※設定を少し捏造しています


 いつものように授業を終え、いつものように部室の扉を開けると、見慣れないものが飛び出してきた。
「先輩! トリックオアトリート!」
「……天馬と信助、か?」
 白い布をすっぽり被った人物と、おばけのお面をつけた人物がまず最初に神童を出迎えた。一体誰だろうと思案するよりも前に背丈と声、そしてこんなことをしそうな人物と考えれば自ずと正体が見えてくる。
「今日はオバケなんですよ! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃいますよ!」
 きっと手作りらしいお面を被った信助がそう言うので、神童は思わず笑みを零した。なるほど、今日はハロウィンだった。かわいい後輩達が好奇心をくすぐられてこんなことをしているのも頷けた。
 部室を見れば、すでに被害にあったらしい同級生たちが苦笑しながら神童を見ていた。
「何も持ってないと言ったら、俺はイタズラされてしまうのか?」
「もちろんです! 神童先輩は特別だから、他の先輩の二倍でイタズラします!」
「それは困るな」
 神童は笑って、鞄の中から飴をふたつ取り出した。いつだったか、霧野にぽんと貰ったものだった。それを天馬と信助に手渡すと、想像通り、不満そうな声を出した。
「えー! 神童先輩は絶対にお菓子なんて持ってないと思ったのに〜!」
「ていうかっ、飴玉ひとつじゃ足りないよ! イタズラしようよー!」
「それより天馬はもうキャプテンなんだろ。部員が揃ったんだからもう遊びは終わりだ」
「わっ、ハイ!」
 神童が一応は元キャプテンとして現キャプテンを急かすと、天馬もそれに気付いて被っていた白い布をばさりと脱いだ。それはきっとシーツか何かだろう。今頃アパートの管理人は一枚足りないそれに首を傾げているのだろうか。
「それじゃあ俺、一度グラウンドを見てきます! 先輩達も準備しててください!」
「あっ、僕もー!」
 ばたばたと駆けて行った彼らは去り際も騒がしかった。ようやく少し落ち着いた部室に少し安堵して、床に落とされた、先程まで西園の顔を覆っていたオバケの仮面に視線を落とした。
「トリックオアトリート、か……」
 口実は何でもよかった。



 三年生が事実上部活を引退したのは夏休みが終わってすぐだった。
 本来であればホーリーロードが終わればそのまま引退となるのだが、神童がその大会が終わる間際に負傷したこと、キャプテンとして新たに任命されたのが一年生の天馬であったことから、今引退するのは厳しいと判断した三国らが夏の間も残ることとなったのだ。
 実際に神童が不在の間に天馬は三国に厳しく指導を受けたらしく、久々に部活に復帰した神童は目を見張ったほどだ。
 そうして神童が復帰したのを見届けてから、三年生は引退した。たまにサッカー棟に来ては軽くボールを蹴ったり後輩達の指導に当たることもあるが、それだけだった。
 恋人同士であるのに毎日の部活動という会う理由がなくなってしまった神童と三国は、当然会う機会がぐっと減った。元々毎日会っていたのだから、メールや電話も、そう頻繁に交わしていたほうではない。会わなくなってからは多少は増えたものの、その程度だった。
 大体、神童はともかく、三国には目の前に受験がある。あまり頻繁に連絡を交わしては迷惑がかかるだろう。そう思えば自然と携帯のキーを押す指は止まり、結局何もせずに机の上に伏せられるのだった。

 そんな日々がしばらく続いて、そして今日だ。部活を終えた神童は霧野と分かれたあと、路地で足を止め携帯を取り出した。ここまでは頻繁にする。携帯を出しても何もせずに仕舞い込んでしまうのが常だ。だが今日は後輩達の無邪気さを借りて、迷いを押し込め通話ボタンを押した。
 一回、二回。数回のコールのあと、相手が応えた。
『もしもし』
「三国さん? 俺です。お久しぶりです」
