※2013年春に出したコピー本の再録です。



 長かった戦いが終わり、セカンドステージチルドレンと呼ばれた子供たちもワクチン投与によって普通の子供たちとなんら変わりのない生活を始めていた。
 初めは渋っていた子供たちも少しずつそれを受け入れるようになり、そしてその薬も与えられれば早ければ一か月で効果が現れはじめる。
 テレキネシスが使えない、アンプルバズーカも使えない、己の手足を使わなければならない。それまでセカンドステージチルドレンの力に頼っていた部分の大きさを初めて知った子供たちであった。

 かつて皇帝と呼ばれていたサリュー・エヴァンも、慣れない生活を始めていた。指をひとつ動かせば思い通りになっていた力が日に日に衰えていくのを感じる。生まれ持った特殊な力が消えて普通の男の子になっていくのは、まるでずっと一緒にいた双子の兄弟が消えていくのと同じような感覚だ。
 恐ろしくもあり、寂しくもある。だが、これが本来の“普通”であるはずなのだ。そしてサルはそれを受け入れた。苦しみもなく、痛みもなく、静かに消えゆく力を、サルは日常の中で感じ取っていた。

 フェーダという名称を持った組織は、サルが解散を宣言した今では組織としての存在はないものの、しかし“SCC制御ワクチンを接種した患者たち”という意味では確かに存在していた。
 セカンドステージチルドレンの全員がフェーダに属していたわけではなかったが、中でも強い力を持っていた者がサルの元に集まっていたことで、自然とやはり、強力なワクチン接種が必要であった子供たち――すなわち患者の集団なのであった。
 しかし患者と言えども特に病院に入院していたり隔離されているわけではない。それぞれ信頼のおける大人や、あるいは長く共同生活をしていたことからエルドラドに支援してもらいつつ子供たちだけで暮らしている者もいる。
 世間一般から見たら当たり前のことでも、彼らにとっては“普通ではない”生活をすることで、本来の“普通”を取り戻してもらいたい――というのがエルドラドの総意であったのだ。

 そして、今。サルはフェイの厚意により、彼と彼の父親アスレイ、そしてアンドロイドであるワンダバのいる家に世話になっていた。
 フェーダの中でも群を抜いて強力な力を持っていたサルを最も近いところで見守っていたいと言ったアスレイをサルが了承したのだ。サルにとっても、サルがフェーダの中でも最も信頼していたフェイと近くにいられるという利点がある。
 その決断には純粋な少年へと戻ったフェイも喜び、共にセカンドステージチルドレンの力を消していこうと手を取り励まし合ったのだった。


「――ワンダバ! 洗濯、ちゃんとしておいてくれた?」
「安心したまえ! この大監督、クラーク・ワンダバットさまには洗濯物の監督も……わー!! 物干し竿が地面に落ちている!!」
「あーあ、これじゃまた洗濯しなおしじゃないか」
「むむ……面目ない……」
「まあまあ、今日は天気もいいし、今から洗濯しなおしても夜までには乾くさ」
「湿った下着で寝ることになるのだけは避けたいね」
 買い物に出かけていたサルとフェイが、留守番をしていたワンダバとやりとりをする。昼間は外に出ているアスレイの代わりに子供たちとワンダバが家事をするというのがこの家での日常となっていた。
 家事が終われば、勉強をしたり、遊んだりもする。セカンドステージチルドレンとして恵まれた記憶力を持っていたサルやフェイは学校に通う普通の子供たちよりもずっと優れた頭脳を持っていたが、だからといって勉強をしなくてもいい理由にはならない。
 フェーダの中には学校に通い始めた者もいたが、それはフェーダの中でも比較的力の弱かった者――つまりワクチンによって力の制御の効果がすぐに出た者だけで、未だ多くの子供たちはワクチンによる効果の経過観察のために、そして親などの大人からの愛情をもう一度受けるために、学校に通わず自宅にいることが多かった。
 サルとフェイは後者であり、特に二人の力は強大であったため治療の経過観察は慎重に行われていた。アスレイによって毎日検査を受け、アスレイ不在のときもワンダバが保護者となって二人の元にいる。だが今のところ、特に問題もなく順調に効果は出ているようだった。
 そうした日々を、勉強や家事を交えながら過ごしていた。
「力があれば、汚れも水気も一気に落とせるのにね」
 物干し竿の片方が地面に落ちていたせいで、すべての洗濯物は砂まみれだった。それを払い、いくつかは外のホースを使い水で流しながらサルがっぽつりと言う。その言葉にフェイが目を細めて笑い、相槌を打った。
「そうかい? 僕はこっちのほうが、すごく楽しいけどな」
「楽しくない、って言ってるんじゃないんだよ。ただちょっと、手が冷たいかなって」
 ホースの水でびしょ濡れになったTシャツを絞ってサルは言った。皇帝としてフェーダにいた頃は決して外さなかった手袋も今はない。年頃の男の子と変わらない手がかつて恐ろしい力を放っていたというのは、その手を見ただけでは想像がつかないだろう。
 季節は春になる手前だ。まだ水は冷たく、長く触れているのはつらい。
「ワンダバが物干し竿をちゃんと見てなかったからこうなったんだろ? 落ち込むのはもういいから、こっちに来て手伝ってくれよ」
「ワタシは……ワタシは洗濯すらも監督できないのか……」
 暗い影を背負って項垂れている青いアンドロイドに声をかける。が、彼はずっとこの調子で、サルはフェイと肩を竦め合った。
「ほら、ワンダバ。裸の君はいいかもしれないけど、僕たちは裸で寝られないんだよ。終わったら部屋の掃除もしたいし。その掃除の監督は君に任せるから、早くこれを終わらせよう?」
「監……督……?」
 フェイの言葉に、ワンダバの黒くつぶらな瞳に光が戻る。フェイとサルのほうを振り返り、次の瞬間には復活していた。
「うおおーっ! そうだなフェイよ! ワタシがいないとこの場は収まらないな! よかろう、任せたまえ!」
 なんと扱いやすいアンドロイドだ。いや、扱いやすいからこそアンドロイドなのか。サルとフェイは苦笑しながらも、春を感じさせ始めた日差しの下、ただの家事という日常にある幸せを感じた。

