私は3RTされたら、タダカイの「…へたくそ。貸してみな」で始まるBL小説を書きます!d(`・ω・)b http://shindanmaker.com/321047


「へたくそ。貸してみな」
 カイトが痺れを切らしてそう言ったのは、タダシが針と糸と格闘し始めてから10分ほどが経った頃だった。
 学校の家庭科の授業で出された裁縫の宿題。内容は簡単な縫い物で、特に作品を作れというわけでもなく、波縫いやら返し縫いやら、裁縫の基礎の基礎を一枚の布に縫えという簡単なものだ。
 LBXに関する授業も多く盛り込まれているとはいえ、中学校である。こうした普通の授業もそつなくこなさなければ、退学は免れないのだ。
 タダシの格闘しているそれはとうの昔に終えているカイトは手持無沙汰にそれを見ていたのだが、タダシの手中のそれは一向に針に糸が通らない。
 見ているこっちがイライラすると思い、一時はタダシから目を逸らしたものの、しかしやはり気になってちらちらと見てしまい。
 無言でひたすらに針と糸を操るタダシは、しかし縫うところまで辿りつくこともできず、何度も何度も糸先を弾かれていた。
 それに痺れを切らしたカイトがタダシにそう言うと、タダシは天からの救いを受けたような顔をする。
 カイトは何かと一歩遅れることの多いタダシに世話を焼いてばかりでは彼のためにならないと、あえて放置を決めることも多いのだが、こうして手を伸ばした瞬間の彼の表情は、母性のようなものをくすぐられる感じがした。
「糸通しはどうしたんだい。持ってただろう」
「壊した。無理やりやったら……」
「そりゃあ壊れるだろうよ。今度ノゾミにもらいなよ。あの子なら糸通しなんていらないだろ」
 言いながら、するりと針穴に糸を通す。それをまるで魔法を見たかのような表情で見ているタダシに返す。
「ほら、これでいいだろ。早くそれ、終わらせなよ」
「うん。ありがとう」
 タダシは針を受け取り、今度は練習用の麻布を左手に持った。布にはもう糸の通り道が線として描かれてあり、器用な者や少しでも裁縫の経験のある者は五分とかからず終わらせることができている。
 しかし針穴に糸すら通せなかったタダシである。苦戦は目に見えていた。
「……ちょっと待って。どうしてそこに糸を出すんだい」
「え……、だって」
「ちゃんと布を見なよ。ここに出すって書いてあるだろう。君は文字も読めなかったのかい?」
「分かってても、思うところに出せない……」
 案の定、タダシは多いに苦戦した。まず、針を出すところから違う。スタート前で躓いていたタダシは、スタートを始めても躓いた。
 カイトには予想もつかないところから針先を出すタダシには、ある意味感動を覚える。四、五回同じことを繰り返したタダシに、これでは埒が明かないと、カイトが立ち位置を変える。
「仕方ないな。失礼するよ」
「えっ、わ」
「こうするんだよ。ちゃんと身体で覚えなさい」
 椅子に座るタダシの後ろに立って腕を回して、タダシの手を上から掴む。そうしてタダシの手を動かさせると、皺の寄ってしまった麻布の線の上に、針先が顔を出した。
「こんな簡単な課題で得点を落とされちゃ、第5小隊として顔が立たないからね。分かるかい」
「わ……分かる」
「そう。じゃあほら、早く進めて」
 タダシがゆっくりと、カイトに手を掴まれたまま針を動かす。時たま、上から垂れてくるカイトの髪の毛に頬をくすぐられて身を捩るが、それを逃がさぬようにカイトはタダシを急かした。
 ただ針を上下に動かすだけの波縫いに途方もない時間をかける。だがカイトは先ほどとは打って変わって楽しげに、口端を緩めてタダシの手を掴んでいた。
 くすくすという笑いに気づいたのか、タダシが首を傾げる。不機嫌そうな表情なのは、あまりの不器用さに笑われたと思っているからか。
「……なに」
「いや。別に、何でもないよ。君の世話をするのは楽しいなと思ってね」
 そう言ったカイトに、タダシが唇を尖らせる。LBXの腕は、それなりに大会で2回優勝をおさめている程度の実力はある。しかしその他の部分では周りの助けを必要とする部分が少なくない。タダシもそれを自覚しているからこそ、眉を顰めた。
 面白くないと拗ねたタダシがカイトの手を振り払う。一人で縫えると言うことか。それなら見ていてやろうじゃないかと、カイトも手を離して、しかし後ろから覗き込む姿勢はそのままにタダシを見守った。


2013.09.不明

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