の大切なこの故郷をよろしくお願いします。


 ■■■


「んー……!」
「わー、久しぶりの高専だー」
「おかかぁ」
「悟ちゃん、すっごい棒読み。伊地知さん、ありがとうございました」
「いえ、呪いも祓われて何よりです。では、私はこれで」
 荷物を持って伊地知さんが運転する車から降りる。もう日は落ちようとしていて、高専内も静かだ。今から賑やかになるのは、任務がある呪術師の詰所と、学生がいれば学生寮だろう。
「二人共、本当にありがとうございました」
「しゃけしゃけ」
「明日からは、棘達と体術一緒にするといいよ。呪力のコントロールとかは、僕が空いてる時間に教えてあげる」
「分かった」
「高菜!」
 二人に手を振ると、自分の部屋に向かう。呪力を取り戻したとはいえ、高専には結界が張ってあるから、呪霊を見ることは基本的に無い。実家から高専までの道中はちょくちょく見かけたけれど、悟ちゃんから、あまり呪霊と目を合わせないようにと注意を受けていて、疲れて寝ている時間も多かったから、呪霊の存在を気にすることが少なかった。だからか、自分にも呪力があるといまいち実感が湧かない。
「……頑張らないと」
 明日からは、またカウンセラーとしての日々も始まる。休ませてもらった分、しっかり働かないと。


 ■■■


「あれ? □□先生も体術するの?」
 翌日、早速一、二年ズの体術に参加させてもらうと、悠仁くんが不思議そうな顔をした。それもそうか、今までは授業に参加させてもらうことは無かったんだし。いきなり参加しますって驚くに決まっている。
「えー! やったぁ! □□先生格好良いし運動出来るし、いいじゃん、虎杖。私は賛成! 華も多い方がいいでしょ。喜べ男子」
「おう! 楽しくなるな!」
「うん、身体が鈍っても困るし、高専に居る以上は自分の身も守れるようにならないとね! 一緒に頑張るね」
「先生、無理せずやってくださいね」
 伏黒くんが真希ちゃんをチラ、と横目に見て心配してくれる。一年で一番クールに見えるし、ドライな考え方をしているけど、中学ではやんちゃしたこともあるらしいし、何だかんだで優しい子だ。一年ズが楽しそうにしてくれて、私も嬉しい。
「しごき甲斐ありそうじゃねぇか。まあでも、悟《バカ》のセクハラから身を守れるようにならないと、アイツ何気にゴリラだしな」
「ふふっ、真希ちゃん、お手柔らかにね」
「先生投げるの気が引けるなー」
「おかか。ツナツナ!」
 二年ズも、快く受け入れてくれている。パンダくんが冗談ぽく言うと、棘くんは、問題無い。俺が受け止める! と手を広げて張り切っている。
「……ねーねー、真希さん」
「ん?」
「これ、狗巻先輩、やっぱり□□先生好きですよね?」
「ああ、知らなかったのか?」
「怪しいなとは思ってましたけど……」
「悟《バカ》も□□先生のこと好きだから、大変だろうな、棘」
「あぁ……。手、早そうですもんね」
