犬よりは猫寄りだろうとは思っていた。しかし猫だと思ったことは一度もない。
だが今、こいつは猫なのかもしれないと初めて思った。
「三国さんっ」
「がっつくな神童!」
神童が三国の腰に腰を押しつけてくる。頭を押し返して三国がたしなめた。が、神童は堪らないと言うように熱を孕んだそこをズボン越しに三国に擦りつけた。
神童がこうなるに至ったのは、少し前に遡る。
三国が、またたびスプレーとラベルの貼られた容器を手に入れた。しかし三国の家はペット禁止で、誰かにあげようと思った。
すぐ思いつく天馬の家は犬だ。では猫を飼っている知り合いは誰だと考えて、浮かんだ神童にこれをあげようと思ったのだった。
休日に商店街に行く用事があったのでついでに神童にメールして、家にいるか確かめる。すぐに在宅であるという返事が返って来たので、それを片手に神童家に来た。
渡したらすぐに帰るつもりだったのだが、いい茶菓子が手に入ったからと使用人に言われ、また神童にも勧められて、少しお邪魔することにした。
神童の部屋で茶菓子と紅茶をいただきながら、そのスプレーを渡したのだが。
ふうん、と神童がそれをシュッ、と空中にかけてみる。神童家の飼い猫は今どこかへでかけているらしくて神童の部屋にいなかった。だからそれに反応するようなものはいない。
はず、なのに。
「……ん、」
スプレーの香りに神童が鼻をならした。くんくんと嗅いで眉を顰める。
どうした、と聞く前に、神童がもう一度空中にそれを吹きかけた。
「すごく……、いい香り、ですね」
「そうか? 俺は全然しないんだが……」
三国も空中のにおいを嗅いでみるのだが、神童の言うようなものは感じられなかった。
神童は何度も香りを嗅いで、はぁと息を吐いた。
「……なんか、ちょっと……きもちよくなりました……」
「は? 神童?」
神童が片手にスプレーを持ったまま、三国の方へと寄ってきた。その雰囲気と目の色に何だか嫌な予感がした。
「おい、大丈夫か」
「は……っ」
「わッ」
今度は神童がスプレーを三国の首筋に噴きかける。突然冷たいものがかけられて三国はヒッと悲鳴をあげたが、神童がすぐにそこに鼻先を埋めて擦りつけた。
三国は慌てて神童の手にあるスプレーを奪い取った。
「様子が変だぞ、神童。熱でも……」
「体が熱いんです、とろとろに蕩けちゃいたい気分で……っ」
神童がソファに座る三国に向かい合うように乗り上がって来た。そして膝の上に座り、腰に腰を押しつけてくる。
「しっ、神童!」
それが硬く勃起していることに気付いて三国は大きくうろたえた。まさか、と奪ったスプレーを見た。
「このまたたびが効いたのか……?」
「三国さんっ」
「がっつくな!」
そして今に至るのである。
神童が、押しつけていた腰を一度離し、ソファから降りて三国の足の間に膝をついた。三国がスプレーの注意書きを読んでいる隙にズボンに手をかけ、素早く三国の何も反応していない性器を取り出した。
下腹のあたりの感触に三国は驚いて声をあげた。
「こら! やめろ神童!!」
「やです、我慢できませんっ」
神童が萎えている三国のそれの先端に舌を這わせる。ぺろりとひと舐めして、ちゅっと鈴口にキスをした。
三国はふたたび神童の頭をどけようと片手で押した。しかし神童はかたくなにそれを手放そうとはせず、また三国が頭を押していないほうの手に握ったスプレーを再び奪うと、しゅっとあろうことか三国の性器に吹きかけたのだ。
「神っ、童! もう悪ふざけは終わりだ、俺は帰るぞ!」
「はぁっ、いいにおい……」
だがやはり神童は三国の言葉を聞かず、スプレーを吹きかけた性器を再び舌で嬲り始めた。
これ以上神童に付き合ってはいられないと三国は帰ろうとするのだが、そんなところを執拗に舌で愛撫されればたまらない。立ち上がる力など入らず、ただ神童の手と舌に翻弄されるのだった。
神童は舌でそれを根元から先端まで一気に舐め、何度もキスをした。
「待、て……っ! 昨日の夜から風呂に入ってない、からっ、汚っ、あ!」
