※母乳が出ちゃいます。
妙な夢をみた。
いつものように寝ようと思って、ベッドに入りうとうとしていたとき。自分を呼ぶような声がして目を開ける。
するとベッドの脇に、普段なら背中の後ろに出てくるはずのマエストロがいた。
神童は眠ろうとしていたわけで、化身を出そうとしていたわけではない。なのになぜそんなところにいるんだ、と聞こうとしたのに、夢の中で声が出せない。
マエストロは指揮棒を持っていない手を数回振った。
と、どこからともなく、小さな白い紙袋が出てきた。よく病院から出される薬が入っているようなものだ。
それをベッドから少し離れたテーブルに置き、マエストロは笑った。
『頑張っているが欲求不満な君にプレゼント』と言葉を残して。
「夢、じゃなかったのか?」
翌朝目を覚ました神童は、テーブルの上に置かれた白い紙袋を見て首を捻った。
練習でも試合でもないのにマエストロが出てくるのなんて初めてだし、それが何か実体のあるものを作り出すなんてあるわけがない、だから夢だろうと思ったのに、夢の中に出てきたそれが本当にそこにあったからだ。
とりあえずベッドから体を起こし、裸足のままテーブルまでぺたぺたと歩く。その袋を手にとって振ってみるとかさかさと音がした。
「中身は……、薬?」
確かに薬を入れるような袋だが、中身も薬だった。小さな錠剤が3錠。だがその薬の効果を記す紙などはなく、あるのは「15歳以上一回3錠」と書かれた小さな紙だけ。マエストロも言っていなかった。
ただ言っていたのは、『頑張っているが欲求不満な君に』ということ。
栄養剤か何かだろうかと思うのだが、それならば『欲求不満』なんて言葉はどういう意味だろう。
確かに恋人という付き合いを始めてしばらく経つ相手、三国とは、中々二人きりになれる機会もなく欲求不満だが。
「……いや、待て。もしかしたら俺は何か催眠をかけられて、毒を盛られそうになってるのかも……」
マエストロが出てくる夢から誰かが神童にかけた催眠で、この薬は毒物かもしれない。
誰かの恨みを買うようなことはしていないとは言えない。サッカーを取り戻す革命が多くの対戦相手の恨みを買っている。
「そうだ、そうかもしれない。よくわからないものは触らないでおこう」
そう思ってそれを捨てようとしたのだが、やはりどうしても夢のマエストロが気になる。話が聞きたくて出そうとしても出てくれない。
結局神童は迷いに迷ってそれを捨てることができず、とりあえず学校に行かなければ、と鞄に小さな紙袋を突っ込んだのだった。
「マエストロが?」
「そうなんだ。これを」
朝、教室で霧野に会って一番に相談してみた。それを見せてみると霧野はまじまじと観察した。
「なんだろうな……、普通は包装に商品名とかが書いてあるものだが、何も書いてない」
「ああ。この紙しかなくて」
「15歳以上一回3錠」の紙を取り出して渡す。特に市販の薬の説明書を切り取ったようなものでもなく、ただ白紙に黒字でワープロ打ちされた活字からは何も読み取れなかった。
「15歳以上、ってだけ書いてあるってことは、俺達が飲んじゃいけないのかもな。15歳からの薬なんじゃないか?」
「俺にプレゼントしてくれたものなのに?」
「……ああ、ああ。分かったかも」
霧野が一瞬黙り、そして頷いた。神童は身を乗り出して聞いた。
「どういう意味なんだ!?」
「もしも、それが本当にマエストロからのもので、毒じゃなかったとしたら。多分それは三国さんに飲ませるべきものなんだよ」
「三国さんに?」
霧野は薬を光に透かして見ながら続けた。
「15歳以上って書いてあるだろ。そしてマエストロの『欲求不満な』っていう言葉。そのまま欲求不満を解消してくれる薬なんだとしたら、欲求不満になっている原因の相手である三国さん、つまり15歳以上に飲ませるんだよ。そうしたらきっと欲求不満が解消されるようなことが起こって、マエストロから神童へのご褒美になる」
