海外から単身で日本に来ている少年達のために、サッカー協会は無料で扱える国際電話を提供している。
『ニース! 連絡よこさないからどうしてるのかと思っていたぞ』
「ごめんごめん! 元気な証拠だって」
電話の向こうからわいわい喧騒が聞こえる。ニースが電話したのはオーストラリア。そこには母国に戻ったジーンやリーフ達がいた。
受話器を持っているのはジーンで、今まで一度も連絡してこなかったニースに怒りをあらわした。
『それで、どうなんだ。そっちのチームは』
「まあよくやっているよ。ミスター円堂は懐の広い男だ」
軽くジャパンでの暮らしを説明する。そのニースの口ぶりにジーンも少し安心したのか、小さくため息をついた。
『……しかし、どうせお前のことだから、ジャパンでもそこらの女にナンパしてるんだろう』
「そんなことはないぞ。俺も腹を決めたからな、ふらふらするのも少しはやめたんだ」
『ニースがジャパンで決まった恋人を!!?』
突然受話器の向こうの声が変わり、ニースの耳が騒音にキーンと鳴った。思わず受話器を離して耳をふさいだ。
『うるさいぞリーフ!!』
『だってジーン、ニースが恋人って! ちょっとニース聞いてる!??』
「聞こえてるから声の音量落としてくれ……」
受話器を少し離したままリーフに訴えると、リーフは渋々というように少し声量を落とした。だが言うことは全く変わらず、ニースを問い詰めた。
『あんなに特定の女を作らなかったニースが恋人なんて。しかもジャパンで! 一体何があったんだよ』
「まあ、相手は女でもなければジャパニーズでもないんだけど」
『男ぉ!!??』
更に大きな声が向こうから響いた。どうやらあちらで更に人が増えたようだ。
『おいニースっ、男相手ってどういうことだよ!』
『あんなに女好きのお前が何で男に!?』
『しかも外国人って、そんな男どこで』
『まさか変な男にナンパされたんじゃ……!』
『ニースは掘るの? 掘られるの?』
矢継ぎ早に受話器の向こうの相手が変わり、質問が繰り出された。全く騒々しい。
ニースは苦笑しながら、ひとつひとつに答えていこうと口を開こうとした。瞬間、
「ニース。そろそろ雷門中に戻らないと夕飯を食べ損ねますよ」
「あ、本当だ! 今行くよビヨン!」
『ニース?』
「すまない皆、俺は戻らないと! また連絡するよ、じゃあ――」
『まっ、待てニース、せめてお前の相手を言ってから――!』
BWのチームメイトの必死の制止も聞かず、ニースはがしゃんと通話を切った。
電子音のする受話器を片手に、残された海の男たちは呆然とするしかなかった。
「そういえば、電話でやけに盛り上がっているようでしたが何を話していたんですか?」
夕飯を食べ終えて、風呂も終えて。寝る仕度をしながらビヨンがニースに聞いた。ニースは少し思い出すように考え、ああ、と手を打った。
「電話のことか! 恋人ができたって言ったら、相手が誰なのか知りたがられて」
「言ったんですか?」
「言おうとしたらビヨンが来たから切っちゃったな。日本人じゃない男だってことは言ったけど」
「……それは驚かれたでしょうね」
女好きのニースが男を相手にしていると言ったときの彼のチームメイトの驚きは想像にかたくない。
「でもビヨンを見たら納得すると思うんだけどなー」
「……。女にでも見えるんですか」
「いや、ネコっぽいから」
低い声で言ったビヨンにそう返すと、ビヨンはわけが分からないというように眉を顰めた。
今度はニースがビヨンに聞いた。
「ビヨンはチームメイトに俺のことを話したりは?」
「できるわけありませんよ。私の国は、……その、こういうのに偏見があるのが普通ですから」
「あー、そっか……」
ニースはしょんぼり項垂れた。犬の耳がついていたら悲しげに垂れていただろう。
「でも、そのうち機会があればいい友人として紹介したいと思っていますよ」
「本当か! それは嬉しい!!」
打って変って心から嬉しそうな顔をしたニースがとても動物的で可愛く見えて、ビヨンは自然と頬が緩んだ。
ニースに近づき、自分よりずっと大きい大人の手を取る。
「私は人に言えなくとも、貴方を愛してますから」
「ああ……ビヨン!」
感極まったニースがその手を離して頭二つ分も違うビヨンをひっしと抱きしめた。厚い胸板がビヨンの顔を押しつぶす。息を吸うとニースの香りと石鹸の香りがした。
「えーっと、明日も通常の練習メニューだっけ」
「そうですよ」
「じゃあちょっとくらい夜更かししてもビヨンなら平気だな!」
「は!?」
ビヨンを抱きしめたままベッドにざぶんと移動して、ニースは楽しそうにそう言った。
