「じゃーんっ」
「お、新しいやつじゃん。買ったのかよ」
「買っちゃいました!」
放課後、帝国学園サッカー部。本日の部活を終え、ミーティングも終えてやることのない部員たちは、だらだらと部室で過ごしていた。
そんな中、成神がバッグの中をごそごそと漁って取り出したのは真新しいCD。つい先日発売されたばかりのものだった。
「お前このバンド好きだもんなー。まぁ俺達も好きだけどよ」
「このバンドは本当に最高ですよっ! 辺見先輩にはまだ本当の良さが分かんないんですよ」
「へーへー」
鼻歌でも歌い出しそうな成神を辺見が適当にあしらう。そんな様子を、邦楽には疎い源田が輪に入ろうとはせず少し遠くから見ていた。が、成神が振り返って源田の方を向いた。
「源田先輩っ、聞きません?」
「ん? そのCDか?」
「はい、先輩にも良さを分かってもらおうと思って!」
源田は成神の嬉しい提案に、顔を綻ばせた。
「ああ。成神の好きなものを聞けるなら、聞いてみたい」
「やったぁ! ちょっと待ってて下さいっ」
成神はその返事にぴょんっと跳び上がり、再びバッグの中を漁り始めた。やがて出てきた目当てのものは、CDプレイヤー。成神のバッグの中身はどうやら勉強道具よりも音楽関係のものが多いようだ。
成神はその後もしばらくごそごそとやっていたが、あ、と声をあげた。
「スピーカーがない。先輩、イヤホンでもいいですか?」
「ああ」
源田の許可を取り、成神はイヤホンを取り出した。常にヘッドホンを付けているのに何故イヤホンも持っているのだろうと辺見は思った。
しかしそんなことに気づくはずもなく、成神はCDをセットしイヤホンを源田の耳元に近づけた。
「はい、先輩!」
「――ひぁっ!」
しかし成神の手が源田の耳にかかった瞬間、源田が声をあげた。その声がいつもの源田らしくなく、まるで女のようであったため、その場にいた一同が思わず源田の方を振り返った。
……が、直後に言葉を発したのは今しがた部室に戻ってきた佐久間だった。声から察するに、機嫌が悪いらしい。
「――おい。テメェら、ミーティング終わったならとっとと帰れよ」
「佐久間先輩」
成神が何かを言おうとしたが、佐久間が言葉を続けたため遮られた。
「顧問に部室の鍵返せって言われたんだよ。ほら、出てけ出てけ」
「えー」
佐久間にせかされ、部員達はしぶしぶ帰り支度を始めた。元々帰る前にだらだらと残っていただけだったため、すぐに支度は終わった。
佐久間以外の全員が部室から出ようとしたとき、佐久間が源田を呼び止めた。
「あ。源田、お前は呼び出しだ。俺が鍵返すときに一緒に来いって」
「? そうなのか? 何だろう」
「そういうわけだからお前らはとっとと帰れ」
「えーっ」
源田にべったりひっついていた成神は唇を尖らせたが、佐久間には逆らえない。辺見に襟首を掴まれ、ずるずると引きずられていった。
「じゃあな佐久間、源田。頼んだぜ、鍵」
「おう」
最後に寺門が手を振り、部室の扉を閉めた。
瞬間、佐久間がその扉に近づき、ガチャ、と鍵をかけた。当然ながら源田はいぶかしんだ。
「……? どうした佐久間、鍵を返しに行くんじゃないのか?」
「ああ、返しに行くよ。用事済ませたらな」
「何かやることがあるのか?」
頭上に「?」マークを浮かべた源田をちらと見やり、佐久間は源田に歩み寄った。その左目が怒っているように見えて、源田は後ずさった。
しかしじりじりと寄ってくる佐久間に壁まで追い詰められ、ロッカーに背中がぶつかりガタンと音をたてた。
「さ……佐久間……?」
「お前、何あいつらの前で無防備に喘いでんだよ」
「え? ……っひ、」
佐久間の指が不意に、源田の耳を撫でた。そこは先程成神が触れたところだ。源田は佐久間の言わんとしていることを察し、首を振った。
「そんな、いつもの部員たちじゃないか……っあ……」
「バーカ、成神なんて今にもお前を襲いそうな顔してたぞ」
「あっ……離ッ……」
佐久間は源田の耳をくすぐる指に加え、顔を近づけ耳を食んだ。
―― 源田は耳が弱い。
佐久間もこの事実は知っていたから度々耳責めを行っていた。むしろ耳の弱さを調教し、ここまで敏感にしたのは佐久間と言っていい。
独占欲の強い佐久間が、そんな源田の耳の弱さ有象無象の部員に見せるというのは我慢がならなかったのだ。
佐久間は源田の耳に舌を差し入れてわざと水音をたてた。
「ひぁッ……あっ……、さく、さくまっ……、嫌だっ……!」