 SSC制御ワクチンは、その効果にとても個人差があった。しかし平均的には一か月ほどで特殊な力を半分程度に抑えることができているようだった。今のところ、副作用などの報告も出ていない。
 三か月前にワクチン投与された二人の身体にその効果が現れはじめたのは一か月ほど前のことで、まず初めにビルをも簡単に破壊できていたテレキネシスが、トラックを浮かすことができる程度の力になった。それでも十分に強力であるのだが、それまで当たり前にあった力を考えると愕然とするほど弱まったと言える。
 強大な力を持っていたサルはやはりワクチンの効果が現れるまでに他の子供たちよりも時間を要していたが、確実に日々力は弱まっていっていた。まだ力を使おうと思えばテレパシーくらいは使えるのだろうが、試す気はない。力を使わない生活は、サルにとってみればリハビリのようなものであった。
 対してフェイは天馬たちとの交流の間、力を使っていなかったこともあって、セカンドステージチルドレンの力を失うことには大きな抵抗は無いようだった。
 持っていた力を日常的に使っていた者と、日常で使っていなかった者には、力を失うことへの認識に差がある。気にしないように努めてはいてもやはり、サルは要所要所で力を使えない不便さを感じずにはいられなかった。これも、慣れだ。
「ようやく全部干せたね。さて、掃除にかかろうか」
「待っていたぞ! ワタシの出番だな!」
 汚れひとつない洗濯物を無事に物干し竿に吊るし終えて、フェイは楽しげに言った。それにワンダバが嬉々として返す。だがサルが待って、と二人を制した。
「それよりも、先に昼食にしようよ。僕、もうお腹ペコペコで」
「いけない、もうこんな時間なんだね。ワンダバ、掃除は後だ」
「ガーン! ようやくワタシが活躍できると思ったのに……」
 食事のいらないワンダバとは違い、サルもフェイも育ち盛りの少年なのだ。腹が空けば動けない。
 早速と、二人は今買い出ししてきたばかりの食材からあらかじめ決めていたメニューを作りに取り掛かった。二人とも、料理はそれなりにできた。
「うん、おいしい! こんなにおいしいのに食べられないワンダバって、かわいそう」
「あはは、ほんとに。僕たちこんなにおいしく作れたのにね」
「ぐぬぬ……早く食べて掃除だ!!」
 簡単にピンク色に染まるワンダバに、からかう二人は笑い合った。


