ビヨンは、ニースに体内に精液を出されることを嫌がる。

「やっ……、や、ですっ、あっ、あ、んっ…抜い、抜いてっ……」

 ぐぽ、という嫌らしい音が結合部から聞こえてきて、ビヨンは思わず耳を塞いだ。
 ビヨンの体内にはすでに数回精液が出されていた。その音が、ニースが腰を動かす度に聞こえてくる。
 ニースの精液とビヨンの体液が混ざり合い、恥ずかしい音があられもないところから聞こえてくる。

 ビヨンは強く目を瞑って嫌だと首を振った。体力の限界などではない。恥ずかしすぎて、聞いていられない。
 その耳を塞ぐビヨンの腕を引っ張り、ニースは結合部にビヨンの指を宛がわせた。

「ひっ……」

 指の感触から、ビヨンのアナルの入り口がニースのもので大きく広げられている様子がよく分かる。
 そのニースの大きさと、自分のそこがそんなにも開かれるのだということに驚き。
 そして次の瞬間には、ニースの意図したことが分かりビヨンはニースから顔を背けた。

「ビヨンのと、俺のだよ」
「あ、あ……」

 結合部のわずかな隙間から、液体が流れ出て来ているのが分かった。
 それが何なのかなんて、言われなくたって分かる。ビヨンはニースから顔を背けたまま、目だけでニースを見上げて睨んだ。

「はっ……恥ずかしい……です……!」
「ははっ、気持ち良くない?」
「う、あっ……!」

 からかうように笑うと、ニースはビヨンに指を宛がわせたまま腰を再び動かし始めた。
 その度にまた、ぐちょぐちょという音が部屋に響く。その音までもがビヨンの耳を犯した。
 熱くなっていく結合部と、そこから滴り落ちる体液。指と体内ではっきり分かるニースの形。

「はっ、あ、うぅっ……ニースっ……!」
「ん、またイく……?」
「イく、イっちゃ、っはぁ……っ――!!」

 響く水音よりも大きな声でビヨンはニースの名を呼び、何度目か分からない精液を腹に出した。
 ニースもビヨンの体内の締め付けに一拍遅れて、やはりビヨンの体内に吐精した。ニースがペニスを引きぬくと、どろっとアナルから液体が零れ落ちる感覚。
 その感覚にビヨンはぴくりと睫毛を震わせ、ニースを弱々しく睨んだ。

「っ……ニース……」
「ごめんごめん、ビヨンの中があんまり気持ち良くて」

 ニースは笑ってそう言った。ビヨンはその顔に怒る気にもなれず、また何度もされた行為で流石に疲れ枕に顔を埋めた。
 しかし、この行為で一番の問題がまだ残っていた。

「…………。どうするんですか、これ」

 無論、体内に出された精の処理である。
 ビヨンは愚痴っぽくニースに言った。ビヨンがこの行為を嫌がる一番の理由はこれだった。
 ニースはにこっと笑いながら返した。

「俺が掃除してやろうか? ちゃんと掻き出してあげるよ」
「結構です」

 ニースの申し出にピシャリと答える。しかしニースはその言葉を待っていましたと言わんばかりに返した。

「じゃあ、ビヨンが掃除して。ここで」
「…………はあ……?」
「ちゃんと出せたかどうか、見てあげるから」

 その言葉に真面目に返す言葉も見つからない。呆れた声でビヨンは返事をした。
 ニースの前でアナルに指を入れそこからニースの精液を出せというのか。自分で。そんなもの、自慰をするより恥ずかしい。というより、自慰とほぼ同じだ。
 ビヨンはその様子を想像して少し頬を赤らめさせた。

「そんなバカなことしません。適当にお風呂で出してきますっ」
「じゃあ一緒にお風呂に入ろう!」
「いやです!」

 ビヨンは強く首を振ったが、瞬間感じた浮遊感にぎゃっと声をあげた。

「な、な、なんですかっ! 下ろしてください!!」
「お風呂で掻き出すんだろ? 立ったら零れ落ちるから、抱いて連れて行ってあげようと思って」
「お、下ろしてくださいー!! 嫌ですってば!!」

 ニースの腕に抱えられたビヨンは下ろしてもらおうと体を捩ったが、逞しい腕がそれを許さなかった。
 怖いくらいの笑顔に黙らせられ、ビヨンはそのまま浴室に連れて行かれることとなった。



