※ビッグバン限定シナリオネタバレをほんのり含みます。



「サージェス、こんにちは。今日は訓練ですか?」
「おう、姫様! そうです。姫様のかわいさで、俺達騎士団もやる気に満ちてますよ」
「まあ……」
「……サージェス。発言に気を付けないと、カトラ様に対するセクハラとして議題にのぼるぞ」
「真実を言っただけだって!」
 惑星キエル。長く戦争が絶えないこの星で、現在もっとも力を持っているのがペイジ王の統治する国であった。
 その王宮では近年ますます力を付けてきた騎士団と、直接戦いに参加するわけではないものの兵器を開発することで支える科学者が重要な役割を担っている。
 特に騎士団の、平民出身ではあるがその強さと人柄で信頼を得たサージェスは、汚れなき王宮の姫のお気に入りであった。
「今度また城下の遊びを教えてください。この間のおにごっこという遊び、すごく楽しかったです」
「おにごっこがお気に召したなんて、姫様もなかなかお目が高いですね」
 広い王宮は王や姫の住まう城と、そこから少し離れて騎士団の宿舎、科学者たちの研究施設がある。
 兵器開発に精を出すあまり、放っておくと研究施設から一歩も出ないポトムリは、心優しいカトラ姫に連れ出されてともに散歩することが少なくなかった。
 「一人で出歩くなと言われているのです。ポトムリに護衛をしてもらえたら嬉しいので……」と微笑みながらカトラに言われて断れる者などこの王宮にはいない。
 だがそうしてカトラに連れ出されて行く先が、ここしばらくは必ず決まって騎士団宿舎の方角であった。
「姫様に教えたい楽しい遊びがまだまだいっぱいありますから、またこっそり宿舎を抜け出して会いに行きますよ!」
「…………サージェス?」
「あー、何でもない! 何でもないです、姫様、お身体に気をつけて、お元気で!」
「ふふ」
 ポトムリのこれ以上なく深く刻まれた眉間の皺に、サージェスは冷や汗を流しながらも笑顔でカトラに会釈した。
 サージェスは悪い男ではないのだが、カトラに対する言葉づかいや行動に嫌な汗をかかされることが頻繁にある。
 ポトムリや騎士団メンバーはサージェスが決してカトラに危害を加える男ではないと分かっているが、王宮で絶対的な権力を持つ議会には、サージェスに対して平民出身で下品な男という認識しか持たず、快く思っていない者も多くいるのだ。
 下手をすればあらぬ罪もかけられる。疑いをかけられるような行動は慎めと何度言っても聞かない男に、ポトムリは深いため息をついた。
「ポトムリ? ため息をつくと、幸せが逃げてしまいますよ」
「カトラ様……。そうですね、気を付けることにします」
 にっこりと笑って見上げてきた姫に、ポトムリは眉尻を下げた。


「――しかし。お前は本当にどこにでも潜り込むんだな」
「まあいいじゃねえか! 見つからなけりゃ大丈夫だって」
 そして100%見つからない自信もある! と胸を叩いたサージェスに、ポトムリは頭を抱える。
 昼間、カトラをしっかりと王宮まで送り届けたポトムリは再び研究室に戻り、兵器開発にいそしんだ。基本的に研究や開発が好きなポトムリはよく食事をすることも忘れる。時間を忘れて机に向かっていたところにこうばしい香りがやってきて、ポトムリはようやく外の世界に意識を向けた。そこに立っていたのは、恐らく騎士団で出た食事の皿を持ったサージェスだった。
「そんなにソーセージのにおいをぷんぷんさせて、バレないわけがないだろう」
「ん? やっぱりソーセージだけは俺が食っちまったほうが良かったか。どうせ何も食べてないんだろうと思って持ってきてやったんだが」
「はあ……」
 カトラに窘められたため息が堪えきれずに出てしまう。時刻はすでに夜。サージェスは研究施設の三階にあるはずのポトムリの部屋へと、窓のすぐ外にある木を登ってやってきた。