神童は霧野の言葉をしばし考え、そうしてようやく理解した。
「つまり、これを三国さんに飲ませたらいいのか……」
「でも、もしかしたら神童の言う通り誰かが盛った毒って可能性もまだある。俺はそうは思わないけど」
その薬の中身について絶対的な答えが出ないうちに、その日の授業開始を知らせる鐘が鳴った。
神童は一日ずっと考えた。その薬が何であるか。
マエストロの微笑みは神童を安心させるようなもので、全く悪意のようなものは感じられなかった。だがそれも毒を盛るための催眠という可能性だって十分にある。
一方で、霧野の言うとおりこの薬で三国との欲求不満が解消されるのだとしたら、それはとても、気になる。こんな得体の知れないものに惹かれてしまうほど神童の体は欲求不満なのだ。
そんなことを考えて、授業も集中できないまま一日が終わってしまい、部活の時間になった。
変なことばかり考えていたせいで更なる欲求が神童の体を蝕み、三国とは目が合わせられない。ぎこちない動きで三国にばれてしまうかと思ったが、三国は気づいた様子もなかった。
だがそれと同時に、神童も三国の様子に気付けなかった。
「神童」
霧野とボールをまわして練習していると、後ろから声をかけられた。振り向くと車田が立っていた。
「はい」
「三国が調子悪そうなんだ。多分、風邪だと思う。俺が言っても練習やめないから、お前が止めてやってくれないか」
「三国さんが?」
慌ててゴールのほうを見やる。特に調子の悪さは見受けられないが、三年間ずっと三国のプレーを見ていた車田には不調がわかるのだろう。
神童は頷いた。
「わかりました。車田さんは練習に戻っていてください」
「おう、頼むぜ」
車田はそう言って天城のいたところに戻って行った。神童も、霧野によろしく頼むと伝えると、ゴールポストのほうへと駆け寄った。
「三国さん」
「ああ、なんだ?」
今日初めて三国の目を見て話す。妙に意識してしまって緊張した。
「車田さんが、三国さんが風邪みたいだって。調子が悪いなら早めに休んでください」
「……なんだ、案外すぐにバレるもんだなあ」
神童が指摘すると、三国は苦笑し頭を掻いた。どうやら車田の言うとおりだったらしい。隠せると思ったのになあ、なんて笑っている。
「三国さんは雷門の唯一のキーパーなんです。試合前に倒れられたら困ります」
「分かったよ。そう言われちゃ弱い。ベンチで見てるから、何かあったら言ってくれよ」
「はい。お願いします」
三国は手にしていたボールを神童に渡し、すたすたとマネージャーがいるベンチに下がって行った。監督と言葉を交わし座る。それをしっかり見届けて、神童も霧野の元へと戻った。
その後は特に何もないまま練習が無事に終わり、後片づけも終わった。
ロッカー室では部員が制服に着替え、身支度が終わった者から順番に帰っていっている。
「お疲れさまでしたーっ!」
「ああ、お疲れ」
元気な一年生が帰ると、あとは戸締りをする神童とそれを待つ霧野、そして三年生だけになる。
神童を待っていて手持無沙汰な霧野が三国に声をかけた。
「体調は大丈夫ですか?」
「平気だよ。風邪なんて言っても、たまに咳が出る程度で全然。心配かけてすまないな」
「風邪はひきはじめが肝心だド。こじらせて試合に出られなくなるほうが困るド」
天城がそう言ってばたんと扉を閉める。あとロッカー室で着替えているのは三国だけで、キーパーというポジション上、プロテクターや脱ぐものが多く時間がかかっていた。
「そうだな、早く治すことにするよ」
「……三国さん、よく効く風邪薬を神童が持ってますよ」
「え?」
それに返事をしたのは、いきなり名前を出された神童だった。霧野は神童に目配せしその意味を伝えた。
『あの薬を使ってみろよ』。そう言っている。『大丈夫、毒だとしても死にやしないさ』。
まさか、死にはしないかもしれなくとも得体のしれないあれを、風邪気味の三国さんに飲ませろっていうのか。