 とても平和な日々が続いていた。サルたちフェーダが破壊した多くの建物も復旧が終わり、世界はほぼ元に戻りつつある。もちろん、犯してしまった破壊行為を無くすことはできないが、その反省と共に生きていく覚悟はできていた。
「フェイー、こっちの掃除は終わったよー」
「完璧だな! よろしい!」
「僕もあとちょっとで終わるよ、あとはテーブルを拭けば全部」
 春目前の昼間の陽気は、窓を開けていても寒くないほどぽかぽかしていた。常日頃から綺麗に使うよう心がけられているルーン家だが、住んでいる全員が掃除好きというのもあって掃除にはいつも気合が入っている。すべての掃除を終わらせて窓を閉めると、時計の針は三時を指していた。
「ちょっとお腹を膨らませたら、今度は勉強かな。ワンダバはアルノ博士のところに行くんだっけ?」
「ああ。夜には戻るから安心したまえ!」
「大丈夫、心配はしてないさ」
 サルが冗談めかして言うと、ワンダバがあからさまに肩を落とす。その様子にフェイがくすくすと肩を揺らす、平和な日常だった。
 ワンダバが出かけるのを見送って、家にサルと二人きりになったフェイは宣言通りに勉強道具を出してきた。勉強道具、とは言ってもタブレット端末である。かつてフェイが天馬たちの世界に行ったときは、勉強には本とペンが必要で、それに強く不便さを感じたフェイだった。
 自室でそれぞれ勉強する日もあれば、どちらかの部屋で二人教え合いながら勉強する日もある。今日はせっかくさっきまで三人で仲良く過ごしていたのに突然一人部屋にこもるのも勿体なくて、フェイはサルを部屋に呼んだ。
「サル、一緒に勉強しようよ。分からないところがあるんだ」
「オーケイ、いいよ。代わりに僕の質問にも付き合ってくれるかい?」
「僕で分かれば、もちろん」
 誘うと、二つ返事で了承が返ってきた。しかしサルはタブレット端末を持ってきていない。それに突っ込む前に、フェイはサルに肩を引き寄せられた。
「ちょっと……、サル、どうし」
「二人きりになれる時間がどれだけあると思ってるの? 貴重な時間を、勉強なんかに当ててられないよ」
 まるで先ほどとは言っていることが真逆だ。フェイはサルの身体を緩く突っぱねて、端末を盾にした。
「何言ってるの。僕たちは勉強しないといけないんだよ。よく学んで賢い大人にならないと」
「そんな端末で得られないことだっていっぱいあると思うけど?」
 サルはそう言って、フェイの腰をぐっと引き寄せる。そのままフェイの部屋に置かれたベッドに腰かけて、それをぎしりと軋ませた。
「こんなことして得られる知識なんて、たかが知れてるじゃないか。生きる上で必要なことなんて無いよ」
「そうかい? 僕に愛されること、これは生きる上でとっても大事なことだと思うよ」
「……君の言ってること、相変わらず訳が分からない」
 じっとりとサルを睨みつけたフェイだが、しかしすぐにふっと笑って制止の手を緩めた。タブレットを傍に置いて、腰を掴むサルの手に手を添える。
「終わったら、勉強……ね」
「もちろん。ワンダバにもアスレイさんにも、僕らの勉強の成果に満足させて見せるさ」
 サルはおどけて言って見せて、そのままフェイの唇に唇を重ねた。