 おーい! 始めるぞ! と真希ちゃんの掛け声がして、体術の時間が始まる。手始めにグラウンドを走ることになり、皆の背中を必死で追うこと数十分……。
 ……ヤバい。やっぱり体力が落ちてる。マラソンだけでこんなに息が上がるなんて。毎朝、ランニングの時間作ろう……。
「おかか?」
「あ、棘、くん。うん、大丈夫」
 息が苦しくて、話すのも途切れ途切れになる。大丈夫? と聞かれ軽く頷くと、棘くんが指を差す。皆、ペアを作って柔軟を始めるところだ。
「高菜」
「うん、お願いしようかな」
「こーんーぶー」
「ふー……」
 脚を広げて上体を前に倒す。背中を棘くんの手がゆっくり押すと、そのまま地面にぺったりと付いた。少し心配だったけど、身体の柔軟さはまだ大丈夫そうだ。
「□□先生、めちゃくちゃ柔らかいですね」
「ありがとう、伏黒くん」
「ああー痛いー!」
「ほら野薔薇、もっといけるだろ?」
「ま、真希さ、ん! 容赦無さ過ぎですよー!」
「よしよし。さ、交代だぞー」
「明太子」
 パンダくんの指示で、棘くんと交代する。思い切りやって、と言われるが、とりあえずさっき棘くんが私にしてくれたみたいに両手で押す。
 前から思っていたけれど、棘くんって体操選手みたいだ。ゴリゴリではないけど、筋肉が割としっかり付いていて、男性にしてはかなり柔らかいと思う。
「□□先生、棘は身体ごと乗せるくらいがいいぞ」
「わっ!」
「!? ……こ、こっ、こここここここ」
 パンダくんに押され、思わず棘くんに抱き着いた。地面に突っ込みはしなかったみたいだけど、大丈夫だろうか。いきなり体重を掛けたことには変わりないし、鶏みたいになってるけど……。
「……伏黒!」
「何だ」
「俺も□□先生に押して貰いたい!」
「……一応訊く。何でだ?」
「おっぱい羨ましい! 何なんあれ! おっぱいの暴力じゃん!」
「やめとけ、釘崎がお前のことすっごい目で睨んでるぞ」
 棘、鶏になってんぞーと真希ちゃんに揶揄され、棘くんはおかか! と答えている。やっぱり、いきなり押す形になったから苦しいんじゃ……。
「棘くん、ごめんね。腰大丈夫?」
「おかか。……いくら」
「え? 背中がヤバい?」
「お、おかかおかか!」
「? うん、次からは、もっと体重かけるね」
「しゃけ」
 棘くんは私を振り向いて、こくん、と頷く。少し顔が赤い気がするけど……。やっぱり、腰とか痛かったんだろうな。気を遣わせてる気がする。痛いの我慢させちゃってるんだろうな……。
 でも、その後もパンダくんに押される度に、棘くんが鶏になるのは謎のままだった。
「狗巻先輩!」
「いくら?」
「何で鶏みたいになってたの?」
「……ツナマヨ」
「スマホ? 何なに……」
こんぶって言えなかったんだよ。あんな柔らかいおっぱい当たったら、鶏にもなるよ。恵とか俺が胸当てて来ても硬いし痛いだけでしょ? 違うんだよ。むにんってなるの、むにゅって。分かる? 暴力的な柔らかさだよ。おっぱい万歳
「……狗巻先輩!!」
「?」
「独り占め良くない! ペア、代わりましょうよ!」
「おかかー」