「うるさい。おしおきだ」
佐久間が低くそう囁く声も、耳の近くで言われれば否が応にも下半身に直結してしまう。そんな体にされてしまった。
ロッカーに体を預けて息を荒くし始めた源田の股間を膝で押し上げながら、佐久間はひたすらに耳を責めた。
「んッ……は、やめろ、佐久間ぁ……」
「やめるかよ。耳だけで硬くしやがって」
佐久間の膝がズボンの上から源田自身を押した。そこは一目見て分かるくらいに勃起していて布地を押し上げていた。
佐久間はあえて核心を突くように触ることはせず、耳をギリッと噛んだ。
「痛ッ――! 佐久間、痛、ひっ……!」
「痛いって言う割に気持ちよさそうだな」
「はっ、あ、汚れ……」
あくまで脱がせようとはしない佐久間だが、源田自身はもう汁が滲み始めていた。下着が濡れる感覚に焦り、源田は佐久間の胸を強く押した。
しかしそれ以上の力で佐久間は源田にぴったりとくっつき、耳を舐めていた。ますます焦る源田に喉の奥でくっと笑い、佐久間は言った。
「イキそうなら自分で脱げよ。脱がないなら汚れないよう我慢するんだな」
「! そん、なっ……!」
佐久間は源田の制服が汚れるくらいどうでもよかったが、源田は違うだろう。いじわるな佐久間の言葉に顔をゆがませ、源田は息を詰めた。その様子から察するに、もう限界はすぐそこまで来ているらしい。
佐久間は楽しそうに笑いながらも、やめる気はないようだった。源田は佐久間の胸元においた手を握り、こらえるように目を強く瞑った。
「我慢するのか? そんなので耐えられるのか……?」
「うっ……ん、あっ……」
源田はそれでもしばらくそのまま耐えていたが、ついに源田の右手が動いた。
のろのろと佐久間の胸元を離れ、窮屈なズボンに触れた。ボタンを外し、ゆっくりとファスナーを下ろしていった。
「早く出しちまえよ、」
「う……るさい、っは……あっ……」
佐久間に急かされながらも、源田はぎこちなく下着からペニスを取りだした。完全に勃ち上がり滴が滲んだそれを見下ろし、佐久間は言った。
「耳だけでそのままイけるか?」
「それは流石に無理だっ……!」
「じゃあ自分で扱けよ。俺はこっちに忙しいからな」
佐久間は依然として源田の耳を責めながらそう言った。源田はまたいじわるなことばかり言う佐久間に目を潤ませた。決して耳だけの快楽ではイけないのに、決定的な快楽を佐久間が与えてくれない。
ほとんど自慰をしろと言わんばかりのその言葉は源田をどん底に突き落とした。佐久間の性格を知っているから尚更だ。
「本当に……してくれないのか……」
源田にしては珍しい、誘う言葉だ。佐久間は頬が緩みそうになるのを必死にこらえながら、意図して冷たく言った。
「おしおきだって言っただろ」
「うっ……」
低く冷たい佐久間の声によって、源田は逃げ道を全て失った。もう佐久間に従うしかないのか。裾をぎゅっと掴んでいた右手が動き、源田は自らに指を絡めた。ぐちゅ、と耳を塞ぎたくなるような水音が響いた。
「良い子だ、そのまま扱いてろ」
「っ……う……」
絡めた指を言われたままに上下に動かす。すると直接的な快楽がようやく源田のもとへ来た。一度始めたら止まらない自分を抑えようという努力も虚しく、羞恥もかなぐり捨て、源田は自らを慰めた。
一心不乱に自慰をする源田の姿に、佐久間は思わず見入った。それはひどく佐久間を煽った。
「はっ……お前、エロすぎ……」
「やッ、あ、喋るなッ……ぁ……!!」
佐久間の熱い吐息が耳にかかり、それが下半身に直結した源田はあっけなく吐精した。手のひらに精液を出すと、ずず、と足の力が抜けて重力のままに床にぺたんと尻をついた。
そこで荒い息をつく源田を見下ろし、佐久間は言った。
「おい、源田。舐めろよ」
「……? っ……」
佐久間はズボンの前を寛げ、座りこむ源田の顔の前に自身を突き付けた。源田は突然眼の前に現れたそれにうっと息を詰まらせたが、きっと佐久間の言う『おしおき』とやらは続いているのだろう。
どうせたまにやっていることだ。おずおずとそれに顔を近づけ、手で触れた。
「はっ……やけに素直だな。その調子で舐めろよ。俺がイくまで」
「く……っん……」
源田は佐久間のものに舌を伸ばし、すでに完全に勃起しているそれの筋を辿るように舐めた。佐久間のものは少しは知っている。好いところも。
括れたそこに舌を押し付けるようにすると、佐久間の腰が跳ねた。喉奥で笑うような声が上から聞こえた。
