会いたい時は全然会えない癖に、会いたくない時程行き当たりバッタリに遭遇するこれは一体なんなんだろう。こんなにも回数が多いと神様からのイジメかとすら思ってしまう。それもおじちゃんだけならまだしも、彼の隣にはいつも例の女がいた。

ふわふわと落ち着きのない、いかにもアホっぽそうな声色で「エルくんこの子だぁれ?」とか、思い出すだけでイライラするわ。何がこの子だぁれ〜だ。その時のおじちゃんの返答も気に食わない。「ん?友達の娘」それだけ!?いや確かに私はおじちゃんの友達の娘だけど、私が小さい頃からずーっと一緒に遊んだり散歩に行ったりお喋りしたりして過ごしてきたのに、随分と素っ気ないじゃない。もうおじちゃんなんて嫌いだ、大嫌い。


「…あの、」

「なにっ」

「最近機嫌悪いですね、何かあったんですか?」

「別にお父さんには関係ないもん!」


はぁ。お父さんが溜め息をついたその隣で、お母さんが難しい年頃なのよと編み物の手を進めながら言った。うちの夫婦は相変わらずの仲良しだ。母は寒くなる季節に合わせて父にマフラーを編んでいるらしい。そして今年も、もう直ぐ我が家で恒例となりつつあるあの日がやってくる。今年はどうしようか、もうおじちゃんの家には行けないな。今年こそは本当にドラえもんおじちゃんの所へ転がり込もうか、むむむ。

特に予定も決まらず迎えてしまった当日、取り敢えず荷物をまとめ街をフラフラ歩いていると、また最悪な事に出会ってしまったその人物にあからさまに顔を顰めると「会うなりなんだよその顔はー」と頭をぐりぐりされ悲鳴を上げた。


「やーだぁ、おじちゃん私に気安く触らないで」

「うっわ辛辣!なんだよー、最近随分と素っ気ないじゃないの、めっきり遊びにも来なくなったし。つか飯!俺ずっと待ってたのに!」


その言葉にまたイラっとさせられる。ご飯ならもう随分前にやろうとしたわ!それを潰したのはおじちゃんの方じゃないか。それに彼女がいるなら私のご飯も必要ないだろうに。

けど一つだけ意外だと思ったのは、おじちゃんが私の手料理を待っていたらしいということだ。あの時は確かにそのうちなとかはっきりしない事言ってたよね?まったく、おじちゃんの心理が分からない。そんな期待を持たせるようなこと言わないでよ、バカ。


「あーあ、お前がそんな態度でおじちゃん、寂しいなあ」

「あっそう、寂しいなら彼女に慰めて貰えば」

「彼女なんていねーよ、もうとっくに別れたっつの」

「えっ!」


つい嬉そうな顔をしてしまった。いや事実、浮きだつ心と上がるテンションからして私はまだこの男に未練がタラタラらしい。困ったな、とっくに吹っ切れたと思ってたのに。あ、いや、今はそれよりも大事なことがあってだね、


「なんでなんで?どっちから振ったの?」

「おーおー、急に食いつきよくなりやがって。そういうのに興味を引くのはまだはえーんじゃねぇのお嬢さん」

「そんな事ないよ、私もう中三だよ?子供じゃないんだから」

「あー、もう中三かぁ。お前の父さんが最近娘の態度が冷たいって嘆いてたぞ」

「今お父さん関係ないでしょ。話逸らさない。ね、なんで?」

「…性格の不一致だよ。あいつふわふわして見えるけど、束縛は強いわ怒ると怖いわ。やっぱ見た目じゃないな、うん」

「え、おじちゃんその人のこと見た目で選んでたんだ」

「そういうお前だって見た目第一だろ、おじちゃん知ってるんだからな」

「知ってるって何をよー」

「ははは。まぁこんなとこで立ち話もなんだし、来いよ」


今日は買い物行ってきたからな、俺様がご馳走してやんよ。にぃと子供みたいに笑うおじちゃんに胸がきゅっとした。あ、そういえば、おじちゃんとちゃんと話したの久しぶりかもしれない。うん。頷いて、彼の隣に並ぶと心臓の音が速くなる。


「中三っていうと、もうじき受験か」

「うん、そうだよ」

「まぁお前ならどこでも余裕だろ。王ドラに似て優秀だしなぁ」

「えへへ、頭の出来は父譲りですから」

「だな。でもお前の母さんも実は勉強出来る方だったんだぜ?知らなかっただろ」

「え?そうなの?うっそぉ、そんなの聞いたことないけど」

「あいつも普段はぽわぽわ天然入ってたけど、勉強だけは出来てたな。難しい漢字書けたり読めたりはする癖に、火種をかしゅって読んだりするから皆にはアホの子って言われてた」


おじちゃんの青春の中には、きっとお父さんと、お母さんと、ドラえもんおじちゃんやキッドおじちゃん、皆がいる。おじちゃんはたまにこうして私に青春のお話、特にうちの父母のことを懐かしそうに聞かせてくれるけど、私はその度に羨ましくてしょうがないの。私も一緒に学生時代を過ごせたなら、きっと凄く楽しかったんだろうなぁ。おじちゃんに堂々と恋をして、友達に恋愛相談したりして。誰かに取られることなく、おじちゃんを私の物に出来たのかも、なんてね。

じっとおじちゃんを見つめる私の視線に気が付いて、おじちゃんが首を擡げる。


「ん、どした?」

「いや、おじちゃんもすっかりおじいさんだなって思って」

「…はあっ!?」

「だっておじちゃん、昔の話ばっかり。それは年寄りのすることなんですよ?」

「ぅ、…それもそうだな、うん。はいやめやめ!俺もう金輪際学生時代の話はしない!これからは若者らしく明るい未来の話をするぜ」

「若者って」

「笑ってんじゃねぇよ」


こつん、小突かれる。もう何もかもが楽しかった。久しぶりに、恋というものを思い出した気がした。おじちゃんとお喋りして、隣を歩いて、笑いあって。あのねあのね、やっぱり私、おじちゃんの事が大好きみたい。


「あれ、おじちゃん家綺麗になってる」

「ふっふっふ、だろー?模様替えしたんだよ」


正直少し、ほんの少しだけ、おじちゃん家に入るのが不安だったのは内緒の話。あの時の光景が脳裏をチラつくものの部屋の雰囲気が変わったお陰で思った程ではない。新しく買ったらしい、けど中古で少しボロいソファに掛けるとおじちゃんがお洒落にも紅茶を淹れてくれた。


「ありがとー」

「おう。お隣さんから紅茶いっぱい貰っちゃってさ、俺一人じゃ飲み切れないから土産に持って帰れよ」


確かに、テーブルの上に幾つか紅茶缶が積んであるのが伺える。あ、この銘柄お母さんが好きな奴だ。無意識に呟くと、おじちゃんが小さく声を立てて笑った。


「そっか、じゃあいっぱい持って帰んな」



(また片思い始めました)
(もしかすると私にもまだチャンスはあるんじゃないかって期待して)
(今度は誰にも取られたくなくて私なりにアプローチを重ねてみたけれど)

(おじちゃんにまた新しく彼女が出来たのは、それから三週間後の事だった)


20141122




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