合宿所というものはストイックでいて、刺激に満ち溢れている。
「ふぃ〜っ! いい風呂だったぜ」
「本当にね」
イナズマジャパン合宿所には、一応小さいながらも共同風呂が置かれていた。それとは別に個室のシャワールームもある。
シャワーが使いたい者はそちらを、共同風呂が使いたい物はこちらを使い日々の汗と泥を流すのが普通であった。
皆と一緒に入りたい者、裸の付き合いを好む者、例えば円堂や綱海などは共同風呂。
皆と一緒があまり好きではな者、例えば不動や飛鷹などはシャワールームを主に使用しているようだった。
特に風呂の時間というものは決められていないが、自然と集まってしまうものである。
たまたま同じ頃に上がった綱海と基山はタオルを首から下げて風呂の扉を閉めた。
湯上りほかほかである。
「しっかしお前、本当に色白いなぁ。日に焼けない体質なのか?」
「あはは。焼こうと思っても赤くなるだけなんだよね。綱海くんがうらやましいよ」
「そうかー?」
男同士、何も隠すものはない。とりとめのない話をしながらがしがしと体を拭き服を身につけていく。
風呂に入ってしまえばあとはもう眠るだけだ。適当にシャツを頭から被って、髪をわしゃわしゃと拭いた。
その時ふと、冷たい空気が足元に流れて二人は入口を振り返った。
「? おー立向居、お前も今から風呂かぁ」
「やぁ」
「あ、綱海さん、基山さん」
風呂場ののれんを手で押し、立向居が脱衣所に上がった。綱海と基山はもうほとんど着替え終わり、出ようとしているところだった。
二人に近づくなり、くん、と立向居は鼻を鳴らす動作をした。そして突然綱海の腕を掴んだ。
「綱海さん、お風呂上がったんですよね!?」
「お? ああ」
「じゃあ来て下さい!」
立向居は今くぐったのれんを逆戻りし、綱海の腕をぐいぐい引っ張った。後ろで基山がにこにこと笑いながら手を振った。
「いってらっしゃい、綱海くん」
「は? え、おいっ、立向居!」
「綱海さんは黙ってついてきてください!」
強くそう言われ、綱海も閉口するしかなかった。
立向居に腕を引かれて着いた部屋は彼に宛がわれた部屋だった。
あまり大きくもない部屋の半分を占めるベッドにぽんっと放り投げられ、綱海は慌てて受身をとった。
ベッドがぎしぎしと軋み嫌な音をたてる。しかし綱海も立向居もそんなことに構ってなどいられなかった。
「お、おい、立向居?」
「綱海さんが誘ったんですからねっ」
そう言うなり、立向居は綱海に深くキスを落とした。歯列を割られ舌を絡め取られ、息もつげないくらい激しい口付けに純粋に綱海の体は震えた。
何が何だかわからないが、とにかく立向居についていこうと必死になった。
「っ……は、立向、」
「綱海さんがこんなに良い匂いをさせているのが悪いんです。俺が我慢できるわけないじゃないですか……」
「匂いって……、ただの石鹸だろ! 何欲情してんだ!」
「石鹸の匂いの綱海さんなんて、興奮しないほうがおかしいですよ!」
立向居はそう言うと、性急に綱海のシャツを脱がしにかかった。
むき出しになった脇腹を立向居の指がかすめ、桜色に色づいた胸の尖りに指の腹が触れた。
風呂に入ったせいもあり、まだやわらかいそこを強く摘まむと、綱海の眉はしかめられた。
「――ッ……っ立向居、焦んなって……!」
「焦ってませんよ……っ、綱海さんこそ、そんな顔しないでください」
「そんな顔って、」
どんな顔だよ、という声は立向居によって嬌声に変えられた。胸の突起をいじる手は休めず、もう片方の手でズボン越しに中心を撫でられたのだ。
まだ完全に固くはなっていないものの熱を持ち始めたそこを、立向居の手がゆるゆると撫でる。
指で形をなぞるように触れられ、もどかしい感覚が綱海を襲った。
「たち、むかい……っ」
綱海は無意識に、腰を立向居の手に押し付けるように動かしていた。そんな動作に立向居も我慢がきかなくなる。
ごく、と喉を鳴らして綱海の耳み噛みつき低く囁いた。
「綱海さん、そんなに、誘わないでくださいっ……」
「だからっ、誘ってねーって……! あっ、たちむっ」
「脱がしますね」
立向居の手が綱海のズボンにかかり、今さっき着たばかりのものを脱がしにかかった。
綱海も自然と腰を上げそれを手伝ってしまう。下肢をまとう服を引き下げると、勃起した綱海自身があらわれた。
すでに糸を引いているそれの鈴口に指を這わせ、ぐちゅぐちゅと音をたてさせた。直接的な刺激に綱海の口から嬌声が漏れた。
