※1の続きです。
腕を振りほどく力がない。罵声を浴びせる余裕もない。
男がビヨンをつれて行った先はやはり救護室なんてところではなくて、狭苦しい駅のトイレだった。
せめてそこに人がいればよかったのに、中は無人。帰宅ラッシュのさなかでわざわざ駅のトイレを利用する人はいなかった。
腕を引っ張られて個室に投げ込まれる。その後ろから男が入ってきた。背後で閉まる閂の音がビヨンを更なる絶望へと落とした。
「ようやく二人きりだね」
「あ、や、やめろ……」
「そんなに脅えないでくれよ。大丈夫、これからするのは気持ちいいことだから何にも怖くないよ」
背の高い男が扉の前に立っていては、逃げ道は完全になかった。様式便器が足に当たる。これ以上後ろに下がれない。
男を見上げると優しそうな表情をした、まだ若そうなサラリーマンだった。
「あんまり乱暴にされたくないだろう? 声は出さないほうが身のためだよ」
「ひ……ひ……っ」
そう言いながらも男は電車内の行為の延長をするように、脅えるビヨンの腰に手を這わせた。それだけでどうしようもなく体を震わせるビヨンに、男は再び笑った。
「すごく敏感なのかい? それとももしかして前にもこういうことされたことがあって怖いのかい?」
「や……やだっ……」
「僕は怖いことも痛いこともしないよ、安心してくれ。カイルくん」
自分の名前を言い当てた男に目を見開いた。試合を見たと言っていたが、名前まで覚えられてるとは思わなかった。ぞわぞわしたものがビヨンの背中を駆け巡った。
「それじゃあズボンを脱ごうか。外国の少年のものは見たことがないんだ」
男の手がズボンにかかり、ビヨンの肩はビクリと弾んだ。咄嗟に男の手を制止するようにかけ首を振った。
しかし恐怖に怯え涙の溜まった目で見上げるのは、男の嗜虐心を煽るだけだ。
「……あんまりいやいやしてばかりだと、無理矢理やってしまうよ?」
「っ……!」
男の声が突然どす黒いものを纏い、ビヨンの鼓膜を震わせた。恐怖が一気に膨れ上がり、涙が止まらない。
泣きだしたビヨンに焦れたのか男は力に任せて無理矢理ズボンを引き下ろしにかかった。
「やっ! やだ、やめ、ッや……!」
「おや、かわいいものを持ってるね。年齢にしては小さいんじゃないか?」
「こわい、っやめて、やめて……」
普段ならば絶対にこんな声は出さない。低めの身長や女らしい顔、そしてまだ幼い性器も全てビヨンのコンプレックス。だからこそ口調だけは男らしく、少しでも自らを大きく、弱みを見せないように振舞ってきた。
でも、こんな状況でも自らを取り繕っていられるほど、まだトラウマというものから解放されていなかった。
恐怖が全身を支配する。知らない男の視線が露わになった下肢を犯し、手が性器に伸びてくる。
情けなくもぼろぼろと零れる涙は止められなかった。
「ほら、片手に余ってしまうよ。しかしやっぱりここも肌の色は濃いんだね」
「離してっ……ふ…っや……っ!」
男の手が扱くようにしゅ、しゅと動く。しかし恐怖のあまりにそこは萎えたまま、勃起する気配は見せなかった。
それでもしばらく男は勃起させようと手を動かしていたが、やはり萎えたままのそこに痺れを切らし、別の行動に移った。
「怖くてたたないならしょうがない。後ろを向いて」
「も……帰して……っ」
「全て終わったら帰してあげるよ、ほら」
半ば無理矢理ビヨンは体を反転させられ、便器のほうを向かされた。それは白く無機質な光を放っている。今はそんな便器すらも恨めしい。
男はビヨンを逃がさないようにペニスを掴んだまま、体を密着させてきた。電車の中と同じような体勢だ。
何をされるのかが全く分からないビヨンは首を捻り、男を見上げた。
「な、に……」
「ほら、ここはトイレだよ。見ていてあげるからおしっこしてごらん」
「…………!」
そう言って男はビヨンのペニスを便器の内へと向けた。ゆるゆると尿道口を指先で刺激し、もう片方の手で下腹を撫で押してくる。
そんなことを言われるとは思ってもみなかったビヨンは驚き狼狽した。再び首を振り男の体から出ようともがいたがびくともしなかった。
「おしっこするだけだよ。終わったら帰してあげるからさ」
「むり、だ、はなせっ……」
「でもここ、お腹はけっこう膨れてるね。結構おしっこ溜まってるんじゃないのかい?」
ぐ、ぐ、と強く膀胱を押され、思わず喉がひゅうっと鳴った。特に意識していなかった尿意を思い知らされて、焦りに心臓がざわついた。
と、離すように掴んだ男の手がふと離れた。膀胱を押す手が離れて少し安心したが、すぐに再び恐怖の底へと突き落とされた。
「――あんまり意地を張っていると、手が滑ってしまうかもしれないよ」
「ひ……っ!」
ごそごそとバッグから何かを探していた男は、ナイフを手に持ちビヨンのペニスにひたと当てた。刃渡りはさほどない小さなナイフだがビヨンを脅すには十分のものだ。
体を震わせてしまってはナイフで切れてしまうと分かってはいても震えが止まらない。瞳からぼたぼたと零れる涙がナイフを持つ男の手に落ちた。
