「…っ……ん…っ」

「くっ…まだ、鳴かんのか…強情だな」

ほの暗い部屋には、ぐちゅぐちゅ、と卑猥な粘着質な音だけがする。
天蓋のついた重々しい、豪華なベッドの上では、生白い華奢な足が揺れ、対照的に浅黒い筋肉質な体がそれを押し潰す勢いで重なっていた。

「…っ………っ!」

「はっ、イけ、ほらっ」

ずん、と深く最奥を突かれると、貫かれていた少年は、足が強張らせた後、くたり、と力尽きた。

少年、律がこんな状況になった要因は、遡ること2ヶ月ほど前にある。





高石律は、垢抜けない地味な高校生だった。
勉強も運動も平均よりちょっと下、友人も多くないけれど、いないわけではない。
至極普通の男子高校生であった。
少し特殊と言えるのは、通っている学校が男子校で、同性愛が蔓延しているということぐらいだろうか。

それは、忘れ物を取りに教室に戻ろうと階段を上っている時だった。
踊り場で何やら、争っている声が聞こえたと思った瞬間、律に向かって人が落ちてきた。

咄嗟に避けることも受け止めることもできず、律はその人諸共、階段から転げ落ちた。
そして次に目覚めた時、神殿のような場所にいた。

「え…え…?」

夢でも見ているのか、とも思ったがそれにしてはやけに五感がリアルに働いていた。
ふ、と傍らからんー、と人の声が聞こえ、慌ててそちらに目を遣ると、金髪で律と同じ制服を着た男が横たわっていた。
その近くには、見覚えのある鳥の巣のようなもじゃもじゃの鬘と、分厚い眼鏡も転がっていた。

(え…ま、まさか…この人って…)

それは件の転入生であった。
噂に疎い律でも、耳にしたことがあった。
何でも学園の人気者に手を出しただとか、誰々に暴力を振るっただとか、あまり穏やかではない内容ばかりだが。

その行動に反して見目は、櫛を通したことがないような髪に、黒縁眼鏡、まさにそのアイテムがある。

(か、鬘だったんだ…)

「んん〜…ふぁ、あ…あれ?どこだ?ここ」

目が覚めたらしい転入生は、暫く辺りを見回していた。
長い睫をしばたかせ、アクアマリンの瞳がくりくり動き、金の髪がさらりと揺れる。
その容貌たるや、まるで天使で、律はついつい見惚れてしまった。

しかし、律を見つけるとものすごい形相で、迫ってきた。

「お前、誰だ!ここどこだよ!」

「えっ…ぼ、僕?」

まるで諸悪の根源かのように責め立てられた律はパニック状態になり、うろたえてばかりで、転入生はより一層ヒートアップしていった。

「おお、神子様だ」
「神子様…なんと!」
「2人いるぞ…一体どういうことだ」

そこに第三者の声が響いたかと思えば、いつの間にか十数人の異国人に囲まれていた。
皆、白いローブを羽織り、ゲームに出てくる神官さながらの格好をしていた。
髪色は金、赤、紫と、派手ではあったが、如何せん顔の作りも、見劣りせぬ美形であり、圧倒的な迫力があった。

律は、謎の集団に包囲され萎縮してしまったが、転入生は打って変わって目を輝かせると、一際目立つ金髪碧眼の男に食いついた。

「なあ!お前何て名前なんだ!?俺は蛯原コウ(えびはらこう)!コウって呼んでいいぞ!」

訝しげに転入生を見ていた金髪の男は、ふっと口角を上げ、表情を崩した。

「俺にそんな無礼な口をきくとは…気に入った。コウ、と言ったか。俺の神子になれ」

ミコ?と、転入生は頭を傾げる中、取り巻き達はざわついた。

―早計すぎます
―そちらは偽者かもしれません
―今一度お考え直しを

金髪の男を諭しているようではあったが、当人は聞く耳を持とうとしなかった。

「うるさい!この国の王は俺だ。俺のやり方が気に入らなければ出て行くがよい」

それを聞いて、水を打ったように静まり返った。

「お前、王様なのか!すごいな!」

場にそぐわない溌剌とした声だけが、今だ混乱を極めている律の脳に響いた。





その日から、律は何の説明もなく、ただ埃っぽい小部屋に閉じ込められた。
食事は3食きちんと用意されるが、部屋からは一歩も出ることを許されず、格子のない牢屋も同然だった。
日がな一日、することもなく、窓から外を眺めているくらいしかできなかった。

硝子越しには、華麗な庭が見え、時々転入生もといコウとあの金髪の男が楽しげに歩いていることがあった。

律はあまり良くない頭で色々推測した。
ここはどこかの世界にある国の城で、金髪の男は国王、自分達は恐らくその王に呼ばれたか何かで異世界に飛ばされたのではないか、と結論付けた。

(蛯原くんか…僕がミコってやつなのかな?)

どちらにせよ、自分はきっと該当者ではないだろうと、律はため息をついた。



律は昔から気の弱い性格だった。
小さい頃は2つ上の兄におもちゃを横取りされても、何も言えずぐずぐず泣くだけだった。
小学校の時は、クラスのガキ大将なんかには逆らえなかったし、中学に上がって人気のない委員を押しつけられた時も、文句の1つも言えずにいた。

そんな律だから、この現状に異を唱えることは到底無理な話だった。




>>

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -