※チームガルシルド スパイダー×ディンゴ です。



 ここ、ガルシルド邸では突然一人の選手がいなくなることがざらにあった。
 とは言っても、永遠にいなくなるわけではない。改造をされている手前、その改造結果を見られたり検体検査をされたりするのだ。
 ディンゴも過去に何度か、突然男に部屋に呼ばれ、色々な器具を付けられたことがある。全てあちらの都合のため本当に唐突なのが困りものなのだが。
 だから今回もそれで姿が見えないのだなと思っていた。

 スパイダーが戻ってこない。
 部屋とも言い難い簡素な部屋で、布団という名の布にくるまってディンゴは隣の空の寝床を見た。
 練習というより訓練のようなものを終えたのちに眠るこの場所は監獄のようでもあったが唯一の休息の場所であった。その部屋のパートナーであるスパイダーが、戻ってこない。
 もうじき戻ってくるだろう、と思い始めて数十分。
 先に寝てしまおうと思い目を瞑るのだが、検査を終えてどこかで行き倒れてるんじゃないかとか、そもそも検査で何かあったんじゃないかとか、そんな心配がディンゴの頭をよぎって眠れなかった。
 せめて廊下に出て探しに行きたいところなのだが、勝手に出歩いているところを見つかれば罰を受けるだけで済むかどうか。
 ますます冴えていく目を数度瞬いて、ついにディンゴは体を起こした。そして探しに行くかどうするか迷って、部屋をうろうろと歩いているうちに、その扉がぎいっと開いた。

「スパイダー!」

 そこにいたのは待ちわびたスパイダーだった。無事に戻ってきたことを喜び、そばに駆け寄る。も、彼がひどくふらふらであることに気付き眉を顰めた。

「どうしたんだ? 大丈夫か、」
「…………、大丈夫だ」

 彼が今まで何をしていたのか、されていたのか分からないが、明らかに疲弊しきっている。下手に触れず今はとにかく睡眠を勧めるべきだろうとディンゴなりに結論付け、スパイダーの腕を引いた。

「もう寝よう。明日も練習があるし」
「――触るな!」

 突然その腕を振り払われて、ディンゴは目を丸くした。こんなスパイダーは見たことがない。一体何が彼をそうさせたのだろうか、問うより前にはっとしたスパイダーが俯いた。

「す――すまない、何でもない。寝よう」

 ディンゴを急かすスパイダーは、やはりおかしかった。自分達は同じ国を想い同じチームでプレイするチームメイトだ。そんな彼を気にせず眠れというのは無理な話だ。
 布団にくるまって眠ろうとするスパイダーを引きとめてディンゴは言った。

「なあ、具合が悪いなら誰かに言うべきだって」
「寝れば治る」
「治るって、やっぱりおかしいんじゃないか! なあスパイダー!」

 無理矢理布団をはがそうとする。しかしスパイダーは頑なに布団を掴んだまま離さなかった。何故そんなにも強情に拒否するのだろうか。数分間の攻防の末、先に諦めたのはディンゴのほうだった。

「……分かったよ、そんなに嫌ならもう寝よう。無理言って悪かった」
「っ……ああ、おやすみ」
「おやすみ」

 スパイダーの息が荒くなっているのが気になるが、本人がこんなにも大丈夫だと言うなら信じてやるしかないか。
 ディンゴはまだ後ろ髪引かれる思いだったが、布団にくるまるスパイダーの背中を見て、ため息をついて目を瞑った。

 押し殺したような、しかし殺しきれない荒い息づかいが聞こえてくる。眠ろうとするのだが隣でそんな声を聞かされては眠れるはずがない。
 スパイダーのほうをうっすら目を開けて見ると、先程から全く変わらず、背中を丸めて何かに耐えるように息を吐いていた。やはり、無理やり引っ張ってでも誰か大人の元に連れて行くべきではないか。ディンゴはそう思い、再び体を起こした。