 ■■■


 カウセリングルームに戻って、居なかった間の来室者名簿に目を通す。
 特に何も無かったようだが、七海さんが一度だけ、実家に帰った日に訪れていた。……これ、悟ちゃんが七海さんが来るの知ってて、わざと教えなかったんじゃないだろうか。次に来室されたら、お詫びも兼ねてとっておきの美味しい茶葉で紅茶淹れてあげよう。
「お疲れサマーキャンプ!」
「……」
「あれ? 聞こえてない?」
「はぁ……窓は部屋の入口じゃないよ、悟ちゃん……」
「まーまー、あんまり□□に会いに行ってるの、見られたくないんだよね。色んな意味で」
「普通にドアからの方が、見られても変じゃない気がするけど」
「一応、□□が呪術師になるってのは秘密だから。棘にも口止めしてるし、□□も黙ってれば分かんない。上にバレると、君の出自も相俟《あいま》ってややこしいことになるのが目に見えてるし。それより、体術どうだった?」
「体力落ちちゃってて。皆が若いからっていうのもあるけど、このままじゃ駄目だなって痛感しちゃった。だから、毎朝ランニングすることに決めた」
 あはは、と私が笑うと、悟ちゃんは椅子に腰掛けた。甘めのカフェオレを悟ちゃんに出して、私も椅子に座って書類を片付ける。
「最初からトバし過ぎは駄目。基礎は勿論しっかりしてるに越したことはないけど、呪力のコントロールも並行して練習しないといけないからね。ぶっ倒れるよ? ……はぁー、生き返る。カフェオレありがとう。甘くて美味しい」
「うん、気を付ける。でも、コントロールって……。あ、もしかして……」
「ご明察。悠仁も使った呪骸を使いまーっす!」
 何処から取り出したのか、悟ちゃんは、サルのぬいぐるみのような呪骸をテーブルの上に置く。ツカモトと同じで、呪骸はまだスヤスヤと眠っているようだ。この子にも名前があるの? と訊くと、こいつの名前はそうだなー、……よし! タカサキにしよっか! ほら、おサルで有名じゃん! と、まさかのタイミングでの名付けがされて面喰らう。学長の許可は要らないのだろうか?
「え、あ、そう、だね? ……あの、これ、やっぱり一定の呪力流さないと殴られるの……?」
「え? 殴らないよ?」
「えっ?」
「え?」
 あれ? 悠仁くんはボカスカ殴られたって言ってたけど。殴らないなら、練習にならないんじゃ……。何で悟ちゃんも、分かんなーい、みたいな表情してるの?
「□□には、殴るより効果的な手段があると思って。それに、嫁入り前の女性の顔に傷付けちゃダメっしょ。少なくとも僕は、そんな趣味は無いし。ま、任務始まったらそうも言ってられないけどね」
「えっ?」
「え? さっきから語彙力どしたの? 面白いんだけど」
 ププーと悟ちゃんは笑うけど、私の反応、そんなにおかしいだろうか。
 え? 殴らないなら何の攻撃されるの? でも確かに、悠仁くんが使った呪骸のようにグローブはしていない。代わりに指がしっかり五本ずつある。
「教えて欲しい?」
「……嫌な予感がする。あんまり聞きたくな」
「なんと! このサルの呪骸、一定の呪力を流し続けないと、あーら大変! 服を脱がしに襲い掛かってきます!」
 ああ、そういうこと……。だから指がしっかり五本ある……。
「……はあ?!」
「さあ、脱がされている時に誰かが来たら大変! おっぱいやパンツ見られちゃうよ! 早速どうぞ! さあさあ!」
「ちょ、いや、確かに今日は仕事終わったけど、こんないきなり、まだ心の準備ができてな」
「最初は僕が見ててあげる」
「ちょっと待っ」
 グイッと呪骸を押し付けられ、仕方なく持つ。集中して取り組もうとすると、悟ちゃんが立ち上がり、椅子を持って私の後ろに来た。
 ……凄く嫌な予感がする。
「悠仁には映画鑑賞させたけど、□□はこっち」
「え? ちょっと、なに……?」
 私の腰に腕を回すと、悟ちゃんは肩に顎を乗せてきて。擽ったくてそちらに気を取られていると、呪骸がカッと目を開き、慌てて悟ちゃんへの集中を切った。ボタンが外される既《すんで》のところで、タカサキの指がブラウスから離れる。
「あれ? 今日の下着見たかったのに」
「……絶対見せない!」
「ハハ、その強がりがどこまで保つかな? じゃ、僕はこのまま一時間程寝るからー」
「え? 悟ちゃん?」
「僕だって疲れるんだよ。□□、柔らかくて抱き心地良いし、癒やして……」
「……悟ちゃん…………?」
 言葉途中だったはずなのに静かになり、耳を澄ますと、悟ちゃんの寝息が静かに聞こえてきた。そうだよね。高専の仕事に加えて任務もある。更にこうして私のことまで。疲れない訳が無い。
 ……でも、小さくても耳元で寝息が聞こえると、意識はそちらに向きやすいわけで。それに、私も昼の体術の疲れが出て、悟ちゃんの体温で眠くなってしまいそうだ。
「あぁ……おやすみなさいって言いたいけど…………」
 確かに映画を観るより、こっちの方がキツい。一時間、私は耐えることが出来るだろうか。
 とりあえず、無になろう。そうだ、集中すれば無になれる。無に…………。