 久しぶりに聞く三国の声だ。思わず胸が弾む。あまりにも嬉しそうな声がバレないように気を付けながらも神童がそう言うと、電話の向こうで三国の声が弾んだ。
『神童! 最近連絡もくれないから、忘れられたんだと思ってたぞ』
 冗談めかして言う三国だが神童が前述の理由から連絡を意図的に絶っていたのは事実で、心臓のあたりがちくりと痛む。意外に寂しい思いをしてくれていたのかもしれない。
「すみません。三国さんの迷惑かと思って」
『神童らしいが、お前にそこまで心配されるほど切迫詰まってはいないよ。もう部活は終わったのか?』
「はい。それで、あの……」
 しかし神童が電話をした理由を話そうと続ける前に、三国が言葉を発した。
『それなら、うちに来いよ。今日は母さんが出張で、ちょうど誰かを誘おうと思ってたところなんだ』
 お願いする前に誘われてしまった。願ってもないことだ。神童はすぐに返事をすると、喜びで駆け出しそうになる足を必死に抑え、三国の家へと向かった。



 久しぶりに歩く道を、普段の半分程度の時間で歩きすぐに三国の家に着いた。ほとんど意味はなくてもなんとなく髪の毛を撫でつけてからインターホンを押す。機械の音の少し後にドアの鍵が開く音がして、三国が顔を覗かせた。
「よく来てくれたな、神童! 上がってくれ」
「お邪魔します」
 ここまで来てから、そういえば何も手土産を持たずに来てしまったことに気づいてはっとした。三国に会える、ただそれだけを考えて急いで来てしまった。礼を欠くなど、なんたる失態だ。
「あの、すみません三国さん、俺、何も持たずに来てしまって……」
「え? ああ、別に気にすることなんて無いぞ?」
「す、すみません」
 家に押しかけて食事を頂く気満々で来たというのに何も手土産がないなど、神童にとっては許しがたい行為だった。しゅんと項垂れ謝る神童に三国は人のいい顔で気にするなと言うが(実際にこんなことで怒るような人物ではないが)、神童にとっては大問題なのだ。
 何か代わりになるものはないかと考え、ポケットをまさぐって、神童ははたとひとつ思い出した。
「三国さん、トリックオアトリートって言ってくれますか?」
「……? トリックオアトリート?」
「はい、これ」
 神童の言葉を復唱した三国に、ポケットから出した飴をふたつ手渡した。天馬と信助に渡した後、また聞かれたら困るだろ、と霧野が新たにくれた飴だった。
「今日はこれしかないんですけど、ごめんなさい。今度また何か持ってきます」
「気を遣わなくていいのに。神童らしいけどな」
 ありがとう、と飴を受け取って三国は笑った。
「そういえば、ハロウィンなんだな。たまたまだけど今日はかぼちゃのグラタンなんだ。食べられるか?」
「はい! 美味しそうです」
 食卓にはもうすでに料理が湯気を立てて並んでいた。会うのが久しぶりであれば、三国の手料理はもっと久しぶりだ。自然と顔はほころんだ。


「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
「それは良かった」
 すべて残さずぺろりと平らげ、神童はほどよい満腹感で満たされた。腹が膨れていてすぐ目の前に好きな相手がいる幸福は何にも代えがたい。
「最近車田が塾に通いだしたらしくてなあ、なかなか晩飯に呼べないんだ。良かったらまた来てくれ」
「そうなんですか? 受験生ですね」
「まあそれは俺もそうだけどな……」
 三国が食器を片づける後ろ姿を見ながら他愛のない会話をする。三国同様、なかなか会えていない車田達の近況は気になるところだった。
「天城さんは?」
「あいつは元から自分で勉強できる方だからな。俺達の中で塾に行き始めたのは車田だけ」
「へえ……車田さん、大変そうですね……」
「ああ、いつも泣きそうな顔して宿題やってるよ」
