▽ ひたすら暴力
▽ 救いはない‥と思う


















 


「‥っ‥かはっ‥」

力任せに壁に叩きつけられ、痛みに視界が歪む

これで何度目だろう

何度も叩きつけられた背中はもう麻痺していて。

殴られたあちこちがじんじんと痛みを増しながら徐々に熱を持つ

こんなことをするのは、本来俺の愛するひと

しかし今は恐怖に怯え、顔もみたくない

痛めつけられた身体は、立て膝をつくこともできずに無様に横たわったまま

そんな俺を見ても弱まることのない馬鹿力は、今度は足先に込められ一気に腹へと叩き込まれる

「んぐっ‥う‥」

ドス、ドス、と
サンドバッグを殴るような音が路地裏にこだまし、何度も何度も蹴られる

「‥仕事先だろーが何だか知んねぇが、他の男に触られてんじゃねぇ‥よ!」

「‥ぐ‥はっ」

最後の一発と言わんばかりの蹴りを入れると男は舌打ちし、その場にしゃがみこんだ

「なぁ、臨也よぉ‥?」

ぎりっと奥歯を噛み締めながら相手を強く睨み付けてやった

が、既に限界に近い為かその瞳に力なんてちっともなくて無駄な抵抗そのものだった

「だ‥から、握手‥とかし、か‥してない‥って‥」

「へらへら笑ってやがったろ」

取引先に愛憎よくするのは社会人の基本だろ

そう言ってやりたかったがこれ以上怒らせては命がいくらあっても足りない

「そんな手前にはお仕置きが必要だよなァ?飼い猫はちゃんとしつけねぇと」

「さんざ‥ん、殴った‥だろ‥っ‥」

「そーだな‥。だから今回はこれだけで勘弁してやるよ」

怒りに染まった表情が楽しげに歪み、とたんに背筋が冷える

突然持ち上げられた右腕

その行為に更に青ざめる

まさか、
まさかまさかまさか

ぐっと力を込められ、骨が軋みだす

「い、いや‥やだよ‥やだよシズちゃん‥ねぇ‥」

震える声でやめて、やめて、と懇願するが相手は楽しげに顔を歪ませ力を増してく

「やめて!シズちゃん‥やめて‥やめてってば‥!」

―――グキ

「ぐっ‥ああああぁああぁあ‥!!」

同時に鈍い音と甲高い悲鳴が空気を騒がしく震わせた

生理的な涙が流れ、目を、頬を、顔を濡らしていく

「痛い‥痛い痛い痛い‥っく‥痛い‥よぅ‥」

高いプライドを簡単に捨て、痛い痛いと鼻を啜り泣き続ける

パンパンに腫れ上がった右腕をもう片方の手で抑えて

無惨に折られた右腕は、取引相手と握手を交わした腕だった

握手ごときで折られてしまうなんて‥、

「これ位で済ませてやるよ。感謝しろ」

男の声にビクッと肩が上がる

怖い

初めて抱いた感情

自分が嫌になる程の屈辱感

もういっそ死んでしまいたい

ここで殺してと懇願したとしても、叶うことはないだろう

「‥臨也。これで分かっただろ?」

頭部から出た血で固まった髪を掴み上げ、無理矢理視線を合わせられる

「‥返事がねぇなぁ?またお仕置きが必要か‥?」

瞬間、必死に首を縦に

「わかっ‥た‥!もうしない‥しないから‥もう、もう‥」

許してとばかりに振り続ける

もう嫌だ、許して

意識を失わないようにするだけで精一杯なのに。

これ以上は意識を失いかけない

相手からの返事はなく、また殴られるのかと反射的に目を瞑ってしまう

「‥っ」

が、何も起きない

恐る恐る目を開けば‥

そこには‥笑顔

無邪気で明るい笑顔があった

「よし。偉いなっ」

掴み上げていた手から髪を解放し、優しく撫でられる

さっきまでの怒りで染まっていたシズちゃんはもう消えていて、何事もなかったかのようだ

「え‥シ、シズ‥ちゃん‥?」

血まみれで、涙で顔をぐちゃぐちゃにし、大きく目を見開いている俺とは反対に、シズちゃんは笑顔を向けながら頭を撫でてくれている

な‥んだ?
何が起こったんだ‥?

ぐるぐると回る思考を遮るように、俺を引き寄せ抱きしめる

「臨也、愛してる」


この時、俺の中から沸き上がってきたものは


恐怖か、

怯えか、

驚きなのか




それとも‥――。





嫉妬に狂い、歪む静雄と泣きわめく臨君が書きたかった結果がこれか‥!orz




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