ウォータイムの出撃命令のなかった日、アキトはシンに「夕方まで出かける」と言い残し、街に出ていた。
どうせ試験も近づいていない。レポート課題も残っていない。シンは勉強すると言っていたが、どうにもそんな気分になれない。
だからアキトは特に目的もなくふらふらと街を歩いていた。
小遣いは、あるにはある。だからスワローに寄って、何か腹ごしらえしてもいい。しかし一人で喫茶店に入り時間を潰すというのも寂しいものだ。
そんなことを考えているうちに、街のはずれまで来てしまった。これより先に進んでもただ木々が並んでいるだけで特に何もない。
仕方がない、特にやることも見つからないのならこのまま引き返して寮に戻ろう。
そう決めて、アキトは踵を返そうとした。が、その瞬間に視界の端に入ったものに足が止まった。
「……? リクヤさん?」
見覚えのある後ろ姿。周りを気にするようにきょろきょろと見回して、街のはずれの寂れた店に入っていく。
その店はアキトには馴染みがなかった。確か日用品やらを雑多に揃えた店だった気がするが、寂れた雰囲気には近寄りがたいものを感じて、どうせ他の店でも手に入るものしか置いていないのだからと自然と避けてしまう店だった。
しかし、リクヤがその店に入って行ったことで興味が沸く。アキトは寮へ戻ろうとしていた足を方向転換させて、その店へと進んだ。
寂れた雰囲気があるのは外観だけでなく店内もそうだった。
「失礼します……」
扉をそっと押して暗い店内に入る。ギィ、と軋んだ音が店内に響いた。
慣れない店に足を一歩踏み入れてアキトは周りを見回した。が、暗い店内にはリクヤどころか店員も誰もいない。
――見間違いだったのか、とアキトは眉を顰めた。いや、見間違いであるはずがない。自分が、誰よりも慕っているリクヤを見間違えるはずもないし、確実にこの店に入ったはずだ。
アキトは恐る恐る、足を進めた。あまり広くない店にはやはり日用雑貨がごちゃごちゃと置いてあって、あまり綺麗ではない。本当に商売をしているのだろうかと疑いたくなるほどだ。
しかし、それならば猶更、リクヤは何故この店に入って、そしてどこへ消えてしまったのだろうか。
アキトは心細さを打ち消すように必死に店内を調べた。
リクヤさえ絡んでいなければどうでもいいと帰っていたのだろうが、リクヤがこの店に入ったのなら、自分もこの店のことが知りたい。その気持ちだけで、アキトは店をぐるぐると回った。
そこで、ひとつの小さな扉を見つけた。
「何だ、これ……」
棚と棚の間という、明らかに不自然な場所にある扉。店に入ったリクヤがこの店内にいないとなると、その奥へと続くこの扉の向こうにリクヤはいる可能性が高い。
見知らぬ場所の見知らぬ扉には気が引けるが、リクヤがいる可能性があるのならと、アキトはドアノブを回した。
そして広がった光景に、アキトは目を疑った。
「あ、明るい?」
表の店と打って変わって、綺麗に陳列された商品棚が明るい照明に照らされている。雑貨だろうか、色とりどりの商品が所狭しと並んでいて、表とは大きく雰囲気が違う。
アキトは一瞬何が起こったか分からず口を開けた。自分は隣の店の扉を開いてしまったのかと思った。
が、すぐにかけられた声に現実に戻される。
「……谷下、くん!?」
「え……? あ、リクヤさん!」
アキトのすぐそばに立っていたのは探していたリクヤだった。彼は驚いた表情でアキトを見ている。
アキトはようやく会えた喜びに破顔した。だがリクヤはアキトとは反対に戸惑っている様子だ。
「ど、どうしてここに……」
「さっき、店の外でリクヤさんを見かけたので。もしかして迷惑でしたか」
アキトが眉を下げて聞くとリクヤは慌てて首を振った。だが表情は晴れないままだ。いよいよアキトは悪いことをしてしまったのだと、頭を下げた。
