「ずっと好きだった。お前がハルを好きなのよりももっと、俺の方がお前のことが好きだった」

相変わらず彼の腕に閉じ込められている僕には、その表情は見えなかったけれど、胸が焼き切れそうな声色が語っている気がした。

「嘘……」

口を衝いて出たのは本音だった。
これまでの行いは全部、“好き”とはかけ離れたネガティブなものでしかなかったからだ。

――有り得ない

そう、僕の中では最も有り得ない事だ。

「嘘じゃない。けど、そう思われても仕方がないと思ってる。とにかく必死だったんだ、俺は。本当は少しずつ歩み寄って、少しずつお互いを知って、大切にしたかった」

彼の語調は、心なしか揺れていた。

「まだ入学して間もない頃だった。最初は、日誌の文字が気になった。何か可愛い字を書く男だなって、どんなやつだろうって。それで大宮っていう人物を認識して、それからはふとした瞬間目で追ってた。お前はいつも本を読んでいるか、花壇に水遣ってるかだったけど。そしたらどんどんお前のことを考えるようになっていって、クラスの奴と話してるのを見ただけで胸が焼けるようだった。お前を好きになったんだと認めざるを得なかった」

それは僕が堀江くんを想って苦しんでいた様子を聞かされているような錯覚だった。

「でも気付けば、お前はハルと仲良くなってて。最初はハルを牽制したけど駄目で、だからお前をちょっと脅せば離れていくと思ったんだ。それなのに、離れるどころかどんどんお前達は距離を縮めていった。嫉妬で頭が狂いそうになった。その憂さを晴らすようにお前への脅しがエスカレートしていった。周りも止めるどころか煽るし、俺自身止められなかった」

島本くんは僕が堀江くんと分不相応だから詰ってきたんじゃない、僕と堀江くんの仲を妬んでた?
仮にそうだとしても、普通は好きな相手ではなくその相手と仲の良い人物にいきそうなのに、思い通りに行かず好きな相手に当り散らすなんて。

(それって、なんか――)

「小学生、みたい」
「……そうだな」

僕の呟きに島本くんも同意した。
すると、それまで無意識に緊張状態だった体から力が抜け、不本意ながら全身を島本くんの腕に預ける形になった。

「お前が……ハルの机にキスしてたのを見た時、俺のなけなしの理性は吹っ飛んだ。友人ですら許せなかったのに、ハルに恋愛感情を抱いてるなんてその時はお前すら憎く思えた」
「だから、あんなことしたの?」
「あれは体だけでもと思ったんだ。ハルのことが好きだって知ったと同時に俺は一生勝てないと悟った。あいつ程出来た奴はいないから。なら、体だけでも俺の物にって」
「最低、だよ」
「ああ、最低だな。もっと最低なこと言うと、お前を抱いたことは後悔してない」

きっぱり言い切られ、息を呑んでしまう。
しかし、元々彼に対して誠実なイメージはなかったので、素直に聞き入られた。
思えば体の関係とは不思議だ。
心では拒絶している人でも、一度体を繋いでしまえば触れ合うことに抵抗が薄くなっていく。
今なら緩んだ抱擁から容易に抜け出せるはずなのに、こうして彼の肩口に頭を乗せている。
それは島本くんの体温が暖かいと知っているからだ。

(僕も最低、だ)

「お前をクラスで孤立させたことも後悔してなかった。と言うよりかは、俺だけの物になった気がしていい気分だった。ハルに約束すっぽかされたこともからかったりして調子に乗ってた。本当に自分勝手でお前をあそこまで追い込んでるなんて思わなくて、馬鹿だった」

それは先程のぞんざいな謝罪よりも真摯に聞こえた。
いつの間にか彼の話は疑うことなくありのまま受け止めている自分がいた。

「それから考えた。俺がお前に出来ること全部。まずは謝りたかった。だけど、俺には謝る資格すらないと思えた。それで、初めにハルと会わせてやろうと思いついてあの公園のベンチでお前が来るのを待ってた」
「待ってたって……」

そんな連絡はきていない、と記憶を手繰り寄せて思い出す。
携帯電話は怖くて電源を切ったまま机にしまっていた。
彼はそれを知らず僕にメールを送ったのだろうか。

「連絡はしていない。できなかった。しちゃいけないと、そう思ったから。だから、お前が来るかもしれないあの公園で待つことしかできなかった」
「それ、っていつ、から?」
「お前が休み出して5日目くらいから」

つまり彼は一週間以上あそこで僕を待っていたということになる。
いつ何時来るかもわからない相手をずっと。

「何で、そこまでして僕と堀江くんを会わせてくれたの?」
「俺があの約束を破らせたようなもんだったから」
「どういうこと?」
あの約束とは僕が堀江くんをずっと待っていたあの日のことだろう。

「ハルから彼女のことで相談を受けたんだ。その時にあいつが『大宮にも相談した』ってぽろっと零した。それで約束のことも聞き出した。俺は絶対にハルを公園に行かせないように何とか彼女との仲を修復するよう説得したんだ」

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