 明るい浴室内。
 どうせこうなるなら、何故こんなに明るい部屋の方を選んでしまったのだろう。

「ん、は……っ」

 ビヨンはニースに言われた通り、体内に指を入れていた。ニースに従ったというより、言いくるめられた、させられた、と言った方が正しい。
 結局ニースに弱いのがビヨンだった。
 浴槽のヘリに手をついて膝で立ち、前から後ろに手を回すようにして指を体内に入れていた。
 その指を、くっと曲げる。散々ニースを受け入れていたそこに痛みは無い。それがなんとなく情けない気もしたが、今はそれを掻き出すことが最優先である。
 ぬるっとするそこをなるべく意識しないようにしながら折り曲げた指をそのまま外に出すように動かした。

「……ふ、……っ」
「そうそう。そうやって出して」

 すぐ側にいるニースの視線を痛いほどに感じる。ビヨンの裸体を煌々と照らす浴室の照明が憎らしい。
 それでもビヨンはニースのことを気にしないようにして、体液を掻き出す作業に没頭した。早く終わらせてしまいたい気持ちでいっぱいだった。
 息が荒くなってくるのは、興奮しているのか。いや、違う。興奮などしていない。
 でも、

「ビヨン、恥ずかしい姿見られて興奮しちゃってる?」
「っ…………!」

 ニースがそう言って、ビヨンに己の体の状態を分からせた。
 体内に指を突き入れ。ただ体を洗うだけだと自分に言い聞かせていたのに、もうあんなにしたのに。ビヨン自身は硬く勃起していた。

「ち、違います……! これはっ」
「いいよ。気持ち良かったら前も触って」
「そんなっ、触りません!!」

 楽しそうに言うニースを睨む目にも力が入らない。言われた言葉も快感と相成り、ただ掻き出していただけのはずの自分の指の動きが変わったような気がした。
 気持ちが良い。
 そう感じてしまえば、もう逃げ道などどこにもなく。

「ほら、触って欲しそうだぞ」
「煩いっ…です……!」

 体液を滲ませ始めたそれを指摘されても、もう反論することも出来ない。体内に埋め込んだ指もぎゅうぎゅうと締め付けられ、物足りないとでも言っているかのようだった。
 それでも指を動かす手は止められない。快感を欲する欲望のまま、体は勝手に動いた。

「はっ……ああ、あ……っ」

 ビヨンの熱い息が断続的に漏れ、そして後孔からは水音がぐちゅぐちゅと漏れ。色濃い肌の腰が悩ましげに揺れ動き、求めるままに指が体内で蠢く。そしてその指先から、ニースの出した精液がつうっと流れ落ち。
 そんな様を明るい浴室内で目の前で見せつけられては、ニースの理性なんてあってないようなものだ。

「……そんなに、誘うなよ」
「――ッア、あぁっ……! ひ……ッ」

 前ぶれも無く、ビヨンが指を埋めたままのアナルに猛ったそれを押し当て、ずず、と押しこんだ。
 いくら慣らしていたとは言え、何度もしたとは言え、指を入れたまま更に押し広げられるなんて思ってもみなかったビヨンは苦しさに頭を反らした。
 しかしニースは構うことなく一気に奥まで差し入れると、律動を始めた。

「ッニース、や、またっ、ああ……ッ!」
「ビヨンが誘うのが悪い」
「さそってなんか……! んっ、あ、あっ……!」

 ビヨンの喉から細切れに声が上がる。その声は反響していつもよりも大きく聞こえた。
 浴槽を掴む手は血の気が引いて、床についた膝もがくがくと震えている。何度もしたせいで体力も落ち限界が訪れるのも早かった。

「も、だめ、ニースっ、ニースっ……」
「……また中で出していい……?」
「バッ、ばかなことっ、言って……ッ、あぁ、あっ……――!」

 ビヨンが反論しようと振り向いた瞬間、ニースの指がビヨンの先端を抉り、強い快感がビヨンを射精させた。
 そして浴槽を掴んでいた手がずるずると床に落ち体も脱力し崩れ落ちる頃に、ニースは再びその精をビヨンの体内に吐き出した。
 すると荒い息をつきながらもキッとニースを睨みあげたビヨンの翠の瞳に、ニースは少し血の気が引いた。

「……嫌だって……言ったじゃないですか……」
「あ、ははは、ごめんごめんビヨン、始末は俺がするから……」
「いいからもう出て行って下さい!!」

 ビヨンの声が室内に響き渡り、ニースは逃げるようにそこから飛び出した。


*****

2010.11.07
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