 二人がそういう関係、――つまり恋人同士になったのは、つい最近のことだった。
 フェーダの頃から信頼関係は築かれていたが、それはあくまでも主従関係としてのもの。サルの命令であれば記憶さえも手放せる、それほどの主従関係だった。
 フェイが天馬たちの元へいたときは記憶は失われていたわけだが、その記憶が蘇ったのちもフェイの心はサルに従うようにできていた。やがて天馬に心動かされサルの元から事実上謀反することになるのだが、それを乗り越えてようやく対等になれた二人は、惹かれ合うようになった。
 もともとの主従関係も、心の奥底にあった信頼があってこそだ。いつの間にか二人はワンダバとアスレイがいる中でも恋人同士という関係になり、保護者の二人がいないところではこうしれ触れ合うことも多くなっていた。
「……ふ、っん……」
 ぴちゃ、と舌同士が擦れて水の音がする。それが誰もいない家で響くのは恥ずかしい。しかしキスは気持ちのいいことだと教えられたフェイみは、その音すらもたまらない。
 サルに腰を抱かれ、唇を啄まれる。ちゅ、ちゅ、と子供のようなキスを何度もされたかと思えば、また舌を攫われて、唇も顎も唾液でべたべただ。
「も……サル、しつこ……」
「早くもっと先に行ってほしいって? フェイは我慢ができないイケナイ子だね」
「っ……、そういうの、やめてよ」
 こんなときに子供扱いをされるのが一番嫌だ。フェイが眉間に皺を寄せてサルを突っぱねると、それ以上の力でサルがフェイを抱き寄せ、ふっと笑った。
「ごめんごめん。ついイジメたくなるんだよ。僕のかわいいウサギちゃん」
「サル、いい加減にっ……ん、」
「分かったって、フェイ」
 サルの手が不意打ちにフェイの股間に触れた。キスだけでも反応するように育てられたフェイのそこは、緩く頭を擡げ始めている。フェイは羞恥にサルから顔を逸らし、サルの胸元においていた手をぐっと握った。
「ここがこうなってたら、たまらなくなっちゃうよね。今フェイの望む通りにしてあげるよ」
「んっ……」
 サルの手がフェイの肩を押して、そっとベッドに押し倒す。柔らかいベッドはフェイの身体を受け止めて優しく軋んだ。手慣れたサルが順にフェイの服を脱がし、白い肌を晒していく。
「フェイ……、かわいいね」
 濃いオレンジの服の下からは、白く透けるような肌があらわれる。その胸の頂には血管が見えそうな乳輪があって、そこを晒すのは男ならば何でもないはずなのに、サルによって立派に開発された今では恥ずかしさだけでも尖り立ってしまうようだった。
「フェイのここ、もうツンツンしてるよ?」
「っばか……」
 揶揄するように言うサルにはそう返すことしかできない。サルはフェイの嫌がる顔だとか、恥じらう顔が好きなのだ。何度やめるように言っても治らないから、最近はもう諦め気味だった。
 サルの手がフェイの薄い胸板を這い回り、ありもしない膨らみを揉むように動かす。かと思えばいたずらに指先で尖りを弾かれたり、摘ままれたりする。
 サルは昔からセカンドステージチルドレンの力のせいか何でも上手くできたが、ことセックスに関しては、子供のくせに何故、と思ってしまうほど上手かった。精通もしていない昔から共にいたはずだが、そのどこかで女遊びでもしていたのだろうか。子供のくせに。それを問いかけたことはあったが、「僕は昔からフェイ一筋だよ」とウインク交じりに返されたので、実際のところは分からない。
「何考えてるの? 他のこと考えられるくらい、僕の愛撫は下手かい?」
「イっ……!」
 サルの二本の指がフェイの胸をぎゅっと摘まんだことで、フェイは身体を跳ねさせた。痛みは快感を伴って、ことさらにつらい。フェイはぎゅっと目を瞑ってそれに耐えた。
「痛いよっ、サル!」
「フェイが他のことを考えるからいけないんだよ。僕以外のこと考えちゃダメ」
 そうしてサルがフェイに顔を近づける。この男は、嫉妬深い一面も持っていた。そんなところばかり子供らしい。
 甘えるようなキスを受けて、フェイはサルを、自分を母親かのように甘える子供のようにも、自分を守ってくれるたくましい男のようにも感じていた。
 サルの舌がフェイの咥内をくすぐり、一方手ではフェイの胸を弄る。コリコリと音までしてきそうな乳頭はもうすっかり充血して、ぷっくりと硬さを持っていた。
 ズボンの舌で窮屈になっていく下腹を持て余し、もじもじと膝を擦り合わせる。キスを施すサルもフェイのそれに気づいて、顔を上げた。
「苦しくなっちゃった?」
「べ……っつに」
 何も言わずに脱がせてくれればいいのに、いちいちそんなことを聞いてくるから、フェイも反発したくなってしまう。
 サルの手が内腿を滑ってテントを張ったサルの下腹に触れたので、思わずくっと腰を引いた。
「嘘はダメだよ。フェイってば、せっかく苦労して洗濯したのに、また汚しちゃったの?」
「ひっ……あ、」
 くりくりとサルの手がフェイのテントを張ったてっぺんをなぞる。そこはつまりフェイ自身の先端で、そこから溢れ出る雫がじわりと布に吸収される感覚に背徳感が増した。
「サ、ル……っ、だめだって……っ」
「うん、洗濯物を増やしちゃったフェイはダメな子だね。ワンダバに謝らないと。恥ずかしい汁でパンツを汚しちゃったって」
 なおもサルの指はフェイのそこをなぞり続ける。布越しに爪先で優しくカリカリと掻かれると、もどかしい刺激にフェイの腰が揺れた。
「んっ、ん……っ、サルぅ……、もう、や……っ」
 フェイはサルのほうへ手を伸ばし、つんつんに伸びている白髪をくしゃくしゃと混ぜた。このままでは本当に、下着を一番嫌な方法で汚してしまう。それは避けたかった。
 髪を撫でられ頭皮を掻かれて、サルは手を止めた。かわいいおねだりで満足だ。
「しょうがないな。腰上げて」
 サルの声に従ってフェイが腰を上げる。ズボンと下着一気に取り払われると、丸い先端がふるりとあらわれ、興奮を示すように天を向いた。もうフェイは靴下以外に何も纏っていない。
「サルも、脱いでよ……」
「そうだね。僕もフェイのことを言えなくなるくらい、恥ずかしい汁でべたべただよ」
 照れ隠しに言ったフェイに従って、サルも潔く服を脱いだ。サルが言った通り彼自身も興奮を示しており、先端には雫が浮かび、淫靡な香りを漂わせていた。
「スケベ」
「フェイのエッチな顔を見てたらしょうがないよ。あとで一緒にパンツを洗おうね」
 サルが再びフェイにキスを落とす。何度もキスを傘ねながら、先端に雫の溜まったそれに指を絡め、扱いた。すでにもう完全に上を向いていたそれはサルの手に触られれば限界もすぐにやってくる。重ねた唇の端から快感を伝える喘ぎ声を漏らし、サルの髪を再び混ぜた。
「ん……っ、んん、ふ……」
「気持ちいい……? フェイ」
 唇を離して、サルがそう問いかける。返事は言葉を聞くよりも表情を見れば明らかで、朱に染まった頬と下がる眉尻、だらしなく開いたままの唇は、普段は溌剌としているフェイとは別人のように淫猥だった。
「このまま一度出しちゃう? それとも僕と一緒にする?」
「一緒が、いい……」
「うん。分かった」
 もう限界も近いのだろうフェイがそう言うのだ。それならばサルも早急に「そういう体勢」にならなければいけない。
 サルはフェイの両足を抱えて、ぐっと上に押し上げた。自然と一番恥ずかしい場所を晒すようになりフェイは一瞬顔を顰めたが、すぐに耐えるようにぎゅっと目を瞑った。
「そう。いい子だよ、僕のフェイ」
 なだらかな双丘を描く尻から太腿にかけて、すべすべとした感触を楽しむように撫でながらキスをひとつ、ふたつと落としていくと、フェイの奥まった窄まりはひくりと動いた。すっかりそこで快感を得る方法を知ってしまったフェイの身体は、本人の意思とは関係なくすでに期待してしまっているのだ。
 サルはその期待を裏切らぬよう、唇と舌で太腿を舐め上げながら指を滑らせる。しっとりと汗ばんでいる後孔は、サルの指先を巻き込むように再び蠢いた。
「ちゃんと慣らしてから、ね」
 あやすように何度もキスをして、ゆっくりと指を押し入れた。焦らすような動きになってしまうのは、ここであまりフェイの快感を引き出してしまうと、先にフェイだけが一人で達してしまうからだ。
 一緒がいいと言ってくれたフェイのためにも、慎重に孔を解していく。気持ちよくするための動きではない、入れやすくするための動きだ。
 フェイもそれを分かっているのだろう。必死に耐えるように息を吐きだし、だがやはりじれったいようで勝手に動く腰は止められていなかった。
「あとちょっとだから、我慢して」
「う、……っは、ん……」
 勝手に動こうとするフェイの腰をがっちり押さえてサルが三本の指を折り曲げた。前立腺に触れないように体内で動かされるサルの指は事務的だ。それなのに快感を追ってしまう自分の身体を、フェイは恥じらった。それでも止められなかった。
 つう、と垂らされたサルの唾液の力も借りて、やがてフェイのそこが緩んでくる。ようやくサルの指が三本出し入れできるようになったところで、サルはフェイの唇に唇を重ねた。
「お待たせ。フェイ、よく我慢できたね」
「も……、いいから、早くして」
「了解」
 春は目の前でも、まだ少し肌寒い。室内であっても、裸でいるのは極力避けたい気温だ。だがサルの十分な愛撫の間もフェイの身体は汗ばんだまま、白い肌は朱に染まったままだった。
 再び大きく抱え上げた両足の間に、サルは己自身を擦りつける。唾液やら色々な体液でべたべたのそこはぴとりと当てただけでもまるでそこに吸い付けられるようだった。
「いれるよ」
「んん……っ!」
 一言言ってから、サルは腰をぐっと進めた。じゅうぶんに解されたそこはすんなりとサルを受け入れ、そしてしっとりと締め付ける。幾度となくサルと行為を重ねたフェイの身体は、まるでサルの形を覚えてしまったかのように自然と受け入れられるようになっていた。
「……ぁ、サル、……ぅ」
「苦しくない……?」
「へ、き……」
 は、は、と短く吐く息がサルの鼻先に当たる。それを吸い込むようにしてキスをすると、フェイの舌も必死にサルに合わせて動いた。呼吸を飲むようなキスに没頭しながらも、持ち上げたフェイの腰を揺すって結合部を馴染ませる。
「ぅ、う……、んんぅ……っ」
 散々焦らされたせいで、フェイの腹は自身の先端から溢れ出た体液で濡れていた。それを掬ってフェイ自身にまた擦り付けると、フェイの足がサルの腰を蹴るように動く。そんなことはいいから早く動け、ということか。
「分かったよ、フェイ。いっぱい気持ちよくなろうね」
「はや、く……っ、あッ」
 ぱん、と腰を打ち付けるとフェイの唇から高く甘い声が上がった。素直に快感を訴える声だ。どんな低俗なアダルトビデオより、フェイのこの声はサルの情欲を煽った。
 声が聞きたくて、わざとフェイに舌を出すように誘導させてから腰を動かした。お互い舌を突きだすようにしてするキスで、一番近いところからフェイの甘い声が聞こえる。最高だ。
「フェイ、かわいいよ」
「そ、れッ、うれしくない……っ、ぃ、あっ」
「嘘つき。フェイのここはきゅうきゅう言ってるのに」
 フェイは言葉で誉められることがたまらないようだった。それを知っているからサルもわざとフェイにそう言う。かわいいとか、気持ちいい? とか、そう言われることが快感にもなるようだった。
 ずっと避け続けていた前立腺を思い切り抉る。そのたびに上がるフェイの声がサルの耳を犯すことで、サルももう限界だった。
「待たせてごめんね、フェイ。一緒にイこう」
「サルっ……、サルも、もうイくの……っ」
「うん、イくよ。フェイもでしょ……?」
「イくっ、イっちゃう……! っん、あぁッ……んん、あ――!」
 それまでにないきつい締め付けにサルはくっと喉を詰まらせた。びゅる、と迸ったフェイの精液がサルとフェイの胸に飛び散る。フェイが達したのだと気づくと同時に、サルもフェイの体内で熱を解放した。
「……あ、……ぁ……っ」
「フェイ……っ」
 全て注ぎ終えたのちに、フェイの体内からずるりと自身を抜く。ひくつくフェイの後孔はサルの精液を垂らし、シーツに沁みを作っていた。
「ああ、シーツもまた、洗わないとね……」
「もうっ……、バカ……」
 これ以上汚さないようにという思いか、自身の後孔に手を当て眉を顰めたフェイの唇にキスをしてサルは悪戯っぽく笑った。


