また、隊員を失った。
望まぬ「仲間殺し」の名を持つリクヤは人知れず息をついた。自分以外誰もいない部屋に微かに響く。だがそれを聞く者はもういない。
ジェノックという小国でリクヤが使命を持って戦うには、リクヤ自身の力が足りなかった。元より機体がロストし退学する生徒は年間を通して百人を超える。優秀なプレイヤーでさえ一瞬の油断でロストしてしまい退学を余儀なくされるというのも日常茶飯事だった。そんな中で、特出した技術を持たぬリクヤが未だ退学していないのは、数えたくもないほどの人数の仲間の犠牲があるに他ならない。
今回は早すぎだぜ、と呟いたコウタの声が耳から離れない。そうだった。とりわけ今回の隊員のロストは早かった。前回の山名シン、谷下アキトの在校期間が長かっただけに、余計に短く感じる。失った二人の悲しみから立ち直っていない今、新たな犠牲はリクヤの胸を抉った。
もう一度息を吐いて、色の入った眼鏡を机に置く。裸眼で見る窓の外は眼鏡越しで見るよりも星が鮮やかだった。
「リクヤ。俺だけど」
コンコン、と扉が鳴って向こうから声が聞こえてくる。「俺」ではなくて名前を言えといつも言っているのに、悪い、忘れてた、と笑顔で軽く謝る相手の顔が浮かんだ。
「開いています」
「今、いいか?」
軋む扉を開けながらコウタが顔を覗かせた。椅子を回して頷く。コウタが扉を後ろ手にパタンと閉めると、扉の隙間から聞こえていたラウンジの声がまた聞こえなくなった。
静寂は落ち着く。だが、今はただ、虚しいだけだ。
数日前まではすぐここにあった喧騒を思い出してリクヤは視線を逸らした。入学時からリクヤに与えられていた一人部屋は、たった数日前までは、一人だけの部屋ではなかった。
「ロストは退学だ。どう足掻いてもこのシステムを変えることはできない。受け入れるしかないんだよ」
「そんなこと、今更言われるまでもありません。何も感じませんから」
「ほんと、毎回毎回そういう嘘、疲れないの?」
コウタが我が物顔でリクヤのベッドに腰掛けて笑う。その位置はずっとコウタの特等席だった。
そしてその向かいの使われていないベッドはアキトとシンの。ずいぶん長い間の、特等席だった。
入学と同時にリクヤに与えられた一人部屋は、長らくアキトとシンらを交えた第3小隊の溜まり場であって、一人部屋などではなかった。
四人で狭さを感じていた部屋が、たった二人ではひどく広く感じる。それがただ虚しくて、リクヤは部屋を見ていたくなかった。
コウタはリクヤの心境を察して部屋に来たのだろう。一人では余計に広い部屋を少しでも埋めるために。それをリクヤも分かっているから、部屋から追い出すことができない。
それどころか情けなくもその優しさに縋ってしまいそうになるのを、視線を外に向けることで抑えた。
「部屋、広くなっちまったな」
「……、最初から、こうでしたよ」
「ああ、そうだな」
コウタは易々とリクヤの心を読んでいく。それほどまでに情けない顔をしていたのだろうか。ポーカーフェイスには自信があったはずなのだが。
リクヤが面白くないと眉間に皺を寄せると、コウタはへらへらと笑ってベッドに手をついた。
「なあ。こっち来いよ」
そう言って手招きしてくる。だからといって素直に言いなりになるのも何だか癪だ。
しかし無視して机に置いた眼鏡を手に取りかけようとしたところで、その手から眼鏡が消えた。
「朝比奈くん。返してください」
「じゃあこっちに来いよ。離れてたら余計に広いだろ」
欲しい眼鏡はコウタの指の先でクルクルと回っている。眼鏡がなくとも生活ができないほどではないが、常に顔の一部として存在しているものが無いのは落ち着かない――と、正当な理由を付けて、リクヤは椅子から腰を浮かせた。
コウタの目の前に立って、手の中の眼鏡に手を伸ばす。だがひょいとかわされて、その腕を逆の手で掴まれた。
「……なんですか」
「そんな目で睨むなよ。あ、裸眼だからそんなに怖い顔になるのか」