「持ってるのか? 神童」
「あ、いや、えっと……」
「神童の家の薬は効きそうだな! 主治医とかいそうだし」
車田も加わり、どんどん話が大きくなっていく。神童は霧野を睨んだが後の祭りだった。
もうここまで話が大きくなれば差し出すしかなくて、だが何が起こるか分からないものを5人も部員のいる部室で使うわけにはいかなくて、神童は仕方がなく、三国を家へと呼んだのだった。
「相変わらず広いな、神童の部屋は」
部屋に入るなり、居心地が悪そうに三国が佇む。それを手招いてソファまで呼び、座ってもらった。
ちょっと待っていてくださいと伝え、執事に用意してくれた2つの紅茶とは別に1杯の水を頼む。その水のトレイに鞄から出した薬を乗せ、テーブルに置いた。
久しぶりに家で二人きりだというのにこの心の重さは何だろう。一目瞭然だ。
しかしもしかしたら、もしかしたら、本当に欲求不満を解消できる薬なのかもしれない。その可能性をマエストロの笑みに賭けた。
「……さ、三国さん。これです」
「ありがとう」
一杯の水の隣に置かれたそれを三国が何の迷いもなく手にとり、口の中に放り込む。あっ、と制止する間もなく水によって喉奥へと飲み込まれてしまった。
これでもう取り返しはつかない。何が起こっても自分の責任だ。神童は固唾を呑んで見守った。
だが、特に三国にこれといった変化はなかった。至って普通に、今日の練習をベンチで見ていて思ったことや、普段のことを話している。
結局あれはただの栄養剤か何かだったのか。と、神童は結論を付けた。
それが分かればこちらのものだ。どうせなら、久しぶりに二人きりになれたことに幸せを感じようと開き直れた。
「三国さん」
ソファで座る距離を縮めて三国の手を取る。三国は一瞬びくりとしたがすぐに力を抜いて神童の方へと身体を寄せた。
信頼されているというこの距離感がとても幸せだ。触れるか触れないかの肩の距離と、手のひらを通して伝わる温もりが安心感を与える。
このゆっくり流れる空間に言葉は不要だった。
だが、一緒にいるだけで幸せではあるのだが、マエストロが言ったように欲求不満である神童は少しずつ焦れていった。
せっかく二人きりなのだからキスくらいは許されるだろうか。そんなことを考えていたとき、ふと、重ねていた三国の手がきゅっと握られたことに気付いた。
「?」
「あっ……、神童」
首を傾げて隣を見る。三国は顔を赤らめて視線を逸らせた。何かがおかしい。もしかして、さっきの薬はやはり毒だったのか。神童は幸せな気分も吹っ飛び、一気に青ざめた。
「どこか身体の具合でも悪いんですか!?」
「い、いや」
「今すぐ家の者を呼んできます、待ってて下さい!」
「そうじゃないんだ!」
慌ててソファを立とうとした神童の腕を取り、三国が言った。真っ赤になった顔をもう片方の腕で隠している。
やはりおかしい。熱でも出てきてしまったのだろうか。
「早く病院にっ……」
「神童、違うん、だ、聞いてくれ」
今にも部屋を飛び出して行きそうな神童を必死に止める。何度も言葉を発しようとしては閉じる唇をじっと見ていると、ようやく、消え入るような声が漏れ出てきた。
「……む……、胸、が、痛くて」
「心臓が!?」
「そっちじゃなくてっ」
三国が焦れて、掴んでいた神童の腕を引き、手のひらを己の胸に押し付けた。すると、制服越しでも分かる突起が神童の手のひらに触れた。
何、とは言えない。野暮だ。恐らく痛いほど尖りきり、腫れてすらいそうな感触のそれを神童の手に押し付けて、三国は顔を隠したまま言った。
「……さっきから、い、痛い、というより、痒い……んだ、むずむずして、触りたくてたまらない」
「ぬ、脱がせて見てもいいですか……?」
一体なぜそんなところがおかしくなっているのかわけが分からないが、神童はおずおずと聞いた。三国が熱のこもった息を吐いて頷いたのを確認して、制服のボタンをひとつひとつ外していく。