「す、すみません! よく考えたら、尾行なんて悪いヤツがすることですよね……、自分、帰ります」
「谷下くん!」
今開けたばかりの扉に向き直ったアキトの背中に声がかかる。リクヤは眼鏡を指で上げながらも少し困った表情でアキトを見ていた。それが助けを求めているようにも見えて、アキトの身体は固まった。
「リ、リクヤさん?」
「……せっかくここに来たのですから。谷下くんも、ここがどういう店なのか、知ってもいいと思います」
リクヤは身体をずらしてアキトに店内を見せた。そこでようやく、アキトも店をよく見回す。
第一印象は、雑貨の店、だった。その通りであるのだが、正確には違う。どういう用途に使うのかよく分からないものが大半だが、それらのパッケージやら、少し離れた本棚に置かれたものを見る限り、ここは。
「……こ、こんな、店」
「アダルトショップというやつですよ。神威島唯一の」
アキトは言葉を失った。店の実態が分かってから改めて見てみると、確かにどれも「そういう用途」で使われるものばかりだ。
しかし何故、リクヤがこんな場所に。アキトは信じられない気持ちでリクヤを見た。確かに自分たちは中学生で、性には興味が出てくる年齢だ。だが、どうにも崇拝するリクヤと性が結びつかない。
「リクヤ、さん? どうして……」
「私も、人間ですから」
リクヤが眼鏡を上げるのは手のひらで赤い顔を隠すためか。意外すぎる一面を知って、アキトは言い知れぬショックを受けると同時に腹の底に来るものを感じた。
「谷下くん。これからの予定はありますか」
「えっ? と、特には……」
「では、私と一緒に来てください」
リクヤに言われて、身体が勝手に頷く。リクヤは何か袋を手にしていて、すでに買い物を終えた後のようだった。それが何であるのかアキトには想像することができないが、ここで買ったものだとしたら、つまり――そういうこと、なのだろう。
突然のことに頭がぐるぐる回って何も考えられず、リクヤの後ろをついて店から出る。そして一瞬のうちに気づけば見慣れた寮にいて、リクヤの部屋の前に立っていた。
「入ってください」
リクヤの部屋は一人部屋だ。そこにシンもコウタも交えずに入るのは少し緊張する。失礼します、と言葉をかけてからリクヤの後に続いた。
綺麗に整えられたベッドに座ったリクヤが、その隣をぽんぽん叩く。そこに座れということか。従って、アキトはベッドに腰掛けた。
「さて、谷下くん」
「は、はいっ」
帰り道、始終無言だったリクヤが話しかけてきた。思わず声が裏返る。リクヤはそれに構わず、今しがた買ってきたばかりの袋をがさがさと開けた。
「これが何か分かりますか」
「え……、え?」
リクヤが袋の中身を取り出して、アキトの目の前に差し出してきた。
子供のころから変わらずLBXだけを弄ってきたアキトは、保健体育で習う以外の性の知識がない。経験はもちろん無いし、夢精しないためにたまに事務的な自慰をする程度だ。
だから当然、アキトにはそれが何か分からなかった。
「ええと……、卵……、にしては小さいです」
「その通りですが」
卵型の小さい丸に、コードがつながっている。その先は簡素なスイッチがあるだけで他にはなにもない。アキトは皆目見当がつかず、素直にリクヤに聞いた。
「何ですか? これ」
「教えてあげます」
「わッ!」
リクヤはそう言うや否や、アキトに手を伸ばした。アキトは驚き身構える。だがそのまま肩を押されて、リクヤのベッドにぼすんと倒れ込んだ。
「り、リクヤさん!」
「失礼します」
リクヤの手がアキトの身体に触れてくる。まさかの展開にアキトは目を疑うばかりだ。リクヤはアキトのジャケットに手をかけたかと思えばきっちり結わえたアキトのネクタイを解き、そしてシャツのボタンにまで手を伸ばしてきた。
「わっ、わーっ、リクヤさんっ、なに」
「谷下くんにも教えてあげますから。気持ちいいこと」
「どういう意味ですか!?」