 その様子を思い出したのか三国が小さく笑って、食器を洗う背中が揺れる。その背中の大きさも久しぶりに見た。
「神童の方はどうなんだ? 勉強も……、……神童?」
 神童は立ち上がり、三国の背中にとんと額をくっつけた。手が泡だらけで食器を離せない三国が首だけで振り返って神童を訝しむ。神童は急に芽生えた悪戯心で、そういえば口実に使うつもりだった言葉を発した。
「三国さん、俺も使っていいですか? トリックオアトリート」
「なんだ、お菓子が欲しいのか? それならプリンが冷蔵庫に……」
「違います。それもすごく魅力的ですけど」
 動けない三国の腰に腕を回して、久しぶりにしっかり感じた三国の体温にほうと息を吐いた。結局は、ただ三国に触れたいだけだった。
「お菓子をくれてもイタズラします」
「……ただイタズラしたいだけじゃないか」
「そうです。嫌ですか?」
 もちろん、くすぐるとか落書きするとかそんなイタズラをするつもりは毛頭ない。三国もそれをわかっているのか、少しの沈黙の後、別に、と答えた彼の耳が心なしか赤かった。


 久しぶりだからちょっと待っててくれと言って三国は風呂の準備を始めた。せっかくなら一緒に入りましょうよと言った神童に馬鹿なことを言うなと返されたが、馬鹿なことを言ったつもりのない神童は少ししょんぼりした。
「だって、準備も片づけも楽じゃないですか」
「そういうことを言ってるんじゃない。する場所じゃないだろ」
「でも、どうせお風呂に入るなら一緒のほうが」
 そう言って聞かない神童に最後には三国が折れて、結果神童が望んだまま風呂に一緒に入ることを許された。
 神童が三国の家の風呂に入るのは初めてだ。三国がしきりに狭いから、とかお前の家の風呂とは比べるなよ、とか言っていたが、神童の想像する風呂よりずっと綺麗で清潔だった。湯船もじゅうぶんな大きさで、むしろ神童の家の無駄に広いばかりのそれよりもずっと良いと思った。
 脱衣所で制服を脱ぎ冷たいタイルにひたりと裸足で触れる。後ろで三国はまだもたもたと服を脱いでいた。
「体、洗わせていただいていいですか?」
「あ、ああ……」
 シャワーから湯を出し、ばしゃばしゃと頭から被る。適当に石鹸を拝借して体を洗っているうちにひんやりとした空気が神童の肌を撫で、ようやく三国が浴室に足を踏み入れたことを理解した。
「背中流してやろうか」
 まずはそれからだと、三国は神童にそう持ちかけた。無論、願ってもないことだ。顔についた水気を手で落とし張り付く前髪を掻き上げて、お願いしますと答えた。
「髪、そうやるとちょっと幼くなるな。新鮮だ」
「子供だって言いたいんですか」
 軽口を叩きながら三国が神童の背中を泡のついたタオルでごしごしと洗う。強すぎず弱くもない力加減で擦られるのは、なんだか男同士の裸の付き合いを改めて感じて照れ臭かった。
 一通り洗い終えて桶に溜めた湯でざっと泡を流す。さて次は三国の番だと神童が腰を上げると、三国も倣って場所を交換した。
「強くしてくれ」
 挑戦的に言ってタオルを渡してくる三国に負けず嫌いの心がむくりと頭を上げる。しっかり泡を立てて神童は先ほど見惚れた広い背中にタオルを押し付けた。
「これくらいですか? もっと?」
「いい感じだよ。もっと強くてもいいな」
「む……」
 タオルを掴む腕に力を込めるが、MFは脚力は鍛えらえても腕力は鍛えてくれなかった。必死に三国の背中をタオルで擦り、泡で背中を塗り終えられる頃には神童の右腕はじんと痺れていた。
「お疲れ様」
 三国が笑いながら湯を溜めた桶を渡してくる。熱めの湯が再びざっと泡を流し、三国の背中を綺麗にした。神童はすっかり一仕事終えた気分になったが、今日はこれだけでは終わらせない。むしろここからが本番のはずだ。
 痺れた腕を振ってから気を取り直して三国の背中に話しかけた。
「背中は終わりました。前も洗わせてください」
「……いや、それは自分で」
「往生際が悪いですよ」