「分かってるじゃん、源田。いいぞ」
「っ……んっ……、……ッ……!」
「だからこれは、ご褒美だ」
佐久間はそう言って、源田の耳を撫でた。そこは散々嬲られ弄られて、ひどく敏感になっている。源田は目を細めてそれに耐えるような表情をした。
「ほら、舌が止まったぞ。指も使えよ」
「……ふっ……、ん、っ……!」
佐久間は源田に行為を強要しながらも、撫でるような指の動きを止めることはなかった。明らかに楽しんでいる様子の佐久間に、源田は悶えた。いくら舐めようと頑張っても意識がそちらに向かない。舌が動かない。佐久間が撫でる耳にばかり意識が飛んでいた。
佐久間のものを咥えたまま吐息を漏らす源田に痺れを切らしたのか、佐久間は源田の頭を掴みずる、と自身を引き出した。
「もうこっちはいい。源田」
「な、なんだ……?」
佐久間は源田の前にしゃがみ、まだ下肢に纏っていた制服を全て脱がせた。源田は少しの抵抗を見せて股間を手で覆おうとしたが、佐久間の手がそれを遮りすっかり開脚させるように源田の足を掴んだ。アナルまで完全に眼前に晒され源田は呻き顔を逸らした。
「さ、佐久間……」
「面倒くさい。慣らさなくてもいけるか」
「!? ッま、待て、佐久間……!!」
佐久間は剥きだしのままの自身を源田のそこにぴたりと宛て、ぐっと押しこんだ。勿論慣らしもしていないそこは異物の侵入を固く拒む。だが、佐久間が源田の耳に手を伸ばし外耳をすうっと撫でるとそこから力が抜け、その隙にぐっと押しこんだ。
「ッ痛、痛い佐久間、痛い……!!」
「我慢、してろっ、くそ、力抜けっ……」
源田の足を足で押さえ、空いたもう一方の手で源田の少し萎えたそれを掴む。佐久間の手では少し余るそれを力任せに扱くと、後孔の力が少し緩む。それを利用し腰を使って源田の前立腺を突くと、痛みに歪んでいた表情は一変した。
「ッア、あっ、……!」
「やればできるじゃないか、」
「ッああぁあ……!!」
源田は口をだらしなく開け喘いだ。ここが部室であるという背徳感などは最初からどこかへ消えている。佐久間の揺さぶりに源田は素直な反応を示した。
「あ、あっ、あっ……、さくまぁ、さくまっ……」
「ん? ああ、ここか」
「あぁあッ……!!」
源田の何かを求めるような声に、佐久間は一瞬眉を顰めたがすぐに理解した。源田の耳を愛撫していた手が止まっていたらしい。耳元に当てていたその手に頬ずりするような動きに口元を緩め、くすぐるように動かした。それだけで源田の体は跳ね、喉奥からは嬌声が漏れた。
「本当に好きだな、ここ」
「だ、れのせい、だ……!」
「俺か? それは光栄なことで」
佐久間は耳を弄りながら腰を動かした。動くたびに、源田の背中にあるロッカーがギシギシと音を立てる。その耳障りな音の合間に肌のぶつかり合う音が聞こえる様は、普段の彼らとはあまりにも不釣り合いな様子だった。
佐久間は腰を動かし、性感を高めた。そしてやがて来る絶頂を、源田の体内が知らせた。
「あ、佐久間っ、も、……!」
「イくのか? いいぜ……」
「あ、あ、あっ、あぁあ……――!!」
佐久間の声を聞き、源田は二度目の射精をした。予測していたとはいえ突然の強い締め付けに佐久間も息を詰まらせ、慌てて自身を引き出したがほとんど間に合わなかった。先程まで佐久間を受け入れていたそこからどろっと精液が流れ、床にぽたぽたと落ちた。
源田は息を整えながらも佐久間を恨めしそうに睨んだ。
「どうするんだ、これ……シャワー浴びたばっかりだぞ……」
「悪い悪い。もう一回シャワー浴びるか? それともここで掻き出すか?」
「……シャワー浴びてくる……」
「じゃあ俺も」
「……個室は別々だぞ」
「ちぇー」
どうやら鍵を返しに行くのはまだまだ後になりそうだった。
「源田先輩! 昨日は顧問はどんな用だったんですか!?」
「えっ……あ、ああ、え、えーっと、なんだったかな」
「最近頑張ってるなって話だっただろ。忘れたのかよ源田」
「佐久間先輩には聞いてないですう!」
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7月18日青春カップで発行したものでした。
イベント前日の夕方に急に思い立って執筆した記憶があります。
2010.07.18
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