 彼の手に載った食事の皿はポトムリに食べさせるためのものであるらしい。ポトムリの性格を良く知っているサージェスの彼なりの心遣いらしいが、ポトムリの性格を良く知っているのならば研究施設への潜入など危険なこともやめてほしいものだ。
「まあまあ。それより、腹減っただろ? 倒れる前にこれ食えよ」
「騎士団らしい食事メニューだな」
「美味しそうだろ? 美味しいぞ!」
 ごろごろと大きなソーセージが乗って、申し分程度にレタスとトマトが添えられた皿の上は、果たしてこれで栄養が取れるのかと心配になるメニューだ。
 しかし食べ物を無駄にするのも性分ではない。サージェスから皿を受け取って、ポトムリは研究用の机から離れた。
 研究施設のポトムリの部屋は、扉で二つに分かれている。大きな作業台のある研究部屋と、仮眠をとるための簡素なベッドが置かれた部屋だ。
 大事な研究道具を汚すわけにもいかない。ポトムリは仮眠用のベッド脇に置かれた小さな机に皿を置いて、その前に座る。サージェスもまたポトムリの後ろをついて、勝手知ったる自分の部屋のようにベッドに大きく腰かけた。
「今は何を作ってたんだ?」
「この間お前に踏まれて壊された小型銃の改良型だ。今度はお前に踏まれても絶対に壊れないように頑丈に設計している」
「おお、なんだかすごいな! あれ、結局試せなかったんだよな」
「ああ。お前のせいでな。……ところでサージェス」
「何だ?」
 机に向かったポトムリは首だけをサージェスの方へと向けた。皿の上の食事には一切手が付けられていない。
「お前達はこれを素手で食べていたのか? フォークも何もないのか」
「あっ。……すまん! 忘れてきた!」
 頭を掻いて大きく笑ったサージェスには呆れて言葉も出ない。ポトムリは仕方がないと、手袋から指を抜いた。
「宿舎に戻ってフォークを持ってくるか? それともここの食堂に潜り込んでくるか」
「いい。面倒だ。手で食べる」
「えっ」
 ポトムリは案外、粗雑なところがあった。サージェスが驚き止める間もないまま、ポトムリは素手でソーセージを掴み、がぶりと食いちぎった。きっとポトムリを「美形な科学者」としか見ていない城の女が見れば卒倒しただろう。
「……ポトムリって案外面白いよな」
「お前には遠く及ばん」
 ボリボリと大きなソーセージを咀嚼しながらポトムリは答える。サージェスはそんなポトムリにハハ、と笑った。

 だが、太いソーセージを素手で食べるというのは、中々見ていて妙なものだ。
 サージェスはベッドにごろりと寝転がりポトムリの横顔を見る。常に装備されているポトムリの手袋が外されるのは寝るときと食事のときと、ベッドの上で恋人らしい情事に及ぶときだけだった。
 やたらと太いソーセージを己の性器に見立てて見つめていると、がぶりと歯を立ててちぎられて、思わずサージェスは内股になる。
「……何をしているんだ」
「い、いや、なんでも」
 白い目で睨まれて、サージェスは首を振った。
「そ、そんなことより、今の南の侵攻が終わったら今度は西へ進軍するらしいな! 今の状況から考えると、何年後かは分からないが、そう遠くない未来だとか」
「そうらしいな。西はあまり治安が良くない。良くないことが起こらなければいいが」
「俺がいれば200%大丈夫さ。姫様のためにも暴れてくるからな!」
 そう言ったサージェスに、ポトムリは何も言えずに黙る。食べかけのソーセージを皿に置いて、己のベッドに寝転がるサージェスの脇に腰掛けた。
 ポトムリは何か嫌な予感がしていた。それが具体的にどんなものかは分からなかったが、言葉にはできないものが胸中で渦を巻いていた。
 唐突に黙ったまま傍に寄ってきたポトムリに目を丸くしたサージェスは、しかしふっと笑ってポトムリの腕を掴んだ。キエル特有の色白い肌の指をぺろりと舐めると、ソーセージについていた肉汁が舌に触れる。
「やめろ。手を洗ってくる」
「別にいいさ。それより、しようぜ」
「気分じゃな……、いや。……分かった」
 ポトムリは一度拒否しようとして、受け入れた。思うところがあったのだろう。サージェスはそれが分かったが、敢えてそこには触れなかった。