 台所に立っていたときから、三国にだってその気があったはずだ。さすがに風呂場ですることになるとはその時は思っていなかったはずだが、結局することは同じなのだ。それならばいい加減、腹を括ってもらわねば困る。
 いっそ無理やりにでも、言葉通りの「イタズラ」を仕掛けてやろうかと神童が思案していたところで、三国がおもむろに再び湯を溜めた風呂桶をざばりと頭から被った。
「わっ」
 飛沫が神童の方まで飛んで口の中にまで入ってくる。どうしたのかと三国のほうを見やると、ようやく覚悟を決めた様子の三国がそこにいた。きっと湯のせいだけではないくらい顔が赤い。
「……わかった。よろしく頼む」
 髪の毛が濡れていつもとは違う雰囲気の三国に思わず見惚れたのもつかの間、すぐに言葉を理解して神童ははいと頷いた。
 洗い場でお互い裸のまま向かい合うのはベッドの上よりもなんだかずっと気恥ずかしい。照れ臭いのを隠すようにして神童が三国にキスをすると、余計に恥ずかしくなった気がした。
「っん……」
 触れるだけのを数回、すぐに我慢できなくなって舌を伸ばして絡めあうのを数回。唾液が絡む小さな水音ですら浴室にはよく響き、「そういうこと」をしているのだと強く二人に知らしめて、また恥ずかしくなった。
 絡みつく唾液を名残惜しそうに離して、神童はいったん三国から離れた。タオルは不要だと判断した神童はすぐに手のひらにボディソープを取り、綺麗に泡立てた。たちまちに花の香りが湯気に乗った。
 泡のついた手で三国の二の腕に触れ、その手をつうっと辿らせて泡を伸ばす。筋肉の盛った筋をなぞるように指先を動かすと、くすぐったそうに捩られた。
「神童、普通にしろ」
 そうして照れ隠しのように怒られる。だがやめる気はさらさらない。キーパーとして何よりも大切な腕を念入りに指と手のひらで擦り、三国の手首、手のひら、指の股までじっくりと堪能した。
 それは洗うという行為や愛撫というよりも神童にとっては愛しいものを鑑賞するようなようなものだった。実際に、いつも助けられていたこの腕は神童にとってはどんな芸術品よりも尊いものだった。
「もう十分だろ、くすぐったい」
 口の中でもごもごとそう言った三国に従って、名残惜しく思いながらも神童は三国の腕を離した。もう一度ボディソープを手に取って泡を立ててから今度は首のあたりにひたりと手を置く。
 皮膚の薄い部分は余計にこそばゆいのか、神童の手が首や脇のあたりに触れるたびに三国が肩を揺らした。それに気づいた神童がつと指の腹を下へ動かし、上半身では最も敏感な部分であろうそこに前置きなく触れた。
「っ……!」
 予想通り三国はびくりと反応して神童の腕を掴んだ。そんな反応をされては余計に煽られるだけだ。神童は掴まれても尚、指を伸ばしそこをくすぐった。
「待っ……て、神童、」
「洗うだけです」
 もっと前から洗うという行為を放棄していたのに、今更そんなことを言って三国を騙す。だがそう言われれば三国も言葉を詰まらせる他ない。その一瞬を突いた神童が三国の腕を振り切って、もう一度色づくそれに指先を絡めた。
 何も反応をしていないそれを指先で突くようにして、そして乳輪の周りを二本の指の腹で押し摩る。泡のついた指での愛撫は、行為自体が久しぶりの上に経験したことのない感覚を生むらしく、三国は頬を赤らめながらも眉を潜めていた。
「なんか、変だ、それ……っ」
 そう言いながらも息が乱れているのは、多少なりとも感じられているということだろう。神童はそう得て三国の胸の先をひたすらに撫でた。
 少し触れるうちにそれがぴんと尖り、赤く充血していく。そうなったらその上から泡を乗せて白く隠して、また指で泡を暴いていく。
 泡まみれの指がぬるついてうまく摩れない、なんて理由を並べて執拗にそこだけを刺激していった。唯一残念だと感じたのは、泡のせいで舌では愛撫できないことだった。