「……っぁ、ん、っ……」
一体これを始めてからどれだけ経っているだろう。足を開いて座ったニースがその間に背中向きにビヨンを置き、ビヨンの足を膝を立たせて開かせている。
そして背中から回されたニースの片手がビヨンの足の間に伸び、指の腹で執拗に、袋と肛門の間の会陰を押していた。
「もっ、そこばかり……っ!」
「ああ、ここしか触ってないのに立ってるけど?」
揶揄するようにすっかり天を向いたそれを手のひらでほんの少し触れる。それだけでビヨンは肩をびくりと震わせ、声を殺した。
ニースは髪の間から覗くビヨンの耳を食みながら、変わらずに中指で会陰を押した。
「はっ、あっ……」
性器を直接触れられているわけでもなければ、アナルに触れられているわけでもない。別になんでもない部分を触られているだけだと思うのに、こみ上げてくる快感がある。
背中からビヨンを抱く腕を掴み、耐えるように唇を噛んだ。
「すごい、前も後ろもびくびくしてる。ここってそんなに気持ちいいのか?」
言い返そうとしたが、口を開けば甘い声しか出ない気がしてやめた。ニースの言う通りビヨンの性器はびくびくと上下に揺れ、後孔は物欲しそうにひくついている。
その様子にニースは更に楽しそうに、そこを押すのだった。
「いつもは中に指入れて直接前立腺を触ってるけど、こうやるのもたまにはいいんだな」
「……っあ、ア……ッ」
ずっと触られて、そこはすっかり赤くなっている。ニースが少し力を強めると声が抑え切れなくなり、腕を強く掴んだ。
頭がぼうっとする。しかも、いつも達する前のときのそれとは桁が違う。こみ上げてくる快感の量が比にならない。
開いた膝を震わせ、首を振った。
「あっ、や、だ……ッ……!」
「イくか?」
「だッ、め、アッ、あぁああ……ッ!」
急激に体の奥から快感が押し寄せ、声にならない声が喉から上がった。体が勝手に揺れてニースの腕を痛いほど強く掴んでしまう。
だがそんなことに構っていられないくらい、快感が強すぎた。頭が痛いほど真っ白になり視界も涙に歪んだ。
こんなにも強烈な快感は初めてだ。しかも達していた時間は長く、永遠にすら感じられた。
まだ達している間、意識のない間にビヨンの耳元でニースが口を開いた。
「……あ、すごい……! ビヨン、ドライだ……」
ビヨンの意識があっても、その言葉の意味は理解できなかっただろう。だがニースは感動したように、再び指を動かした。場所は勿論、変わらず会陰。
達している間に再び敏感な部分に触れられてビヨンの体は大きく跳ねた。やめてくれと首を振るがニースは聞かず、強い力でそこを嬲った。
「あっ、あ、あ、ああ……ッ!」
口がはしたなく開いたまま閉まらず、ひっきりなしに声が上がってしまう。震える体もどうしていいか分からずニースに背を預けたまま動かせなかった。
達しても達しても終わりが見えない。強烈な快感の波は引くことを知らないようで、延々と押し寄せてきた。
ニースの空いている手がビヨンの顎を掴み、横を向かせた。そしてニースはビヨンの顔を覗きこんだ。
「わ、やば……エロ……」
「んっ、はッ、あ、ぁあっ」
ビヨンが上手く継げない息を必死に吐きながら、定まらない焦点でニースを見上げた。腕を強く掴む指先はすっかり白くなって震えていた。
もう、達しすぎて気が狂いそうだった。
「ビヨンつらそうだから、そろそろおしまいにしようか」
「はっあ、あッ、ひ……っ!」
ニースの手が会陰から離れ、性器に触れた。
そこはびくびくと震えてはいたが今までずっと射精されておらず、透明な汁をひっきりなしに腹に垂らしていた。
そうだった。
ビヨンが達していたのは射精を伴わないドライオーガズムだったのだ。
普段の射精での快感とは比べ物にならないそれは、ビヨンにとって初めての体験だった。
達している最中の体はどこを触っても敏感にびくついた。それが性器ともなれば体は大きく揺れ、声が漏れた。
数回も扱かぬうちに、吐精に体が弛緩した。
「――ッん、あ、……あぁああ……ッ!」
精液の量は普段よりもずっと多かった。ニースの手の中で性器が震える。それだけ快感が大きいということで、全て吐きだしたころには、ビヨンは荒い息をつくことしかできなかった。
「どうだった? 空イキ」
「なんですか、それ……」
「何って、いまの。気持ち良かっただろ?」
ビヨンはしばらく視線を彷徨わせて、答えた。
「とりあえず、絶対に、私のチームメイトにはこの関係は言えませんね」
「……それは質問の答えになってないな」
*****
2011.05.15
beyon top