 ポトムリは自ら、寝転がったサージェスの下肢に触れる。肉汁のついていない左手のみで脱がそうとするので、サージェスはそれを手伝った。
 そうして露わになったサージェスの性器に、ポトムリは今度は両手で触れる。熱を持っていない状態でも十分に先ほどのソーセージくらいの大きさがあるそれを見慣れることはできなかった。
「食いちぎるなよ」
「こんな美味しくないものを食いちぎる趣味はない」
 そう返事をしながらも、ポトムリは両手と唇でサージェスの性器を愛撫した。適当に鷲掴み大きく歯を立てて咀嚼していた先ほどとは対照的に、決して歯を立てず、唇と舌先で裏筋や亀頭を辿りながらも指先と手のひらで熱を高めていくポトムリに、サージェスのそれはぐんと嵩を増していく。
 言っていたように、美味しくないのだろう。当たり前だ。眉を顰めながらも、サージェスを見上げて反応を窺っているポトムリの姿は、視覚的にも大変にそそられた。
 悪戯にポトムリの頭に手を乗せ軽く腰を突き上げるようにすると、口腔の深くにまで性器が押し入れられて、ポトムリは軽く歯を立てた。仕返しのつもりだろうか。痛くはないが、興奮する。
「ッ……、変態だな」
「褒め言葉か?」
 歯を立てたことで更に嵩を増したサージェスの性器を口から離しポトムリが言ったので、サージェスはそう返した。唇と顎、性器に唾液が糸を引いていやらしい。そんな顔ではあ、と息をついたポトムリを引き上げて、サージェスはポトムリの唇にキスを落とす。舌先を唇の間から潜り込ませて口腔を貪ると、ソーセージと己の先走りの混じった何とも言えない味がした。
「お前も脱げよ。一緒にしようぜ」
「んっ……、いつになったら脱がし方を覚えるんだ」
「複雑な服を着てるほうが悪い!」
 ポトムリは身体を起こすとベルトを取り、白衣ごと潔く服を脱ぎ捨てた。今更全裸ごときで恥じることもないと開き直るのも男らしい。
 だが科学者と騎士団員、それも筋肉だけはやたらとあるサージェスと比べると貧相にしか見えない身体にはポトムリも気恥ずかしさを覚えるらしい。サージェスへと身を寄せ、あまり肉体が見えないようにしてきたことから察せられた。
「別にいいが、動きにくいぞ」
「ならば私が動くから問題ない。お前は寝ていろ」
「今日はやたらと積極的だな……」
 再び性器を掴んできたポトムリにサージェスは曖昧に笑った。
 ポトムリがこれから起こる未来のことで何か言いようのない心配を抱き、その上で積極的に行動しているのは分かる。だがその心配は杞憂に終わる。杞憂にしてみせる。
 それでもサージェスがそう言ったところでポトムリの心配が消えることはないのだろう。ならば、無理に言葉をかけることもない。
 ポトムリは傍の机の引き出しから小さな容器を取り出すと、その中のクリームを指で掬う。そして再び猛ったサージェスの性器に指を這わせながら、クリームを掬ったもう片方の手を己の足の間へとやった。
「それは?」
「化学兵器開発時の副産物だ。滑りを良くして痛みを和らげてくれる」
「便利なものも作れるんだな」
 サージェスからは良く見えないが、ポトムリの左手が彼自身の奥まった場所に潜り込んでいるらしいことは窺えた。サージェスがポトムリの後孔を慣らそうとすると必ず決まって「雑すぎて痛い」と怒られるので、ポトムリは受け身ではあるが自ら慣らすことが多かった。
 しばらくポトムリを眺めていると、少しずつサージェスの性器を愛撫する手がおろそかになってくる。それと共にぐちぐちという音がポトムリの後孔からしてくるので、頃合いかと、ポトムリの細い指を掴んだ。
「もういいだろ? 一人だけで楽しむなよ」
「我慢できなくなったのか」
「お前だってそうだろ」
 ポトムリの上半身を起こすと、下腹にてしっかりと天を向いた彼自身が露わになる。サージェスが触れたわけでもない、ポトムリがサージェス自身を愛撫し、そして自らを愛撫しただけで性感を得た証拠だ。
