「続いての質問ですっ! ズバリ、好きな女性のタイプは何ですか!?」
「ははは。子ネコちゃんならどんな子でも魅力的だよ!」
「優しくおしとやかな女性ですかね」
「……思いつきません」

 全く、このインタビューはいつまで続くのだろうか。すでに本筋から盛大にずれている。
 愛想を振りまく女性インタビュアーをちらと見て、はあとため息をついた。

 「イナズマジャパンの対戦した相手国のキャプテンに独占インタビュー」と題されたそれは、小一時間ほど前から続いていた。
 名の通り、呼ばれていたのはオーストラリア代表キャプテンのニース・ドルフィン。カタール代表キャプテンのビヨン・カイル。そして韓国代表キャプテンのチェ・チャンスウだ。
 はじめこそサッカーについて色々と聞かれたり、今の思いを聞かれたりと筋の通るインタビューが行われていたが、今やサッカーとは全く関係ない話題になっている。
 こんな質問によくも二人はニコニコと答えられるなと、ビヨンは一人ため息をついたのだった。

「カイルさんは思いつかないとのことですが、それでは初恋の女性はどんなタイプだったんですか?」
「……そんな人はまだいません。サッカー一筋でしたから」
「サッカーが恋人ってやつか! いいなー青春だな!」

 ビヨンが暗い声で答えたのをニースが拾って茶化す。この男のテンションにもうんざりだった。

「いつインタビューは終わるんでしょうか。そろそろ午後の練習もあるので帰りたいのですが」
「あっ、お三方は今、元対戦国のイナズマジャパンにも引き抜かれていらっしゃるんですもんね。今の心境を教えてください!」
「今の心境は、早く帰りたいです」

 インタビュアーはまだ話足りなさそうだったが、ビヨンは辛辣に答えて席を経った。チャンスウが慌てたように場を取り繕おうとしたが、それに構うのも面倒だった。

「カイルさんっ! すみません、今……」
「もう記事に書くだけの話は十分聞いたでしょう。私はもう帰ります」
「んー、じゃあ俺らも帰るかチャンスウ!」

 扉を開けるビヨンを見て、ニースは能天気にそう言った。インタビュアーが口を挟もうとしたが、気にせずニースも席を立った。

「確かにビヨンの言うとおりだしな。座りっぱなしでそろそろ動きたい」
「そ、それはまあ、確かに……そうですけど……」
「あ、それともチャンスウが俺たちの分までこのままインタビューに答えてくれるらしいんで」

 すべてをなすりつけようとしたニースに、チャンスウも慌てたように席を立った。それだけはごめんだ。

「わかりました、わかりましたよ! それでは私もそろそろ失礼させていただきます」
「えっ、あ、ちょっと……!」
「バイバイ!」

 ビヨンはとっくに部屋から出て行っていた。その背中を追いかけるようにしてニースとチャンスウも部屋を飛び出し、そこには茫然としたインタビュアーだけが残された。




「待てってビヨン!」
「なんですか、貴方達も出てきたんですか」
「そりゃ、あんなことになったら出てきざるをえませんよ……」

 ビヨンの背中においついて、3人は肩を並べて歩き出した。インタビューを行っていたのはサッカー協会の一室だった。協会の広い廊下を闊歩して外に出る。蒸し暑かった。

「……あ。」
「ん? 何だチャンスウ」

 突然チャンスウが立ち止まり声をあげた。振り返ってニースが問うと、チャンスウが言いにくそうに話し始めた。

「……交通費はあちらが出してくれると言っていたのに、貰い損ね……ましたね」
「…………ああ〜……」

 そういえばインタビューの交通費は先方が負担してくれるからということで引き受けたのに、途中で引き上げてしまったために受け取ってくるのを忘れてしまった。
 だからといって今からまた戻ってお金をせびりに行くのも気まずい。

「金、持ってるか?」
「私は持ってきてないです」
「少し多めに持ってきてはいますが、三人分はないですよ……」

 チャンスウがガマ口の財布を開いて中を確かめた。この三人の中でも一番しっかりしているから、と今日の金の管理はチャンスウが担っていたのだ。

「……。歩くか」

 結論は、そこに行き着いた。いつもならば雷門中から協会までバスか電車を使って行くのだが、一応道は覚えている。
 歩けば2時間はかかるかもしれないが、痺れを切らしたビヨンのおかげで午後の練習に間に合う時間ではあるし、ずっと座っていた彼らにはそれもいい運動になるだろう。

「午後の練習までに体力尽きたらそれはそれで意味ないけどなー」
「そんなヤワな体してませんよ」

 三人の中でも最も体力のあるビヨンが鼻を鳴らした。問題はニースと、特にチャンスウにあるようだ。

「……ま、まあなんとかなるでしょう」
「俺たちの、ってうかチャンスウの体力が尽きたらおぶっていってくれよービヨンー」
「嫌ですよ。置いていきますからね」

 そう言ってつかつかと歩みだしたビヨンの背中に、今度はチャンスウが声をかけた。

「あっ! カイルさん!」
「……今度は何ですか」
「そっちは雷門中の方向じゃないです。真逆ですよ」
「………………知ってましたよ」

 どうやらビヨンが一人でニースとチャンスウを置いて行くのは無理なようだった。


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息抜きアジア予選組!

2011.05.10

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