「スパイダー……、やっぱり駄目だって。一緒に誰かに……」
「――ッ!」

 スパイダーの肩を掴み、布を剥ぎ取ろうとしたところでディンゴはそれに気付いた。布にくるまる体の一部だけが露出している。スパイダーは暗闇でも分かるほどさっと頬を赤らめ、ディンゴが取った布を奪い返した。

「……え」
「だから寝てろって言ったんだよ……!」

 スパイダーは耳まで赤い顔を隠すように布に顔を埋めた。だがディンゴが芽を瞬かせたまま動かないのに気付き、片目を布から覗かせた。

「……ディンゴ?」
「な……何、してたんだ? 今、」
「何って……」

 ごにょごにょとスパイダーが伝えるが、その単語をディンゴは知らなかった。それに逆に驚いたのはスパイダーだった。

「は……はあ!? お前、オナニーしたことないのかよ!」
「だから何だよそれ!」
「信じらんない。それで男なのか」

 スパイダーはそう吐き捨て、そっぽを向いて呟いた。

「じゃあ俺が一人でやってたのが余計馬鹿みたいじゃん……」
「スパイダーはそれをよくやるのか?」

 ディンゴが先程とは打って変って好奇心の目をスパイダーに向けた。その問いにスパイダーはぶんぶんと首を振った。

「勘違いするなよ! 今日はガルシルド様が……」
「ガルシルド様?」

 言いかけて、スパイダーは口を噤んだ。これは言っていいものかどうかと悩んでいるようだった。その間も息は荒い。
 だが暫く迷ったのち、おずおずと口を開いた。

「これは……、さっき呼ばれて行ったとき、ガルシルド様が変なのを飲ませたからで……」
「変なもの……?」
「もう! いい加減察しろよ!! その変なもののせいで体が疼いて仕方がないんだよ!」

 半ば自棄になったようにスパイダーがそう吐き捨てた。羞恥からかその変なものとやらのせいからか、目は潤み荒い息が熱い。ディンゴは未だに全てを飲み込めないままであったが、そのいつもとは違う様子になんとなく事を察し、膝を擦り合わせた。
 だが、スパイダーの様子がおかしい理由が聞けたからといって、それで何か解決策が思い浮かぶわけでもない。むしろ余計に分からなくなってしまった。
 その変なものとやらでおかしくなってしまった体は、どうやったら治るのだろう。ディンゴには何もできないのだろうか。

「なあ、それって……その、オナニーとかいうやつをしないとどうにもならないのか」
「オナニーしないでどうにかなる方法があるなら俺が知りたい」
「そ、そうなのか」

 スパイダーはずっと手をもじもじと動かしている。今話している間もきっとそのオナニーとやらをしたくてたまらないのだろう。
 ディンゴは自分がどうするべきなのか、視線を彷徨わせて迷った。部屋を出て行ってスパイダーを一人にしてやるべきなのか。そうしたい気持ちは山々でも、安易に外には出られない。スパイダーもそれが分かっているからディンゴのいる部屋で事に及ぼうとしたのだろう。
 ディンゴが迷っていたところを、スパイダーが押し殺したような声を出した。

「……ディンゴ」
「何だ?」
「お前、オナニーしたことないんだよな。教えてやるよ」

 突然スパイダーがぐっと身を乗り出してきて、ディンゴは思わず反射的に後ずさった。
 スパイダーはまだ苦しそうにしているが、口の端が楽しそうに歪んでいる。これに乗ってしまっては何か痛い目を見てしまいそうで怖い。
 ディンゴはスパイダーから距離を置くように尻で後ろへと移動するが、狭い部屋ではそれも虚しかった。
 スパイダーの手がディンゴの腰布に触れる。お互い同じものを着ているせいで、構造を理解しきったスパイダーにいとも簡単に奪い取られた。

「まっ、待てよスパイダー、何するんだよ!」
「さっきから言ってるだろ」

 這って逃げようとするディンゴを逃がさぬよう、スパイダーが後ろから腰をがっちり掴んだ。そしてその掴んだ布を一気に膝までずり下げる。下着ごと全て下げられあらぬところを露出させられ、しかも足の自由まで奪われ、ディンゴは赤面した。
 振り返ってスパイダーを見、文句を言おうと口を開く。が、スパイダーの表情が苦しそうだが楽しそうで、その熱に浮かされた様子に一瞬怯んだ。その隙を突いて、スパイダーは主導権を完全に握った。