「三国さんのにおいと、またたびのにおい……」
三国がそう制止をしたが、神童には何も問題はなかったし、聞く耳も持たなかった。
神童は三国には全く分からないまたたびの香りがするのか、鼻をくんくん鳴らしながら舌で愛撫する。その表情はいつもの神童よりもずっと蕩けて、無我夢中な様子が見て取れた。
いつの間にか三国は下肢の衣服が全て取り払われ、白昼のソファに曝け出していた。
「んむっ……ちゅ、ん、はふ……っ」
「あ、ッん……神童、そ、んなとこまでっ、やめ……っ!」
三国の性器は神童の愛撫によって天を向き、滴を垂らし始めていた。唾液と性液が竿を流れ、袋の下、もっと奥まった場所まで垂れる。
神童の舌がそれを追って、袋、そして太股を這って、そこに辿りついた。
「んッ、んうう……っ」
「……ひくひくしてます、三国さん……」
舌先で窄まりを突いて神童が言う。三国は明るい室内でそんな場所を暴かれる羞恥に、腕で顔を覆った。
神童が軽く笑って吐息がありえない場所にかかる。そんなことにも反応をしてしまって三国は身悶えた。
「神……童っ、も……またたびはいいだろ、やめろ……っ」
三国がそう言った。信じがたいが、普段の神童とは違う様子にはやはりスプレーが効いたのだと思う。だがあれはやはり猫用だ。人間に効くのはおかしいはずだ。
それにもし効いたのだとしても、もうそろそろ効果が切れてもおかしくない、と思う。そりゃああれだけ舐めていればにおいも消えるはずだ。
だが神童が急に体を起こして、三国の首筋に鼻を埋めた。
「ここにさっき噴きかけたので……っん……」
そういえばそこにもスプレーが噴きかけられていた。首筋で荒く息を吐きながら耳元で熱っぽく喋られて三国は首をすくめた。
神童は鼻先をそこに埋めたまま両手で三国の足を広げ、今しがた舌で愛撫していた場所に己の熱く硬くなった先端を擦りつけた。
「っあ、神、童っ……いき、なり、入れ……っる、なぁ……っ」
「はああ……っ」
三国の非難の声にも返さない。ひたすら鼻先を擦りつけ舌で首を舐めながら、神童がぎちぎちと押し入ってきた。
舌で少し愛撫されたとはいってもほとんど慣らされていない。苦しさに涙をにじませながらも、しかし予想していたよりも案外すんなりと、三国の体は神童のそれを受け入れた。それが何だか惨めであった。
全て入れたところで神童が胸元で、は、は、と短く息をつく。流石に痛みに覚醒したかと三国は神童の頭に手を伸ばした。
「おい、だからがっつくなって……」
「だっ……てぇ……っ」
神童が顔を上げて三国を見上げる。先程までの蕩けた顔よりは少し落ち着いていた。涙目ではあったが。
かわいい後輩に泣かれると、こんなことをされても情が沸いてしまうのが三国の長所でもあり短所でもある。神童の背中をぽんぽんと撫で、落ち着かせるように擦った。
「神童、痛いなら一回抜いて……」
「嫌です! 俺、今日はこのまま三国さんのなかでイきたいんですっ」
少し気づかってみればこれだ。三国は思わずがくりと肩を落とした。
「別にそういうことを言ってるわけじゃ、……ッ」
いつの間にまた手にしていたのか、神童の右手にはスプレーがあり、それを今しがた舐め嬲っていた首筋に再び噴きかけられた。
冷たさに首を竦めるがすぐに神童の頭がそこに潜り込んでくる。何度も大きく息を吸って香りを味わっていた。
「もう、それは没収だ!」
「あっ」
三国がまたそれを取り上げる。だが神童の体に痛みよりも興奮を生み出させるにはその一噴きで十分だったようで、ぎちぎちと埋められたままであった神童自身を抜き差しし始めた。
きっと三国の首は神童の唾液で濡れ光っているだろう。先までひたすらねぶられていた性器のように。
神童の腰が動いて、みちみちと三国の中を突いた。
「んッ、うう、あっ……」
神童がひたすら舐めるすぐそばで、三国の喉仏がごくりと上下し、声を出すために震える。心地良い低く甘い声に神童は耳からも快感を得た。
腰をぱんぱんと打ちつけるうちにその声もほんの少しではあるが高くなる。それが三国の、痛みではなく快感を訴え始めたものだと分かって、神童は安堵のため息を漏らした。