「おっ?! おかかあぁぁぁぁ!!!!」
 棘くんの物凄い声が聞こえてハッとして目を開いた。ドアをバッと見ると、棘くんが顔を真っ赤にして目を見開き、私を指差している。
 そういえば。私、もしかして寝てた? 手に何か掴んでる感覚が無いような……?
「……ぎ」
「んぁ。あ、もう一時間経った……?」
「ぎゃあああ!!」
「ブッハァ! さては寝てたな? お。今日はネイビーのレースか。うん、柔らかい! タカサキグッジョブ!」
「うわあぁ?!」
 下に目を遣ると、悟ちゃんの腕が回されているところまで、ブラウスのボタンが外されて開《はだ》けていた。そこに加えて、起きた悟ちゃんの大きな手が、下から胸を持ち上げてくる。驚くやら恥ずかしいやらで、酷い叫び声を上げながら、スカートを脱がしに掛かっていた呪骸の頭を鷲掴みにして呪力を送る。
「おっ、おかか!」
「□□、五段ホックなの? 初めてお目にかかったけど、そんなにガッシリおっぱいホールドしてるから、体術もバッチリなわけだ。うーん、これは外し甲斐あるなぁ」
「ああブラウスが!」
「□□が僕を振り切るから、ブラウス脱げちゃうんだよ」
「わああ! もうやめて……!」
 呪骸を持ったまま椅子の横に座り込むと、シトラスの香りがして上を向く。棘くんがパーカーを脱いで私に掛けてくれていて、凄い目で椅子に座ったままの悟ちゃんを見下ろしている。棘くん、ブチ切れたら迫力あるな……。
「うわ……棘がこわぁい」
「いくらツナ明太子!」
「え? 可及的速やかに説明を求むだって?」
「しゃけ!」
「説明も何も、見ての通り、呪骸使って呪力コントロールの練習だよ」
「おかか! すじこ高菜!」
「僕は、集中を邪魔するために寝させてもらったんだよ。□□には映画鑑賞より、こういうのが効果的でしょ? あんまり恋愛経験無いみたいだし」
「……」
 チラ、と棘くんが私を見る。悟ちゃんが嘘を言っている訳ではないので、頷くしかない。
「……しゃけ。ツナ高菜」
「棘も手伝うって?」
「しゃけ」
「僕みたいに?」
「しゃけ」
 少し考えた後、棘くんも私の訓練を手伝うと言い始め、自分でも目を見開いていると分かるくらい目を大きくして棘くんを見る。棘くんは私を見下ろすと、また少し目を逸らした。頬が赤い。
「いくら……」
「……あ、ごめんね! ちょっとブラウス着てくる。もうちょっとパーカー貸してね」
「しゃけ」
 ブラウスを着るため、悟ちゃんに呪骸を渡して奥の部屋に向かう。パーカーは綺麗に畳んで渡そう。タンクトップ一枚にして申し訳無いと思いつつ、ブラウスのボタンを留めていく。二人はなにか話しているようで、何を話しているかは分からないが、声が聞こえてくる。
「じゃ、僕が出張とか任務で居ない時は、棘に頼むね」
「しゃけ」
「抜け駆けするつもりでしょ」
「ツナいくら」
「え? 僕こそって? そりゃあ抜け駆けしたいでしょ」
「こんぶ」
「本気で好きな女を本気で落としに掛からないなんて、そんなつまらない男が選ばれるワケ無いだろ? 中途半端に口説くなんて□□にも失礼だ」
「!」
「□□も言ってたろ? 意思表示はしっかりしないと、□□は僕があっという間に掻っ攫うよ?」
「あのー……」
 悟ちゃんと棘くんが、至近距離で見つめ合っている。もしかして、お邪魔だった? それにしても、イケメン同士のこの絵面は……。
「も、もしかして……」
「お、おかか」
「待って、変な勘違いしてない?」
「あの、二人が綺麗過ぎて見惚れてたけど、私は反対しないよ?」
「おーかーか!!」
「違うって! 宣戦布告してただけ!」
 ヤバい、新たな扉が開きそうだと思っていると、二人共凄い勢いで否定をしてくる。棘くん、物凄い嫌そうな表情で悟ちゃん睨んでるなぁ。
 ……あ、そういえば悟ちゃんって、相手を挑発する時に必要以上に距離詰めてくる気が……。
「何となく……分かったかも。ごめんね。誤解してたみたいだね」
「しゃけ!」
「そうだよー。僕が好きなのは□□だもん」
「ツナマヨ!」
「……ありがとう」
 何となく二人の目を見られずに、視線を外す。もっと、恋愛経験があれば良かったのだろうか。でも、好きになってもらえるって嬉しいことだなと、故郷の一件から特に思うようになった。今は素直に嬉しい。
「あー……」
「しゃけ……」
「? どうしたの二人共。口に両手当てて……」
「僕の□□が可愛過ぎて尊い」
「おかか。ツナマヨ」
「僕のって言って何が悪いんだよ棘。□□はいずれは僕のお嫁さんだから!」
「おかか! ツナマヨ!」
「えー? だって棘、□□とチューもまだでしょ?」
「……」
「……」


 棘くん、こっち見ないで!
 今ので完全に悟ちゃんにバレてるよ!


「おかか」
「あ、あの! 棘くんパーカーありがとうね! わ、私は疲れたから部屋に戻って休むね! おやすみなさい! 悟ちゃん、施錠お願いします!」
「え? 嘘。棘、□□とキスしたことあるの?」
「しゃけ」
「恐ろしい子……! いつの間に」
「すじこ」
「クク。棘には手加減無しで良さそうだ。楽しくなってきた」
「明太子!」
 バタンと部屋のドアを閉め、鍵を掛ける。まさか、あのタイミングで棘くんが悟ちゃんにバラすとは……。思い出したら顔が熱くてたまらない。どうしよう、熱が出てしまいそう。
「棘くん、語彙絞ってるにも関わらず、結構雄弁なんだよな……」
 これ、結構マズい展開になってる気がする。早く呪力コントロール出来るようになった方が身の為だ、きっと。
 となると、やはり鍛錬は欠かせない。気合いを入れ直すと、翌朝のランニングに備え、早く寝ようとバスルームに向かったのだった。






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