それから、俺は平野の身体を飢えた獣のように貪った。
学校でも休日でも、バイトで疲れていようとも関係なく呼び出した。
あいつはそんな俺を余裕そうに受け止め、事が終わればさっさと帰っていった。
何度、その背中を引き止めようとしたか、わからない。
けれどあいつの心はここにない、とわかったし、何であいつを気にしなきゃならないんだ、というプライドがそうさせなかった。



俺は、俺らしくない自分にイライラしていた。
全ての要因は平野だ、とわかっていた。
だから、あいつに冷たくし、必要以上に関わらないようにしていた。
なら、何故俺は平野を抱くことが止めれない?
倒れた平野を看病したりするんだ?
中学の時に揉めた連中にあいつが連れ去られたと知った時、廃工場で輪姦されそうになっているのを見た時、何故俺は冷静でいられなくなった?
わからない。
ただ、ひとつだけわかったことがある。

「平野、もう俺に関わるな」

あいつは俺といると傷つくことしかない。
もう解放してやるべきなんだ、と。



それから俺の生活は元に戻った。
飯を食って、学校に通って、バイトに行く。
毎日が淡々と過ぎていく。
ただ、俺の心は滅茶苦茶だった。
あいつの、平野のことが頭から離れない。
声も、身体も、仕草も全部覚えている。
とっくに気付いていた。
認めたくなかっただけだ。
そう、俺は平野のことが好きなんだ。

季節は秋に入り、そろそろ冬支度が始まる頃。
バイト帰りにスーパーに寄った。
最初は恥ずかしかったが、高校生の一人暮らしにそんなことを言っていられる余裕はない。
ふ、と特売品にココアが置かれていた。
そう言えば、あいつ学校でもたまにココアを飲んでいたよな。
片思いの女子中学生じゃあるまいし、と思いながらもそれを買ってしまった。
甘い物は得意ではないが、たまには飲んでみるか。

買い物も終わり、アパートに帰る。
部屋の前に誰かが座り込んでいた。
まさか、そんなはずはない。
でも見間違えるはずもない。
だってあれは、

「平野?」

俺が焦がれてやまない人だったから。



さっき買った、ココアを平野に渡すと一口飲んだ。
それからは動きもせず、何も言わなかった。
その間、俺はありとあらゆる嫌な展開を想像してしまって、流石に音を上げた。

「…何?」
「…えっ?」
「何か話があるんじゃないのかよ」
「あっあ、う、ん」

そこから、一呼吸置いて、平野が話し出した。
入学式に庇ってくれたのが嬉しかっただとか、看病されて幸せだったとか、俺のことが好きだとか。
それを聞いて俺はこれは、夢なんじゃないかと思った。
だって、全部俺の都合の良いように聞こえる。
けれど真剣に俺を見つめてくる平野を、耐え切れず抱き締めたことで、その温もりを感じたことで夢じゃないんだ、とわかった。



「俺も好きだ」

何も堪える物がなくなり、素直に自分の気持ちを吐露した。
自分勝手な言い訳かもしれないが俺の生い立ちを話して、何を感じたのかどう思っているのか全部話した。
あいつはそれをちゃんと聞いてくれた。
たまらず、キスをすると、平野もキスを返してくれ、ありがとうと言われた。
今度は深く唇を交わして、何度も何度もキスした。
危うく、押し倒しそうになったが、これまでのことを反省し、自粛した。
その日は一緒に眠るだけだったが、それだけでも俺の心は十分に満たされた。



朝、目が覚めればきっと隣には陽がいて、俺に笑顔をくれるはずだから。

END.

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