 幸せな日々は続いていた。毎日、朝起きてから寝るまでの時間を、愛する人たちに囲まれて過ごす。アスレイはフェイと同じだけの愛情をサルに注いでいた。
 サルの両親は、サルが物心つく前に消えていた。セカンドステージチルドレンの親は、大抵がそうだ。力を持つと分かるや否や、施設に預けたり、どこかに置き去りにすることで手放す。ワクチンのおかげで力が無くなった今、今更過去のことを咎めたりはしないのだから戻ってきてもいいと思うのだが、果たして生きているのか死んでいるのか、はたまた忘れてしまったのだろうか、サルの親は彼の目の前に現れることはなかった。
 だがそのおかげでアスレイやフェイ、ワンダバと暮らす幸せな日々があるのならばそれでもいい気すらしてくる。本物の親ではなくても、アスレイは疑いようもない強い愛情を注いでくれるのだから。
 時々、フェーダのメンバーと会うこともあった。特にギリすとメイアはサルの頭脳の一端を担っていたこともあり、交流は盛んだった。フェーダの中でもガルとしてフェイと仲が良かったヨッカやユウチもよくフェイと遊んでいた。
 話をしたり、ふざけあったり。フェーダが組織として機能していた頃からは考えられないほど穏やかに過ぎていく日々に、本来の子供としての生き方を知り、幸せを噛みしめていた。


2→

go top




「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -