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 例えるならボクは、ペンケースのなかに転がる割れた消しゴムの欠片みたいな奴だ。普段はその存在に気付かれもしない、邪魔ではないが決して必要でもない、そんな人間。
 時折消しゴムが見当たらないことがあって、そんなとき人々はペンケースの隅にたたずむボクを指差してこう言う。ああ、あいつでいいじゃん。
 思えば、14年間の人生のなかで「いなくなったら困る誰か」であった記憶がひとつもない。
 しかしながらこれは、ボクがボクとして生まれてきたときから決まっていたことなのだ。それといった個性もない奴が落ち着くのは、「いなくなっても大して変化のないクラスメート」というポジション。
 諦めたのではない。身の程をわきまえているだけ。自分の能力以上の印象を他人に与えたがる人間は叩かれる。
 だからボクは、今日もこうして教室の隅で誰にも気付かれず呼吸をする。鉛筆にもボールペンにもなれない、割れた消しゴムの欠片みたいに。
 そんなボクが毎日欠かさず学校に来ているのには、出席日数を満たす以外の理由がある。隣のクラスに在籍する学年有数の美少女、芳野麗子を見るためだ。
 すらりと伸びた脚に艶のある黒い髪、大人びた顔立ちと発育の良い体が他の生徒とは明らかに異なっている。その美しさと決して気取らない態度から、男女関係なく彼女のファンは多いのだ。
 友達とまで言わずともせめて顔見知りになれたら……。そんなハードルの低い願いさえボクは叶えられない。
 授業を開始するチャイムが校内に鳴り響き、騒いでいたクラスメートが慌ただしく着席する。隣のクラスはどうやらこれから体育の授業らしい。
 芳野麗子のTシャツの上からでも伺えるはっきりとした胸のラインや、ハーフパンツから覗く白い太股を食い入るように見つめながら、ボクは周りに悟られぬよう生唾を飲み込んだ。




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