まあどうでもいいけど、とコウタが適当な言葉を投げてリクヤの腕を引く。されるがままにリクヤはコウタの隣に腰を下ろした。自ら進んで他人との距離を詰められないリクヤには、このくらい多少強引にされるほうが楽だ。
コウタはリクヤとの距離を縮められたことに満足そうな表情を浮かべて眼鏡を返した。リクヤは受け取って、それを顔の所定の位置に戻す。一枚の薄いガラスのフィルターは心の防具のようで落ち着いた。
「ところで、何か用ですか。もうすぐ消灯の時間ですよ」
だから、防具さえあればこんな強気な質問をぶつけることもできる。コウタがリクヤを慰めにここに来たことは分かっていた。口を突いて出た、コウタの優しさを跳ねのける言葉に、我ながら失望する。だが己を保つためのプライドはそう易々と崩せはしなかった。
コウタもそんなリクヤを知っている。全てを見通している顔でふっと笑って、別に、と返した。
「なんとなく、暇潰しに来ただけだよ。毎日ここに来てたんだし、その習慣」
アキトとシンのいた頃は、何もなくとも毎日ここに来ていた。ジェノックの中でも特殊に見られる第三小隊だって、全員がただの少年たちだ。学校から離れて仲間内でいるときは、くだらない話だってする。ふざけあったりもする。ただそれが、少年たちにとっての「日常」であって、第三小隊にとっては「非日常」であっただけだ。
早く、第三小隊としての日常に心を戻さねばならない。傷心に浸っている暇はなかった。
リクヤの思っていることもコウタは全て見通しているのだろう。感情の掴みにくい目で隣に座るリクヤを見下ろして、そうだ、と言った。
「しようぜ。リクヤ」
「……は?」
突然の言葉にリクヤは口を開く。は、としか反応のしようがない。コウタはぽかんと呆けたリクヤに悪戯っぽく笑った。
「寂しいときはくっつくのが一番だと思わないか?」
「何ですか、その理屈は」
コウタの言葉をようやく誘いとして認識しはじめたリクヤは、ほんのりと頬を赤らめて眼鏡を指で上げた。
二人は幾度となく「そういうこと」をしてきた。今更恥じることもない関係だった。だが、こなした回数と羞恥の度合いは全く直結しなかった。
「明日も授業がありますし」
「知ってる。体育もある」
「休むわけにはいきませんから」
「休まなければいいだろ。そんなに激しくするつもりなのか?」
言葉尻を取ってコウタがからかう。む、と眉間に皺を寄せてコウタを見ると、彼の手がリクヤの顔に伸びてきた。あっ、と制する間もなく視界が再び明るくなる。
「やっぱリクヤは眼鏡があると仕事モードになるからダメだ。こいつは没収」
「返してください!」
コウタの手の中に再び収まったリクヤの眼鏡は、コウタによって離れた場所に置かれた。そして再びリクヤの隣に座り、ベッドの上に置かれてあるリクヤの手に手を重ねる。
リクヤは、人の体温にひどく安心感を覚えた。
それはいつからだったか、はっきりとは覚えていない。だが人知れず任務をこなし、そしてその中で仲間たちが自分のために犠牲になっていく日々を送っていくうちに、人肌に触れるということを心の奥底で求めるようになった。
数えきれないほどの友人たちの犠牲の上に、何の気持ちも抱かずに立てるほど、リクヤの心は強くない。血も涙もないような男にはなりきれない。そんな中で生まれた感情が、人の体温に触れて安心したいという、甘えの気持ちだった。
しかしそんなことを誰かに言えるはずがない。隊員に言えば気味悪がられるだろう。男が人の体温を求めているなんて、情けないと思われるだろう。だからリクヤは長い間、それを押し殺して生活してきた。
だがそれに気づいた者がいた。それがコウタだった。ロストすることのないメカニックだから、より長くリクヤのそばにいたことで気づいたのかもしれない。はたまた、共にいるうちに生まれた恋愛感情やら、彼にあった庇護欲やらを刺激した結果のものかもしれない。
リクヤの感情に敏感に気づいたコウタが、告白と同時にリクヤに手を差し伸べた。その好意の明るさと、その手の温かさを知ってしまってから、リクヤは逃れられなくなった。
「……ふ、……」
コウタの顔が近づいて、唇にそれが触れる。薄い皮膚越しに伝わる温もりと、微かに触れる息。