暴れようと思えば暴れられる。だがリクヤの行動に文句を言ったり邪魔をすることはアキトには許されない。必死に腕を抑えて読めないリクヤの動向を窺った。
リクヤはというと、ぷちぷちとひとつひとつアキトのボタンを外し、上着をはだけさせる。リクヤと同じくらい未発達な薄い胸板が、リクヤの眼前に晒された。
「谷下くんは、普段ここに触れることはありますか?」
「え、え」
ぴと、とリクヤの一本の指がアキトに触れられる。ここ、とは今指先で触れられている場所で、つまりそこは、乳首だ。
「無い、です、けど……、だって、男じゃないですか」
そんな場所、男には必要ないとアキトは思う。女は子供のために必要かもしれないが、男はどうせ子供に乳を与えることがないのだし、あったところで何も得はない。
アキトが答えるとリクヤはなるほど、と応えた。
「男でも、ここで気持ちよくなれるんですよ」
「え……っ? 気持ちよく、って!」
アキトの頬がさっと赤く染まる。つまりリクヤは普段からここで快感を得ているのだろうかと、そんな邪な考えに至ったからだ。リクヤはアキトの乳頭に押し当てた指をコリコリ動かして、やんわりと形を確かめるようになぞった。
そんな場所を愛撫したことのないアキトは、リクヤにそうして触れられても何も感じない。だが今アキトの胸に当てられているその手が、普段からそうしてリクヤの乳頭を愛撫しているのかと思うと、何故だかとても興奮する。
「リクヤさんは、ここ触るの、好きなんですか」
指先で弄られながらアキトは聞いた。するとリクヤはほんのり頬を赤く染め、視線を逸らした。
「……ダメですか」
「――っい! いえ! 全然そんなッ」
ぶんぶんと首を振るとリクヤは少しほっとした表情を見せて、また指先をくるくると回した。
性と無縁そうに見えていた小隊長の意外すぎる一面は、アキトの興奮材料にしかならない。施されている愛撫よりも目の前のリクヤの痴態を想像するだけで腹の底からムラムラとしたものが沸き上がってくる。
一体どんな顔をして慰めているのだろう。アキトは想像だけでたまらず下肢が窮屈になるのを感じた。
「谷下くんも、ちゃんと勃起するんですね」
アキトの上に乗ったリクヤが嬉しそうに指先をつうっと下へ辿らせる。ズボンの下から押し上げているアキトのものを指で撫で、リクヤはもう片方の手で眼鏡を上げた。
その表情がまた、たまらない。アキトはごくりと唾を飲みこむ。
「リクヤさん、リクヤさん……も、脱ぎましょうよ」
「え? 私は……」
「自分も全部脱ぎますから」
リクヤを見上げて半ば懇願する。するとリクヤは一瞬声を詰まらせ、小さく頷いた。
街をぶらぶらしていた時からは考えられない展開だ。アキトは頭がおかしくなりそうな感覚に陥るが、ここで意識を飛ばしてしまっては何の意味もないと己を奮い立たせる。
制服が皺にならないよう一枚一枚畳んで、最後の一枚をも脱ぐ。夕方前の明るい太陽の光はカーテンに遮られて部屋に入らず、薄暗いベッドの上でアキトとリクヤは向かい合った。
お互い、数えきれぬほど風呂で対面している。裸は見慣れていた。だが場所が変わると落ち着かないものだ。
「リクヤさん、さっきのやつ、自分もしたいです」
「さっきの……?」
「はい。む――胸の」
アキトが口をもごもごさせて言うと、リクヤはまた手のひらで赤い顔を隠すようにして視線を逸らした。眼鏡を上げるのは照れたときの癖なのだろうか。かわいい。
「す……好きにしてください」
そうしてそんなことを言うものだから、更にアキトの興奮は上がる。嬉々としてアキトはリクヤに腕を伸ばし、ベッドの上で向かい合って座った状態で、リクヤのそこに触れた。
「っふ……、ん」
くに、とアキトの指先にリクヤの乳頭が触れる。白い肌の上にほんのり色づいているそこはおいしそうにも見える。