 サージェスはポトムリを自分の身体の上に跨らせ、ポトムリの薄い尻の肉を両手で鷲掴んだ。その間でぐちりとクリームが窄まりで音を立てて、ポトムリはくっと眉を顰める。
「っ……遊ぶな、馬鹿」
「分かったよ」
 情事の最中に色を孕んだ瞳でねめつけられても何の効果もない。むしろ煽られるだけだ。
 サージェスは自身をポトムリの窄まりに押し当てて、にちにちと音のするそこに潜り込ませた。なるほど、化学兵器開発の副産物というものはとても優秀のようだった。その大きさで何度もポトムリを苦しめたサージェス自身がぐぷぐぷと飲みこまれていく。
「は……ァ、ッ……」
「痛くもない、みたいだな」
「わたしの、研究は、間違いないッ……から、な」
 とてつもない質量を飲みこんでもなおポトムリはふっと笑う。全てを押し入れて、サージェスはポトムリの中が慣れるまでの間、緩く天を向いているポトムリの性器に触れた。太くごつごつとした指が絡んだ瞬間、ポトムリの喉がひゅっと鳴る。
「やッ……め、ッ……!」
 サージェスが触れた瞬間にそれは大きさを増し、より天を向いた。サージェスの手のひらとポトムリの性器の間で湿った音が鳴る。ポトムリは首を振ったが、サージェスは手のひらの愛撫をやめなかった。
「ん、ッく、……サージェス、あッ……!」
「その顔で名前呼ぶのは、反則だろ……」
 ポトムリの体内でサージェス自身が更に質量を増す。耐え切れずにポトムリはサージェスの厚い胸板に手をつき荒い息を吐いた。しかしサージェスの欲の高まりからも、ポトムリを休ませてあげられるのはここまでだ。
 ぐっ、と軽く下から突き上げる。するとポトムリは頭をかくんと反らし、堪らぬ声を上げた。あっ、と零れ出た甘い声はサージェスを暴走させるのに十分だった。
「は、あッ、待、てっ、まだ、……ァ、あ、あ……ッ」
「ポトムリ、もっとこっちに、」
「んんう……ッ」
 ポトムリの腕を引いて上体を完全に己の上に倒させる。彼の頬を手のひらで包んで唇に口づけると、必死に喘ぎながらもキスに応えてきた。舌を引きずり出して絡めれば、鼻にかかった声が間近で上がる。
 それだけで達せられそうなキスをしながらポトムリの奥を突き上げるように腰を動かすと、サージェスの顔の脇に置かれたポトムリの手がぎゅっとシーツを握った。それよりももっと掴むべきものがあるだろうと、サージェスはその手を己の指に絡めさせる。
「サージェ、ッは、あ、……も、無理ッ……ひ、あ、ぁア……ッ」
 絶頂の声はサージェスの喉奥に消えた。生暖かい液体がサージェスの鍛え上げられた腹筋とポトムリの薄い腹の間に飛び散る。しかし後孔に深く打ち込まれたサージェスの性器は未だ熱を保っており、達したのはポトムリだけであった。
「まだまだ、これからもずっと付き合ってもらうぜ? なあ、ポトムリ」
「こッ……の、遅漏ッ……」
 果たして言葉の真意は伝わっているのか。息も絶え絶えのポトムリの罵倒は、こうして受けられるだけ幸せなことであった。



「おはようございます、カトラ様。今日はどこへお出かけですか」
「ポトムリ、おはようございます。今日は……えっと、南の庭の方へ行きたいです」
「……素直に騎士団宿舎へ行きたいと仰れば良いのに。どこへでも付いていきますよ」
「もうっ……、せっかく一生懸命考えてきたんですから、少しくらい付き合ってくれてもいいのに」
 カトラが照れ隠しのように笑う。花が綻ぶような笑顔にポトムリも微笑み、朝露に濡れた草を踏んだ。
 こうしてカトラに付いて騎士団宿舎に訪れ、その先で金髪の男に会うという何気ない日常を、あとどれだけ繰り返すことができるのだろうか。
 考えたくない未来を頭から追いやり、今はこの笑顔を守るためにできる全てのことをせねばならないなと、ふわふわと揺れる藤色の頭を見つめ思った。


2014.01.29

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