まずは学ラン、次にワイシャツのボタンを外し前を開けると、成長途中ながらに鍛えられた上半身が出てきた。
そして、その白い肌の上に、赤く尖った乳首。つんと尖っていること以外は特に変わったようには見えないが、三国がそこを気にするように身じろぎした。
「何も変わったところはないですけど、」
「っ……」
肌を隠そうとするワイシャツに触れただけでびくりと肩を揺らされる。神童はそれに驚き思わず手を離したが、逃がさないように再び三国の手がそれを掴んだ。
そしてもう我慢ができないというように前に立つ神童を見上げた。
「神童っ……、頼む」
「三国さん?」
「触ってくれ……!」
えええ!? なんて、ムードのかけらもない叫びは、身体を引き寄せられて唇を塞がれて消えてしまった。
痛いほど尖り腫れたそこに指をそっと絡める。少し触れただけで三国は大きく肩を揺らした。
「ぁ、っも、っと強くていい……っ」
「こう、ですか?」
「いッ……!」
きゅっと指で抓むと、悲鳴のような嬌声のような声が漏れ出た。痛そうに見えるがこれでいらしい。快感を引き出すというよりもマッサージをするように指で捏ねると三国の息は乱れた。
「はっ……う……っ」
眉根を寄せて耐えるような三国に神童は思わず興奮した。そのせいでつい力を入れすぎてしまった。
「っあ、は、っ……!!」
「……わっ、……え……っ!?」
じわ、と乳管を通して白い液体が出て来て、神童は手を離した。乳首の先端から白い液体が出るなんて、まるで母乳のようだ。
三国は神童の様子に目を開けて己の身体を見た。男である自分の体からは出てくるはずのないそれに驚き、頭を抱えた。
「何だ、これ……」
「ぼ、母乳みたいですけど……ん」
「しっ、神童!!」
好奇心から、手についた白い液体を舐めてみる。味は薄いが、ほんのりと甘い。美味いか不味いかと言われたら間違いなく美味いものだ。
「これ、本当に母乳みたいです」
「は!? 何で俺の体からそんなもの……!! 病気なのか……?」
「いや……」
ここで、神童はあるものに思い当った。薬だ。あの薬を飲んだから母乳が出るようになってしまった、と考えるのが妥当だ。
どこかでマエストロが頷いたような気がした。
「病気ではないです。俺のせいです、すみません」
「神童の? 一体どういう」
「説明は後にしましょう、今は三国さんの身体を元に戻すのが先です」
原因が分かればこちらのものだ。そして薬の内容も分かれば完全にこちらのペースだ。神童は指を絡めていた乳首に舌を這わせ、固まった乳首を解すように動かした。
「ッ、しん、どうっ」
三国が神童の頭を剥がすように手を動かす。だがそれに動じず、上下の唇で乳首を食み、思い切り吸ってみた。
「あっ、んんぅ……ッ!」
びくびくと三国の体が揺れる。それと同時に吸った乳首からは甘い液体が漏れ、神童の咥内を濡らした。ごくりと嚥下して、もう一度。何度か吸っても、乳首はまだ張っていた。
三国はというと、神童が乳首を吸うたびに身体が跳ね、喉奥からは声が漏れている。母乳が出ることが気持ちいいというよりも、張って敏感になった乳首に愛撫されるのが快感になっているようだった。
「神童っ、離、せっ」
「これを全部出し切るまでやってあげます」
「いらない……っ、いらないから、神ど、ッあ!」
空いている手を滑らせて三国の下肢に這わせる。母乳を出しているくせにしっかりと男の主張をしているそれが快感を伝えていた。
上半身と下半身がちぐはぐで、神童は小さく笑った。
「後でこっちの白いのも全部出させてあげますね」
「お、お前っ、いつの間にそんな台詞言うようになったんだ!」
どうやら、おかげで欲求不満は解消されるようだった。
***
※マエストロはそんなことしない
2011.12.18
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