リクヤの手に重なるコウタのそれはメカニックらしく様々なグリスやらで荒れていて、かさかさしている。しかしコウタが触れているというだけでそこは鼓動を刻み、指先がとくとくと脈を打つ。
たまらなく、安心する。
唇の隙間からコウタの舌先が入り込み、リクヤの咥内を犯した。しかし決して性急ではなく、ゆっくりと、味わうように舌は動く。リクヤも舌を差し出せば一瞬にして絡め取られ、ぬめる舌同士が粘着質な音を立てた。
「……へいき?」
コウタが唇を離してリクヤの表情を伺う。は、と短く息をつくリクヤの唇の端から唾液がぽつりと垂れて、コウタはごくりと唾を飲み込んだ。リクヤはそんなコウタに気づかず、ふいと目を逸らして小さく頷く。
「何も……、べつに」
「そう。それならいい」
コウタの手がリクヤの肩を押して、二人で柔らかくベッドに倒れ込んだ。電気、とリクヤが照明の紐を指差すと、コウタが渋々とそれを引っ張る。部屋を真っ暗にすると視界が絶たれることでより触覚が発達するのか、体温が強く伝わってくる気がして好きだった。
コウタの唇がリクヤの額、頬、唇とあちこちに落とされる。その間にも繋いだ手はそのままで、だがもう片方の手はリクヤの部屋着を這い回っていた。
「ん……、……」
服の裾からコウタのかさついた手が入り込み、リクヤの腹から胸へと撫で擦る。成長途中の少年の肌はどこも引っかかるところがなく、滑らかで気持ちがいい。だが反対に、荒れた手で愛撫されるリクヤの方は、撫でられたところから肌が粟立った。
「くすぐった、い、です」
「我慢がまん」
コウタが笑うと息がリクヤの頬を滑ってさらにくすぐったい。リクヤは身を捩ったが、コウタの手が追いかけるようにしてリクヤの肌を撫でた。腹筋も胸筋もないリクヤの白い肌の、少し脇に寄った真ん中のあたり。そこに指を引っ掛けて遊び始める。
肌に触れる延長線で、頻繁に性感帯に触れられていたリクヤの身体は、コウタによって敏感に作り替えられていた。乳頭を指先で捏ねられただけで、くすぐったさ以上のものがリクヤを襲う。
「は……、ぁ」
か細く上がるリクヤの声に、コウタの口の端が緩む。愛しさから繋いだ手をきゅっと握れば、リクヤのほうからも微かに握り返されてくるのがまたたまらない。
コウタはリクヤの部屋着をたくし上げ、白い肌を晒した。呼吸と共に上下する胸と腹には余計な脂肪もなければ筋肉もない。女らしいものもなければ男らしいものもない。成長途中ゆえに中性的なその身体はむしろ目の毒だった。
腰を屈めて、弄っていないほうの乳頭に舌で触れると、またぴくりとリクヤの指が動いた。思うままにぎゅっと握り返したいけれど、まだプライドか何かが邪魔している――といったところか。それならばそこを突き崩すまでだ。
「ぁ……、さひな、く」
「なに?」
舌先を尖らせてちろちろとリクヤの乳頭を責めると、頭上から咎めるような声が降ってくる。コウタが目線を上げるとそこには赤い顔で眉根を寄せたリクヤがいて、その表情は反則だろう、と思わずにはいられなかった。
何かを訴えるようにコウタを見て、言いにくそうに口をむずむずさせている。手は握ると柔らかく握り返してくるのに、口はまだ素直じゃないようだった。
「どうした、リクヤ。痛かった?」
「そうじゃ、なくて……」
リクヤの眉尻が下がる。普段きりっとした表情を浮かべているリクヤが人に甘えるときはこんな顔をするのだということは、コウタ以外に誰も知らない。
促すように手に力を込めると、ようやくリクヤはコウタに視線を合わせた。
「わ……、私も、します」
「え? 何を……」
コウタの言葉は途中で切れた。繋いでいないリクヤの手がコウタの身体に伸びてきたせいだ。思いがけない箇所に触れた体温に、コウタの思考は一瞬停止した。
コウタよりもほんの少し高いリクヤの温度が、布越しに腹のあたりをまさぐっている。手のひらが求めているその場所は、コウタの性器か。
「…………マジで?」
「だ、ダメでしたか……」
「そうじゃない、そうじゃないけど!」