平らなそこに指先を当てて、リクヤがアキトにしてきたようにくるくると円を描いた。するとほどなくして、明らかに分かる反応が返ってきた。
「硬くなってきた……、これが気持ちいい証拠ですか?」
「ん、そ……です、」
リクヤのそこがぷっくりと膨らむ。綺麗に尖っていて、指先で摘まむとリクヤが小さく息を漏らすのが楽しい。
アキトはなんとなく要領を得て、リクヤの胸を愛撫しはじめた。普段からここで快感を得ているというリクヤはアキトの指が動くたびに切なく鳴いて、気持ちよさを伝えていた。
「本当にここが気持ちいいんですね、リクヤさん。勃ってる、し」
「ッあ!」
空いている手でリクヤの性器に触れる。するとリクヤは大きく身体を震わせて目を見開いた。縋るものを探して咄嗟にアキトの腕を掴んでくる。
――これは、かなり、楽しいかもしれない。
アキトは目の前で乱れ始めたリクヤに、鼻息が荒くなるのを抑えられなかった。
「リクヤさん、気持ちいいところ教えてください。いっぱい気持ちよくなってもらいたいです」
「はっ……ァ、谷下、くん」
リクヤの性器をやわやわと弄びながら聞く。ぴくりと肩を震わせながらリクヤは緩慢な動きで身体を浮かせ、アキトの方へと寄りかかってきた。再びぼすんとベッドに倒れ込む。
え、とアキトが戸惑うのもつかの間、再び形勢は逆転していて、リクヤに見下ろされる形になっていた。何、と聞く前にリクヤの手が動く。
「わ!? まっ、待ってくださいリクヤさん! 恥ずかし……ッ」
「気持ちいいところ、教えますよ」
アキトはリクヤによって両足を抱えられ、膝を曲げた状態で大きく開かされていた。さすがに風呂場でも見えないような場所をリクヤの眼前に晒すのは恥ずかしすぎて足をばたつかせる。
だがリクヤは気にせず、先ほど袋から出したばかりのものを取り出した。アキトには正体が分からない道具だ。
「そ、それ」
「初めのうちは何も感じないかもしれませんが、だんだん良くなります」
「う、わ、」
リクヤはそう言って、アキトからは見えない窄まりにそれを当てた。どこから取り出したのかローションを撫でつけ、少しずつ押し込まれていく。
とてつもない違和感にアキトは恐怖を感じた。
「や、やです、リクヤさん、それ……!」
「大丈夫です。大丈夫ですから」
「わ、あ、あ……ッ」
ほどなくしてアキトの後孔に小さな卵型のものが全て押しこめられた。ありえない場所にありえない異物が入っている。アキトは恐ろしく、リクヤの腕を掴みかたかたと震える。
「ぬいて……、ぬいて、ぬいてください」
「怖いですか」
「こわいですっ……」
排泄するように下腹に力を込めて押し出そうにも全く上手くいかない。恐怖はアキトの力を奪っていた。
だがリクヤは助けを求めるアキトに耳を貸さず、手元のプラスチックを弄った。コードに繋がれたそれにはつまみがついており、それを回せば。
「――あッ!? あ、なに」
「これはバイブというものです。スイッチを押すと振動するんですよ」
アキトの体内の異物が突然動き始めた。思わずリクヤに縋る手に力を込める。リクヤが動かしたそれ――バイブは、ヴヴヴ、とアキトの体内でくぐもった音を立てて暴れた。
アキトはいくら助けを求めても抜いてくれないリクヤに痺れを切らし、手を足の間に伸ばそうとした。が、ぱしん、とリクヤに掴まれて叶わなくなる。
「リクヤさん……!」
「流石に、初めてで後ろのみはダメでしたか」
リクヤは少し残念そうに言った。何が、と聞き返す気力もない。そんなアキトを気にせず、リクヤが身体をアキトの上に移動させる。
そしてすっかり萎えてしまったアキトの性器を手に取って扱き始めた。
「ひッ! っあ、そこは」
「ここなら気持ちいいでしょう」
男ならば誰もが快感を得られる場所だ。箸より重いものを持つ想像のつかないリクヤの細い指がアキトのそれに絡む。崇拝している人物の、性器への愛撫。アキトは目の前が真っ赤になり、体内の異物の存在を忘れた。