「あ、三国さんっ、俺っ……!」
もう達してしまいそうだと三国の胸から顔を上げて伝える。三国の黒い瞳がちらと合わせられ、すぐに逸らされたが、腕が神童の背中にきつく回された。
それを了承の合図と取って、神童はさらに深く三国に腰を打ちつけた。
「あっ、あ、あ……っ」
だらしなく口の端から漏れた唾液が三国のシャツを汚す。だがそれでも三国は神童の背中を抱く手を緩めず、ただ受け入れ促すように神童に抱かれた。
そんな幸せの空間のなか、やがて限界が訪れて、神童がびくびくと体を揺らした。
「三国さんっ、三国さん……っあ、あ……!」
「っ……神童……」
ひときわ深く穿ったところで達すると、三国が神童の名を低く呼んでくれた。
荒く息を吐いて、重い体を動かして三国の体内から性器を抜きとる。初め小さく口を開けていただけの窄まりは神童のものを受け入れたせいで初めよりも大きく開いて、どぷりと神童の精液を垂らした。
ソファが汚れてしまう、と三国が身を捩ろうとする。神童がそれをやんわりと制止して、未だ濡れそぼったまま腹に滴を垂らしている三国のものに指を絡めた。
「ここ、すごい……、いやらしくなりました」
「っ! 見るなっ、あ……!」
神童の精液を垂らすそこに人差し指を浅く突き入れ、ぐちょぐちょと音を立てる。三国が体をびくんと跳ねさせて顔を逸らした。
その反応に三国ももう限界が近いことを知って、神童は性器を掴んだ手を上下に素早く動かした。
「三国さん、こっち見てください」
「……っ、嫌だ」
「キスしたいんです」
懇願されると、やはり弱い。今にも達してしまいそうななか、三国はおずおずと神童を見上げた。
するとすぐに唇が唇で塞がれて、神童の手の動きも早くなった。
少しもしないうちに三国がびくびくと体を揺らす。神童の手に生温かいものがかかって、達したのだと知れた。
「三国さん、本当に本当にすみませんでした!」
「…………」
「でもっ、スプレーで何かおかしい気分になったのは本当で……! シャツも汚したのは洗って返しますから!」
「それじゃあ俺は今日何着て帰ればいいんだよ……」
「お、俺の服……、は、入りませんよね……」
ソファに座る三国の前で神童は正座していた。ちなみに汚したソファはすぐに拭いたのでシミにはならなかった。
「……なあ、神童」
「はい!」
とても綺麗な返事がした。
「お前は、猫なのか?」
純粋な疑問を発したように言った三国に、一瞬固まって、神童は首を振った。
「い、いえ。人間です」
「そうだよな……。でもこんなことがまたあったら困るし、これは俺が捨てておく」
「はっ、はい」
手にした小さなスプレーを振って三国が言った言葉に何も異論はなかった。とても興奮して煽られたのは事実だが、もうあんなわけのわからない衝動で三国を抱くのはごめんだった。
「ところでシャワー貸してくれないか、体中べとべとだ」
「今すぐ用意させます。……あ、」
こんな白昼に使用人に風呂の用意をさせたら何をしていたか一目瞭然じゃないか、と三国が神童を止めようとしたのだが、ちょうど神童が扉を開けた瞬間彼の足もとにするりと影が通ってそちらに注意が向いた。
それの正体は、はじめの目的であった神童家の猫だった。
「お前、どこに行ってたんだ? お前がいなかったせいで大変だったんだぞ……、っと」
三国が猫に話しかける。と、猫が何かに気づいたように三国の顔を見て、近寄って来た。そして三国の膝にぴょんと飛び乗ると、その膝の上でひっくりかえり、うにゃうにゃと体を動かし始めたのだ。
「……これは、まさか」
「またたびのにおいですね……」
やはりこのスプレーは本当に、れっきとしたペット用のまたたびスプレーであったらしい。膝の上でごろごろしはじめた猫にそこを動くこともできず、三国と神童は顔を見合わせた。
***
2012.01.23
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