「ひっ、あぁ――っ……! っあ、んっ……!」
「綱海さん……」
「――っ……! あっ、たちむかい、やっ」
立向居は熱に浮かされたように名を呼ぶと、綱海の固く勃起したそれを迷うことなく口に入れた。
突然感じた口内の熱につま先までぴんと張り、綱海は身悶えた。ぴちゃ、という音までもが耳を犯す。
熱い立向居の舌がそれを擦ると言いようのない快感が波となり、綱海を飲み込んだ。
「んぅ……ふ、綱海さんと、石鹸のにおい……っ」
「ああぁっ……! そこで、喋んなぁ……っあ、あぁ……!」
綱海の匂いと石鹸の匂いが立向居の鼻孔をくすぐり、それがたまらなく立向居を欲情させた。
綱海の両足を手で持ち上げ開かせて、奥まった部分まで舌を這わせた。色づいたところを舌でつつくと、まるで立向居を誘うかのように入口が開閉した。
「もう……誘ってるじゃないですか」
「くッ……っあ、あ」
そこに舌をねじ込むようにさし入れる。ぴくぴくと内壁が収縮するのが感じ取れた。
その体内に指をも入れ、舌と指で愛撫する。すぐに見つけた綱海の前立腺を集中的に攻めると、綱海の瞳からは涙が溢れた。
「あ……! た、たちむっ、んっ、あっ」
指を抜き差しすると、そこからぐちょぐちょと音が漏れる。その音のあまりの恥ずかしさに綱海は枕に顔を埋めた。
立向居は体を起こし、枕と綱海の頭の間に手をさし入れて上を向かせた。
「……? ……っん……」
なんだ、と視線を上げた綱海の唇をぺろっと舐めて、キスを落とした。
今まで自分の汚いところを舐めていた舌が自分の舌を絡め取る。しかし綱海は気にならなかった。
口蓋をくすぐるキスに酔いしれ、自らも舌を差し出して立向居を求めた。
しばらく夢中で貪るようにキスをしていたが、再び後孔に指が触れて綱海は小さく声をあげた。
は、と息を吐いて唇を離し、立向居は綱海を真っすぐ見た。
「綱海さん、いいですか……?」
その指のすぐそばには息づく立向居自身があるのが感じられる。立向居の真剣な、しかし余裕のない瞳に見つめられ綱海は唾を呑んだ。
素直に頷くのもなんだか恥ずかしくて、目を逸らしてぶっきらぼうに頷いた。が、すぐに立向居に顎を掴まれ視線を合わすように上を向かされた。
「こっちを見て、言って下さい」
「っ……、いいから早く入れやがれ!」
「はいっ、綱海さん」
立向居は心から嬉しそうに笑うと、ぐっと腰を押し進めた。
指で広げられた入口にずず、と熱く滾ったそれが押し入って来た。指や舌とは比べ物にならない質量に綱海の身体は悲鳴を上げるように痛んだ。
「ごめんなさい綱海さんっ…、ちょっとだけ、我慢してて下さい……!」
「くっ……ッあ」
ぎちぎちと嫌な音が聞こえてくるようだ。綱海は浅く呼吸を繰り返して必死に立向居を受け入れるように力を抜いた。
そんな綱海の様子に立向居は眉をハの字に寄せ、萎えかけている綱海自身を手に取った。苦痛が少しでも和らげばと思った。
「っ、あッ……」
「あ、緩んだ……っ」
少しの隙をついて、ずん、とねじ込む。高い声を漏らして綱海は奥まで入ってきたそれを感じた。どくどくという鼓動が聞こえてきた。
立向居の熱に綱海の身体はじんと疼いた。
「綱海さん、俺もう持ちそうにないですっ……! 動きますねっ」
「ッあ、まだ無理だっ、て、ひっ……あ!」
立向居は性急に腰を動かし始めた。まだ質量に慣れていないというのに突然動かれて、綱海は焦るように立向居に腕を伸ばした。
その腕を首に回すように誘導されてしまう。これでは自分から立向居を求めているようで、恥ずかしかった。
あながち、間違ってもいないが。
「はっ、あ、綱海、さんっ」
「たちむっ……んぅっ…」
何度も何度も腰を打ちつけられて、綱海の意識も飛びそうになる。苦痛しかなかったそこからは少しずつ快感が生まれてきていた。
限界を近くに感じとったとき、何度目かのキスを落とされた。今までのキスよりもずっと余裕のないそれに、愛を感じた。
そして腰をぐんと打ちつけられたとき。
立向居の熱を体内で感じ、綱海も果てた。
「あーもー。風呂入ったばっかりだぞ……どうしてくれんだよ……」
「お、俺もまだ風呂入ってないんで、一緒に入りませんか! お背中お流しします!」
「当たり前だ、背中流せよ」
「はいぃぃっ!」
***
2010.04.24
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