「こんなに美味しそうなのに」
 ぼそりと神童が呟いて、一拍遅れてその意味を理解したらしい三国が思い切り顔を顰めて顔を逸らした。そういう顔を見るのは三国の人間らしい部分が見れた気がして嫌いじゃなかった。
「でも、そろそろ次のところも洗わないと上せちゃいますね」
 気づいていたが、あえて触れなかったそこにようやく神童が意思を持って触れた。時間をかけた上半身への愛撫でそれはゆるく頭を擡げている。泡まみれの手が触れると三国の体ごと、それもびくりと反応した。
「待たせてしまいましたか? すみません」
 腕に触れたときのようにゆっくりと泡を塗りつけるようにして手のひらを上下させる。あくまで洗う行為なのだと、建前を見せつけているかのようだ。だがそれでは逆に三国がたまらない。自身の嵩は増し、天を仰ぐように成長するが、それを解消する刺激がなければ出口も見つからない。ただゆるやかな快感が与えられるだけだ。
「神童っ、それ、やめろ……!」
「気持ちよくないって言うならやめますけど、」
 言いながら、快感を伝えているそれを指先で上から下になぞる。急激にやってきた射精の衝動をくっと堪えて三国は荒く息を吐いた。湯気が目に染みているのか、それとも快感からなのか、瞳には薄く膜が張っていた。
 その顔を見ただけで、神童もまたずんと下腹に快感が重く疼いた。他の何よりも三国の表情が神童を興奮させた。
「三国さん、後ろ向いて浴槽に手をついて、膝立ちになってもらえますか?」
 なんともわかりやすい体勢だ。これからすることをとても素直に表している。当然のように三国は渋った。が、彼の限界も近いのだろう。のろのろと神童の言うことに従い、耐え難い羞恥に襲われる体勢を取った。
「は、早くしろ……」
「わかってます」
 煌々と照らされた浴室で恥ずかしさに死にそうになっている三国の、控えめに差し出された尻たぶをぐっと掴む。慎ましく窄んでいるそこはしばらく行為をしていないせいで慣らすまでに多少の時間がかかりそうだった。
 先ほどと同様にソープを泡立て、指で入口を揉み解す。一度、射精が眼前に迫る焦燥感に駆られた体はつい力任せにそこを暴いてしまいそうになるが、必死に自制した。
 三国も振り向くことはないが浴槽を掴む手に力が入り、背中もしきりに繰り返される呼吸で上下している。耐えているのだ。羞恥にも快感にも。
「痛かったら言ってください、久しぶりだから……」
 そっと泡まみれの指を、爪先だけ潜り込ませる。三国の肩が跳ねて体全体がこわばったのを感じた。しかし、痛いという言葉はない。それならば良いと判断した神童は、一度抜いて再度泡をたっぷり塗りつけるとまた指をさらに奥まで潜り込ませた。
「ッあ……ぅ、」
 喉奥から絞り出すような声が聞こえたがそれも明確な痛いという言葉ではない。聞かなかったことにしてただひたすら神童はそこを解すことに専念した。指一本がスムーズに入るようになったら、さらにまた一本。予想通りにそこに至るまでにだいぶ時間はかかったが、それでも初めての時よりはずっとましだ。
「これからは、こんな風になる前に俺がまた解しますね」
「なっ……、どういう意味、だ、それ……」
「どういう意味もなにも、そのままの意味です」
 ようやく三本の指が入る頃になって、そういえばと思い出したように神童は指の腹で三国の快感の塊を探った。少しもしないうちに見つけてそこをも刺激する。耐えるような呼吸を繰り返していた三国も、脳髄に突き抜ける久々の快感に体を折った。
「んんッ……! ぅ、あっ……」
「もっともっと可愛がってあげたいけど、俺もそろそろ限界です」
 いれてもいいですか、と、そこに勃起したものを擦りつけながら三国の背中に覆いかぶさり耳元に唇を寄せて囁く。神童の性器と三国の入口が泡でぬるぬる滑り、それだけでもぞわぞわとした快感を生んだ。