リクヤはコウタから与えられるばかりで、自らコウタに触れることはほとんどしない。その彼が自ら身体を求めたことに、コウタは驚きを隠せなかった。
だが、せっかくのリクヤの申し出を断るほど、男は廃っていない。コウタは戸惑いながらも思わずやってきた幸運に興奮し、胸を高鳴らせた。
「リクヤ、今日は本当に弱ってるんだな」
「……そういうことに、しておいてください」
繋いでいたリクヤの手を引っ張って、身体を起こしてやる。そうしてコウタは一番初めと同じくベッドに腰掛けて、リクヤは這う猫のようにベッドから降りた。
コウタの足の間に身体を置いて、彼の部屋着のズボンに恐る恐る触れる。そこは興奮の兆しが現れていて、部屋着をほんの少し押し上げていた。
それに一瞬怯みそうになったが、リクヤはコウタに腰を上げてもらって部屋着をずらして性器を取り出す。初めて間近で見たコウタのそれはリクヤよりもずっと大人びていた。
「い……、痛かったら言ってください」
「う、うん」
元々リクヤは性欲の処理をすることがほとんどなかった。あまり性欲がなかったというのが大きい。精通も比較的つい最近まで経験していなかったし、寮生活という閉鎖空間ではそのようなことに至る発想がなかった。
だから、いざ他人のそれを目の前にしても、コウタが自分に施してくれる愛撫の方法しか知らない。リクヤは弱い視力のせいで顔を性器に近づけて、手のひらでコウタのそれを優しく包んだ。
「リ、リクヤっ」
「えっ、痛いですか?」
「違う! 顔近すぎっ」
慌てたコウタの声が頭上から飛んできたのでリクヤは手を離したが、痛みではなかったのならどうでもいいと、再び手のひらで触れた。コウタの恨めしそうな視線が降ってくる。
気にせずリクヤは手のひらでの愛撫、というよりもただ触れるだけのそれを開始した。コウタの性器の形や熱を覚え込むように、丁寧に根本から先へと指先が這う。力いっぱい扱かれるよりもずっと、コウタにはつらい。
息もかかるほどの近さで見つめられて、袋の皺ひとつひとつを伸ばすくらいに指を這わされて、先端に浮かんだ雫を不思議そうに指先で突つかれて。
勘弁してくれと叫ばずにいられたのは奇跡だと、コウタは思った。
「リクヤ、もういい……」
「でも」
「俺も我慢できないから、さ」
適当な理由を言って、リクヤを再びベッドの上に上げる。あながち嘘でもない。あんな拙い愛撫未満のことをひたすらされていたら、正気の方が長く持たない。
リクヤはまだ不満そうな顔をしていたが、コウタがリクヤの服に手をかけるとそれも形を潜めた。リクヤの性器も部屋着を持ち上げていて、早く触ってくれと言っているように見える。
離した手を再び繋いで、コウタはリクヤの下肢を露わにさせた。ズボンも下着も取り払ってベッドの下に放る。上着を伸ばして局所を隠そうとするリクヤの手をやんわり掴んで制して、コウタもそれに触れた。
「あっ……」
「すごい辛そうだけど、先に抜いとく?」
手に収まってしまうリクヤの性器を軽く扱いてコウタが聞いた。ムードのかけらもない。リクヤは緩く首を振ってそれを拒否した。
「いい……です。それよりも早く」
「いっぱいにしたい?」
身体の内側を。コウタの質問にリクヤは一瞬言葉を詰まらせたが、小さく頷いた。男であるのに、コウタに挿入されて深く繋がることも、リクヤに安心感を与えるのだ。
それはきっと、コウタがただリクヤの身体だけを抱いているのではなくて、心にも触れているからであろう。セックス中は外されることのない手や常に優しく触れ合っている身体の一部から、コウタのリクヤに対する慈しみが伝わってくるのだ。
「じゃ、気持ちよくしてやらないとな」
コウタは指を唾液で濡らし、リクヤの窄まりに這わせた。慎ましく閉じているそこに指先を潜り込ませ、無理と分かると再び指に唾液を塗りつけてそこに触れる。
何度経験してもそこに触れられるのは気分が悪い。とてつもない違和感と嫌悪感がリクヤの胸を占める。
だがそれも長い時間ではない。リクヤの身体の全てを把握しているコウタによって容易く拓かれ、リクヤの身体はどんどん色づいていく。