「泣いてても何も変わらないよ。君が僕の望むことをしてくれなければ、このナイフでここを切っちゃうだけだからね……?」
「やだっ……やだっ……!」
「それが嫌なら、早くするんだ。できるだろう?いつもと同じようにすればいいだけだよ」
男の猫なで声が逆に怖い。冷たいはずのナイフが当たる部分がひどく熱い。
ペニスに触れる指は変わらず尿道口を撫でていて、排尿を促していた。
「うっ……く……」
「ほら、力入れてないで抜いて」
見られている前で排泄するなんてプライドが、などという心の余裕はなかった。むしろ幼少の頃されたような痛いこともされず、ただ排尿するだけで解放してもらえるのなら、早く済ませてしまったほうがいいのかもしれないとも思い始めていた。
体の力を必死に抜き、足を少しずつ開く。普段していることをすればいい。意識せずに。
「偉いね。そうそう、その調子だよ」
「……ふ、う……っ」
しかし、意識せずにしようとしているのに、耳元で囁く男の声がビヨンを現実に引き戻す。意識から排除しようとしてもそれを許してくれない。
恐怖の涙は羞恥の涙に変わりつつあった。
「おしっこ、出そう? ゆっくり出してね……」
ビヨンの内股がぴくぴくと痙攣し始めたことに気付いたのか、男は指を尿道口から離し竿を握った。
そして十数秒の間が空き、ぽた、と一滴の尿が垂れ、
「……ァ、あ……っ」
一気に便器に滴り落ちた。ぎゅっと目を瞑り、ただいつものように排泄しているだけだと自分に言い聞かせる。それなのに男は黙る気配を見せない。
「出てきたね、カイルくん。やっぱり溜まってたんだね?」
「はっ……あ……」
「いっぱい出てきたよ」
男の低い声がビヨンの認めたくないことを言い、しかし小さな声は決して便器にあたる水音を消してはくれなかった。
もう嗚咽は止まらない。きっと大きな声を出したら男は怒るのだろうが、ひどいしゃっくりが出てしまってどうしようもない。
それでも長い排尿を終えると、男は褒めるように言った。
「よくできました。それじゃあご褒美にいいことをしてあげよう」
「えっ……、帰して、くれるって……っ」
「もちろん。でもご褒美もあげずタダで帰すわけにはいかないだろう? 君もご褒美、欲しいよね……?」
男の手元のナイフが光った。まだ解放してもらえないのだという絶望がビヨンの全身を駆け、足からは力が抜けた。
崩れ落ちそうになる体を男が支え、ナイフを持っていない手がビヨンの無防備なアナルに触れた。
そこは、嫌だ。
「い――やっ、やだっ、やだああっ……!!」
「煩い! 切り落とされたいのか!」
「やだ! いやだいやだ、いやだっ、……んんんっ、んん!!」
口を手で塞がれて、ビヨンの声はかき消された。本気を出した大人の男の力は強い。今までよりもずっと力を入れて必死に抵抗しているのにびくともしなかった。
無理矢理男の無骨な手がビヨンのアナルに突き入れられ、無遠慮に掻きまわされた。
「んん、んんんーっ、ん!」
「君が騒ぐから手っ取り早くいかせてもらうよ。流血沙汰になっても君のせいだからね」
「ッ――! ん、ん……ッ!」
慣らすのもそこそこに、男の猛ったペニスがそこに宛てられ、ずず、と挿入された。もちろん開ききってはいないそこは侵入を拒むように蠢く。だが力任せに突き入れると、思いのほかすんなりと、憎らしいほどすんなりとビヨンの中に埋め込まれた。
ビヨンはいつのまにか便器のタンクに手を着かされ、尻だけを突きだすような格好をさせられていた。
「ああ、やっぱり血が出てきてしまった。傷が長引いても恨まないでくれよ?」
「んッ……んぅうッ……」
結合部からはにちにちと嫌な音が聞こえてくる。男が無理矢理動くせいでビヨンの内壁に傷がつき血が垂れ始めたようだ。
そこからの痛みがビヨンの意識を朦朧とさせた。
「ははっ……やっぱり、サッカーをする子は筋肉があっていいね……! よく締まるよカイルくん」
「っ、ん、んんっ……」
「おっと。勝手に意識飛ばさないでくれよ。もっと楽しもうじゃないか」
ビヨンの反応が薄くなる度、男は尻たぶを叩いて意識を戻させた。それはさながら拷問のようだった。
永遠に続くかと思われた抽挿は、やがて男の動きから終わりが近いことが感じ取れた。
男は限界が近づくにつれ饒舌になったが、ビヨンの意識はもう完全に飛んでいたため言葉を言葉として理解することはなかった。
「はっ……カイルくん、イくよっ……」
「ん……ん……」
男の独りよがりなセックスは、ビヨンの心と体をずたずたにして終わった。男は自分の射精が終わるともう用なしだと言わんばかりに体を起こし、ぐったりと床に倒れ込んだビヨンを見下ろした。
「ごちそうさまカイルくん。楽しかったよ」
「…………」
「また電車で会えるといいな。くれぐれも僕のことを広めたりしないようにね。まあ、プライドが傷つけられて出来ないと思うけど」
男が身なりを整えて個室を出ていった後も、ビヨンは指すら動かせずしばらくその場で嗚咽を漏らしていた。
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2010.11.29
beyon top