 だが、挿入し揺さぶる快感には遠く及ばない。もっと激しく突き動かされる快感が欲しい。ゆるやかな刺激はもう十分だ。
 三国は神童のほうを首だけで振り向き、ああと答えた。
「ッあ、あぁ……」
 指よりもずっとある質量が三国の体内を犯していく。異物がありえない場所に入り込んでいく感覚は何度経験しても慣れるものではないが、久しぶりとあっては猶更。それでもゆっくりと満たされていく充実感もあって、嫌な気分はしなかった。
 神童もまた、以前よりもきつく収縮する狭い器官に性器をねじ込んでいくことに少しの痛みと、それ以上の喜びを感じていた。三国の体内に入り込んでいるというただそれだけの事実だけでもすぐにも射精してしまいそうだった。
「ごめんなさい、我慢ができない」
「いッ! っふ、あッ……!」
 すべてを挿入し終えるや否や、すぐに腰を引いてはまた打ち付ける。ぱちゅ、と泡なのか水なのか、何かの音がそこからひっきりなしに漏れては浴室に反響した。
 音の反響に三国も気づいているのだろう。声を必死に抑えようとしているのは明らかで、だがそれでも漏れ出てしまう声を手のひらで押し込めようと必死だった。
「苦しい、ですか……っ? 三国さんっ……」
 浴槽を必死に掴んでいる手に手を添えて背中に話しかけると、三国はゆるく首を振って応えた。もう片方の手を三国の性器に添えて扱くとさらに大きく首を振った。
「イきそうなんですか? 気持ちいい、ですか?」
 表情が見えない後ろからの行為は三国の考えていることが読み取りにくい。声が抑えられては余計に。変態的だとは思わず神童が必死にそう問いかけると、ようやく三国の首が頷いた。
「よかった、俺も気持ちいい、です」
 腰を揺らしながら、だらしなく開かれた口の端から唾液が三国の背中にたらりと落ちる。それを追って神童は三国の背中をべろりと舐め、キスを落とした。
「っ! し、ん……っ!」
「うあっ……!」
 一瞬何が起こったか分からなかったが、目の前が真っ白になった後、ずるずると浴槽を掴んでいた三国の手が落ちていくのが見えた。そして三国の性器を掴んでいた手には生暖かいものが付着していて、自分もまた古志がとてつもなく重い。
 二人して射精したのだとようやく理解して、神童はずるりと三国の体内から性器を抜いた。床に倒れこみそうな三国の肩を掴んで意識を確認する。
「生きてますか? のぼせてませんか? 三国さん?」
「……生きては、いるよ……」
「よかった……」
 ひどく疲弊した様子の三国の体をざっとぬるま湯で洗い流す。水を浴室の壁にかけて、いつのまにか息がつまりそうなほどたちこめていた湯気を払うと三国も落ち着いたのかはあと息を吐いていた。
「熱くて苦しくて死ぬかと思った」
「それは、その、すみません」
 落ち着けば冗談を言えるほどにすぐに回復した三国に笑って、二人はようやく、本来の意味で「一緒に風呂に入る」ことにしたのだった。



「そういえば、トリックオアトリートだが」
 もうまったく意味を成さなくなったその言葉を三国が再び持ちかけた。二人の体からは湯気がもうもうと上がり、風呂上りのさっぱりした顔をしていた。
 濡れた髪の毛を借りたタオルでがしがしと拭きながら神童は首をかしげた。
「はい、それが……?」
「せっかくだし、トリートのほうも貰ってくれ。もともと食後に出すつもりだったんだ」
 冷蔵庫を開けて、先ほども言っていたプリンを取り出した。だがいつもよりも少し色味がオレンジがかっている気がする。
「かぼちゃが余ったから、かぼちゃプリンだ。これもハロウィンっぽくていいだろ」
「わ……、ありがとうございます! いただきます」
 何よりもかぼちゃの甘みが神童の舌を蕩かし、幸せに舌鼓を打った。


***

2012.10.31

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