今度わたしが料理作ってあげるから!そう言って、もうすぐ三ヶ月が経とうとしていた。ていうかあれ以来会うのも三ヶ月振りだから少しおじちゃんにイライラしてたりして。


「…おじちゃん、全然誘ってくれないんだもんなぁ」


昔は遠慮無しで毎日のようにおじちゃん宅へと遊びに行っていたものだが、中二にもなるとさすがに頻度は減るし行きづらくなる。わたしにも遠慮というものがあるのだ、せめておじちゃんから誘ってくれれば全然違うのだろうが、誘ってくれないのなら仕方ない。ここは自主的に攻めで行かなければ!

という訳で、今日は唐突ながらこの前の約束を果たすなんてのを名目におじちゃん宅へと行く事を決めたわけだけど、


「(…やっぱり突然訪問するのはよくないかな)」


とか考えると思い留まっちゃって中々足が進まない。学校帰り、いつもの制服で、買ったばかりのジャガイモとか玉ねぎとか、他にもいろいろ必要な食材がごろごろ入ってるスーパーの袋が重たくて持ち直した。


「…」


信号が赤になってしまったので仕方なく立ち止まりぼんやりおじちゃんの顔を思い浮かべる。おじちゃん、起きてるかな。ていうかお腹空いてなかったらどうしよう。ううん、そしたらお腹が空くまで一緒にいればいいんだよ。にやにや。緩む頬を制しながらもう一度買い物袋を一瞥する。作るものはもう決めてあった。お父さん直々に教えてもらった、わたしの得意な中華料理。

スキップなんて子供っぽいだろうか。でも買い物袋が重たくてしんどくなってきたのですぐに止めた。小さな頃から通い詰めていた道を行き、路地裏の近道を抜けて、入り口の前に立つ。そして押し慣れたチャイムを鳴らした。…わたしはもう一度押し慣れたそれを鳴らした、はずだったのに何故鳴らないし。二回目三回目と押しても音は鳴らないしおじちゃんも出て来ないしで自棄になって連打までしたが状況は変わらない。かんっぺきに壊れている。ため息混じり、まさか鍵は開いていないだろうと試しにノブを捻ったら、そのまさかだった。ゆっくり、なるべく音を立てずにドアを開けると中はぼおっと仄暗い。カーテンが閉められてる所為だろうか。もしかして、まだ寝てる…?


「(もー、鍵も掛けずに不用心だよー?)」


寝てるんなら尚更じゃないか。こってりおじちゃんに言い聞かせなくては。しかし静かにドアを閉め、中に入ろうとした所でわたしは気が付く。てっきり寝てるものだと思ったのだが、部屋の奥から呻き声に似た息遣いかいが聞こえるのだ。なんとなく嫌な予感がした。だってその声はおじちゃんの物ではなかったから。おもむろに靴を脱いだところで、わたしは見つけてしまう。玄関の隅、ちょこんと履き揃えられてる、女物のミュール。その瞬間血の気が引くというか、頭が真っ白になったっていうか、

とにかくグラグラする頭で息を潜めて廊下を進んでいくと居た。異様に盛り上がった布団と、ベッドの周りには脱ぎ散らかされた衣服が散乱している。玄関では気づかなかったけど、漏れるのは女のよがるような高い声。あぁ、そっかあ、あれは呻き声じゃなくて…


「っ…、」


その行為を知らない程、わたしも子供じゃなかった。今すぐ飛び出してしまいたい衝動をなんとか堪え、また音を立てないように気を付けながらそっとおじちゃんの家を出る。袋が、玉ねぎとかジャガイモとかが入った袋が、重くて堪らない。


「…きもちわるい」


吐きたい、気持ち悪い、吐きたい…っ。激しい嘔吐感に見舞われつつ取り敢えず歩き出した。自宅に向かって、今にも落としてしまいそうなその袋を抱えて。一層の事捨ててしまいたかったけど、お母さんによく食べ物は大事にしなさいと言われてきたのでそれは出来ない。生々しい。わたしの知らないおじちゃんと、知らない女。だれ。じわじわと滲み始めたそれに目が熱くなる。


「…、ばか、おじちゃんのっ、ばかぁ」


声が震えた。いつの間にか嘔吐感は無くなっていて、代わりに嗚咽が漏れて止まらなくなる。頬を伝う涙が風に晒されて寒い。これを俗に失恋というのだろうか。


「ふっ、うぅ〜!」


おじちゃんあのね、あぁいう事するなら、余計鍵閉めて欲しかった。そしたら諦めて帰ったのに。勝手に入ったわたしが悪いんだけど、こんな苦しい思い、まだしなくなかった。



(わたしじゃおじちゃんの隣にはいられない)
(いずれ知ることになるって分かってたけど)
(それがこんなにも早く来るとは思わなかったの)


20140216




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