リクヤも触れたことのない体内のどこかにコウタの人差し指が掠めたときに身体が跳ねてしまうのは、何度経験しても抑えられなかった。それどころか、回数を重ねるごとにより敏感になっていくようだった。
「そろそろ入れてもいいか」
コウタが呟くと、リクヤの育てた性器がそこに宛がわれる。ひくりと喉が震え、同時に指先は無意識にコウタの手を握った。コウタもリクヤの手を握り返して、腰を進めていく。
ぐ、と一番太い亀頭の丸みを押し込んで、更に奥へ。平均的なコウタの性器であっても、本来受け入れる機関ではない男のそこ、ましてや未発達なリクヤの身体では丹念に解さなければかなり苦しい。
それでもようやく収まった性器に安堵の溜息をついて、コウタはリクヤの瞼にキスを落とした。
「好きだよ、リクヤ」
「っ……、なんですか、急に」
「さっきまで素直だったくせに、こういうこと言うといつも通りになるよな」
コウタは笑って、再びリクヤの頬に口づけた。そんなリクヤを好きになったのは自分だ。
使命のために同国に敵を作っても信念を曲げず戦うその背中に、守ってやりたいと思った。メカニックが自分の小隊の隊員を戦闘で守ってやりたいと思うのは当然だ。だがそれ以上に、助けを求めているリクヤの心を救ってやりたいと思った。
リクヤは赤い顔を隠すようにして顔の左半面を枕に埋める。コウタはその反応にも口を緩めて、リクヤの腰を抱えなおした。
「好き。リクヤ。好き」
「な……っ、何度も、言わないでください」
握った手の甲にも口づけると、ようやくリクヤからの視線が返ってきた。その表情には一体何度煽られれば良いのだろう。
コウタは何でもないような表情で唾を飲み込み、腰を動かし始めた。
「あっ、あ、はァっ、ん……っ」
コウタが腰を穿つたび、リクヤの喉から言葉にならない声が上がる。その程よく高い声もコウタの興奮を煽る。
リクヤは繋がりあった箇所から広がっていく熱さがたまらなく、息を吐いた。性的な愛撫で性欲も煽られるが、それ以上に「繋がりあっている」ことによる温かさと興奮がやまない。
繋いでいない手をコウタの方に差し伸べると、それにも指を絡められ、指先に吸い付かれた。刺激にさえならないほど些細な触れ合いにも、リクヤは息を漏らす。
「あさ、ひなくッ、っぁ、あ、ッ……」
「イきそう?」
コウタの質問に首を縦に振ることで応える。すると真上にいるコウタも少し普段の落ち着きを欠いた顔で、俺も、と呟いた。
「一緒にイこうぜ、リクヤ」
「あ、あ、ッひ、あぁ……ッ!」
コウタの唇がリクヤの額から顎まであちこちに触れ回る。リクヤはそのひとつにも反応を返せないまま、ただ深く穿たれる度に甘い声を上げることしかできなかった。
身体がとても熱い。胸の奥が愛しさに詰まって苦しい。いっそこのまま死ねたなら幸せかもしれない。
だがそれを許さぬ力強さでコウタは手に力を込め、リクヤを現実に留めた。
「イっ……あ、あッ、も、」
「ん。イこ」
「ッあ! っは、あ、……っ!」
リクヤの限界を感じ取ったコウタがリクヤの唇にキスをした瞬間、リクヤの身体が大きく跳ねた。一拍遅れてコウタも体液をリクヤに注ぎ、全て出しきってからずるりとそれを抜く。リクヤの色づく窄まりから己の体液が零れ出てくるさまは淫猥で、思わずごくりと唾を飲みこんだ。
「悪い。中に出しちまった」
「ん……」
初めから避妊具を付けるつもりのなかったコウタは形だけ謝る。リクヤは気だるげに返事なのか返事ではないのかよく分からない声を発した。そして疲労からか、少し眠そうな瞳がコウタを見上げ手を伸ばしてくる。
「なに? 眠い?」
「……あなたは、ずっとここにいてくださいね」
寂しいとかつらいとか、そういう素振りを全く見せたがらないリクヤが発した言葉にコウタは一瞬目を丸くした。だがすぐに頷いて、リクヤの頭に手を置く。
「俺はメカニックだぜ。退学なんてしねえよ」
「期待してます」
リクヤの眉が泣きそうに歪んだのに気付かないふりをして、コウタはもう一度、彼の唇にキスをした。
2013.07.13
ダン戦 top