キリトとコウスケ/神の愛したLBX
W/ゲーム/キリトとコウスケ
カミコークエストネタ
「愛するとか愛されるというものはね、例え対象が何であってもとても素晴らしいことなのさ。分かるだろう」
「…………、はあ……」
神谷コウスケの口から、次から次へと止めどなく言葉が紡がれている。それに相槌を打つでもなくため息をつく風摩キリトは、手元のLBXから視線を一ミリも動かさなかった。
――かれこれ、もうそろそろ一時間になるか。コウスケが突然部屋に訪れてくるのはいつものことであったので、キリトは水も茶もコーラも出さず、一瞥をくれただけで手元のLBXに没頭していた。
コウスケもコウスケで、キリトにもてなしを受けるために来ているわけではないらしい。何も気にすることなくキリトの部屋を勝手に歩き回り、そして気に入りのソファに腰を置いて、キリトが聞いてもいない話をひたすらに語り出すのだ。
「もっとも、ボクは何かを愛するよりも前に神に愛されているけれど」
「…………」
返事をする気は毛頭ない。しかしコウスケの神に愛されし頭脳は、無言を肯定と受け取るようにできている。キリトの反応に満足げに頷き、首を傾けた。
「まあ、それは君も重々承知だったね。話を戻そうか。ボクの話しているのは、それのことさ」
キリトの荒れた手に弄られるLBXに傷のついていない指先が向けられる。キリトはようやく視線をコウスケの方へとやって、ふん、と反応を返した。
「とある女性が、ただの消しゴムを愛したとしよう。するとその消しゴムはただの消しゴムではなく、『愛された消しゴム』になるのさ。これは『誰』の、『何』であっても変わらない」
「……コレが、君の愛するLBXになるか、ってね」
「よく分かってるじゃないか。ボクが愛したLBXは、それだけで『神に選ばれし神谷コウスケに愛されたLBX』になるんだ。これ以上ない光栄だろう」
キリトの手中で、完成間際のリュウビホウオウのレッグパーツがカチリと鳴る。それは果たして、リュウビホウオウの返事であるか、キリトの返事であるか。
「まぁ、とにかく。ボクは君を信頼している。愛するに値するLBXになるように、頼むよ」
「……見くびってもらっちゃ困るね」
ふ、と笑って、キリトの視線はふたたびリュウビホウオウへと落とされた。
お題「彼女の愛した消しゴム」
2013.09.不明
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