「うわっ! へ、変なとこ触るな……っ!」

 四つん這いになったディンゴの背中から覆いかぶさるスパイダーは、無言のままディンゴの下肢に触れた。腰から尻をつうっと撫で、その谷に指を這わせる。もう片方の手は腰から前にまわり、ディンゴにはいまだ排泄器官という認識しかないそこに触れた。
 スパイダーの指が、やわやわとディンゴの性器に触れる。後ろからでは見えないが、触れただけでまだ幼いと分かるものだった。

「やめろよ、スパイダー! 汚いって……ッ」
「……なんだ、本当にまだなんだな」

 しばらくやわやわとそこを刺激して、ようやくスパイダーが口を開いた。まだ、とは何なのか。ディンゴには分からなかったが、今はそんな汚いところからスパイダーの手を離させることが先だ。
 後ろからまわるスパイダーの手を引き剥がすように力をこめてみる。だが意外にがっちりしていて、しかも男にとっての急所を掴まれているのが弱味となって、その手は剥がせなかった。

「射精できないなら、こっちだ」

 スパイダーの、前にまわっていた手ではなく後ろで尻のあたりにあった手が動いた。まさか、とディンゴは嫌な予感に体を固まらせた。そして、その嫌な予感は的中するのだった。
 双丘の間、最も窄まった箇所にスパイダーの指が到達し、そこを撫で擦ったのだ。

「いッ……!?」

 ディンゴは言葉も上げられなかった。そこは本当に汚いところだ。スパイダーは何故そんなところを触るのだろうか。
 水を浴び体を洗ってもそこは汚い。やめてくれ、と身を捩るのだが、有無を言わさないようなスパイダーの力になすすべも無かった。
 せめて、声だけの抵抗をする。

「スパイダー、やめろって! そこッ!」

 だが、いくら声を上げてもスパイダーはやめてはくれなかった。
 スパイダーの指が一度離れたかと思うと、冷たくぬるつく感触になって再び触れた。一体何を指につけたのか、考える間もなく、ぬるっと硬く窄まるそこに押しいれられた。

「ッ……! スパイダー、痛……ッ!」

 排出器官であるそこは、逆に入れられるようには出来ていない。痛みに体を捩っても、スパイダーはがっちり体を抑えたままだった。

「やめ、ろッ! んッ、いたいっ」
「ちょっと大人しくしろよ。もうすぐ気持ち良くなるから」
「なるわけないだろ! 馬鹿、離せ!」

 スパイダーの指がディンゴの体内で蠢いた。もう片方の手は変わらず小さな性器を刺激している。
 そんなところを触られても気持ち良くなるわけがない。これは異常な行為である。思わず吐きそうになって、口を手で抑えた。

「お前、こんなこと、いつもしてるのかよ……っ」
「……しょうがないだろ。ガルシルド様に教え込まされたんだから」
「何、……っ、あッ……!」

 スパイダーの言った言葉を問い質そうとした瞬間、ディンゴの口から明らかに今までとは違う声が上がった。それを聞いてスパイダーは安堵したような笑みを浮かべた。

「あったぞ。ここだ」
「あっ、なッ、何……っ!」

 スパイダーの指がぐいぐいと一点を責める。その度にディンゴの下腹に妙な感覚が広がった。今まで感じたことがない。だが、それを気持ちがいいと認識した途端、全てがどうでもよくなった。

「言っただろ。気持ち良くなるって」
「あっ、あっ……んッ……」
「外に聞かれないように声は抑えろよ」

 スパイダーの今まで性器を触っていた手が、ディンゴの唇の間に入れられた。が、汚いと感じることもなくなっていた。
 口の中に侵入してきたそれに夢中で舌を這わせる。すると、覆いかぶさるスパイダーが耳元でごくりと喉を鳴らしたのが聞こえた。

「……俺、も、我慢できない」

 突然、スパイダーがディンゴの体を反転させた。向かい合うようになれば気恥ずかしさも生まれるかと思ったが、今はとにかく気持ちの良いものをもっと感じていたくて、少し離されたスパイダーの体に擦り寄った。だが腕に縋りつくと、ぐいっと頭を離されてディンゴの腕を取られた。

「俺がやったようにやれ」

 そして、スパイダーの後孔へとディンゴの指を押しあてられる。そこは、汗などではなく白く濁る液体でぐちゃぐちゃで、ディンゴの指を誘うように開閉した。明らかにそれは男に凌辱された跡であったが、ディンゴはそれには気づかなかった。知識がなかったとも言える。
 スパイダーの言うままに指を中に入れてみると、ディンゴのときとは比べ物にならないくらいすんなりと奥まで入れることができた。

「そ……だ、そこ、らへん……ッ、にっ」
「なか、熱……っ」
「はぅ……ッあ、あっ、動かして……っ」

 ディンゴが指を見よう見まねに動かしてみると、あれだけディンゴを責め立てていたスパイダーが甘い声を上げてかくんと力を抜いた。ディンゴの腕を片手で掴み、指を出し入れさせると同時に腰を振る。
 目の前で乱れるスパイダーにディンゴは唾を飲み込んだ。見たことのないチームメイトの痴態に引くことはなく、むしろもっと乱れさせてやりたいと思った。
 だが、指をもっと動かそうとした瞬間、スパイダーの、未だディンゴの体内に埋め込まれたままであった指が再び動き出し、ディンゴの一方的な責めは中断させられた。

「――っ、あ、スパイダーっ……!」
「一緒に、気持ち良くなったほうが、っ、……いいっ、だろ」

 しかし気持ち良くされると、どうしてもスパイダーの体内に入れた指が疎かになってしまう。それに焦れたスパイダーが、空いた片方の手をディンゴの指と同じように自ら後孔に入れた。ディンゴの指はスパイダーの体内に入る指が増えたことで窮屈さを感じたが、それと同時に肉壁がきゅうっと締まるのが感じ取れた。
 目の前にあるスパイダーの表情からも分かる。気持ちが良いのだろう。口の端から唾液を零し息を継ぐスパイダーは、やはり扇情的だった。
 だがそれもよく見ていられない。スパイダーの指が的確にディンゴの気持ちいいところを押してくる。下腹が疼いた。きっとスパイダーの指が入れられたディンゴの体内も、スパイダーと同様に収縮している。

「はっ、だめッ、なんか……っくる……ッ」
「俺も、我慢しすぎて狂いそ、う……っ! あっ、んん……!」
「あ、あ……ッ!!」

 スパイダーの指がずん、とディンゴの最も感じる箇所を突き、下腹部で疼いていたものが一気に弾け飛んだ。それはスパイダーも同じだったようで、ディンゴのすぐ傍にある体がびくびくと動き、指を入れている体内も大きく蠢いている。
 それと同時に、スパイダーに触れていた腕にぱたぱたと液体がかかり、荒い息をつきながらその腕を見、驚いた。

「すっ、スパイダー、何だこれ!?」
「何って、精液……」

 説明しようとスパイダーは口を開きかけて、やめた。時間が経ち、熱も引いたところでどうでもよくなったのだ。
 スパイダーはディンゴから体を離すと、汚れたところを適当な布で拭いて服をきちんと着直した。だが、そばにいるディンゴが動かないままであることに気付き怪訝な目を向けた。

「ディンゴ?」
「なあ……、スパイダー」

 ディンゴは少し迷っていたが、やがてきらきらした目でスパイダーを見上げた。

「今の、またしてくれよ! 気持ち良かった!」
「は、はあ……? 嫌、」
「頼む!!」

 土下座しかねないディンゴの様子に、スパイダーはため息をつきながらもしょうがないなと口端を上げた。

***

2011.07.25

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