「う、……あ、はッ、ぁあっ」
「良くなってきませんか?」
リクヤも手の中のものが一気に質量を増したことに気づいている。口元を緩めて手を動かし、アキトの興奮を煽る。
アキトが性器への愛撫に気を取られた瞬間、体内のバイブの位置が変わった。外へ外へと押し出そうとしていた力が抜けたからであろう。それが腸壁をぐっと押し、振動がよりダイレクトに伝わる。
その刺激が、先ほどまでとは明らかに違っていて、アキトは戸惑った。
「リ、クヤさ、これ……っ」
「それ、です。きもちいいところは」
リクヤがまた動き、今度はアキトの腹の上に跨ってきた。最初から最後までリクヤの行動についていけない。想像もつかない。アキトは体内から湧き出てくる快感に息を漏らしながら、霞む目でリクヤを見上げた。
「私も、入れさせてください」
「は――っ、あ、リクヤ、さ……ァ」
アキトは目を疑った。高められた己の性器がリクヤの窄まりに充てられて、そしてぐぷぐぷと奥に飲みこまれていく。
男女のセックスで挿入に使う場所は男にはない。その代わりにこんなところを使うのかと、どこか冷静な頭がそう考える。
だが視界に映っているのはとてつもなく衝撃的な光景で、アキトは卒倒しなかっただけでも奇跡であった。
だって、あのリクヤが。アキトの性器を自ら挿入してるのだ。たった一時間ほど前まではリクヤと性が結びつかなかったというのに、己の目は節穴だったか。
「谷下くんの、全部、入りました、よ……」
途切れ途切れにリクヤが言う。挿入しただけで感じているのか、上気した頬と潤んだ瞳がアキトを見下ろしている。その表情がとてつもない色香を放っていて、アキトはごくりと唾を飲んだ。
「リクヤさん……、もう」
「ん……、私も、限界です」
リクヤが笑って、腰を上げた。ずるりと性器が抜ける。かと思えば抜けるギリギリのところで再び奥まで挿入される。
リクヤの手にしたバイブはいまだにアキトの後孔に繋がっていて、アキトは後ろからと前から押し寄せる快感に耐えるすべがない。その上リクヤの痴態という視覚からの刺激も受けて、興奮は最高潮になる。
と、リクヤの指がバイブのつまみに触れた。何を思う間もなく、つまみが回転する。
「ぁああ! あ、あ、ぁあッ」
「んッ、ぁ、あ……、あ……」
バイブの振動を強にした瞬間、アキトは声を絞り出して吐精した。リクヤの体内に生暖かい液体が広がる。その感触につられてリクヤもまた射精する。
普段あまり運動することのない二人は大きく息をついて、疲弊した身体を並んでベッドに横たえた。リクヤによってバイブを後孔から抜かれると、ん、と鼻にかかった吐息が漏れた。
「リクヤさん……、これって、せ、セックス……」
真っ赤に染まった顔で眉を吊り上げ、真面目にリクヤに問いただす。しかしリクヤはふっと笑って、首を振った。
「……私たちは、ただ新しいおもちゃを手に入れて、それで遊んだだけです。私なんかとの遊びを、谷下くんの大事なものにカウントしなくていいんですよ」
経験のない中学生には、セックスなんてまだまだ遠い先のことだ。それに初めての行為が遊びの延長で男が相手だなんて、アキトが不憫すぎる。
そう言外に伝えたリクヤにアキトはぐっと眉を顰めた。アキトにとってリクヤは大事な人物であって、こんなことをされても全く気にならないというのに。むしろ、喜びすらも感じるくらいであるのに。
だがリクヤはアキトにものを言わせぬ目で、じっと見つめてきた。
「お願いですから。ただ遊んだだけ、ということにしてください。谷下くん」
「……、わかり、ました」
リクヤの言葉は絶対だ。でも、とアキトは顔を上げた。
「できたら、ま……また、遊んでください」
赤い顔のアキトを一瞬目を丸くして見つめ返して、リクヤは眼鏡をかけなおす手で口元を隠した。
2013.07.17
ダン戦 top