晴れて両思いになったあの日から、あいつはより一層俺に真っ直ぐとした気持ちをぶつけるようになって来たように思う。目が合えばその度に好きだよとハニカムし、何をしていても俺の隣にちょこんと座る。不思議に思ってどうしたのかと聞けば、ゆるゆるとだらしなく頬を緩めて笑ってみせた。


「おじちゃんの隣に居たかっただけ」

「…」


可愛い過ぎやしないだろうか。あ、あっそうと少しどもり気味に返すとギュウだなんて俺の腕に抱き付いて甘えてくる。その様子が何だか猫みたいで、余計に愛らしくなった。

と、いう具体に、こうしてきちんとしたお付き合いがスタートした俺たちだが。彼女的にはこの関係が堂々と表沙汰になるのはまだ恥ずかしいらしくて。王ドラには当然言ってないし周りの奴らにも内緒にしているようだった。それは俺も同じで、特に言う事でも無いと思っているので今のところはひっそりこっそりと清い交際を続けているが、多分王ドラにはバレているんだろうなと察して苦笑いが溢れた。


「…?どうした?」


そうして仲良く手を繋ぎながら歩いていたのだが、不意にパッと手を離されたのを疑問に思い彼女の方を見やる。手どころか、一歩横にズレて距離を置かれたのにほんの少しだけ寂しくなったのは内緒だ。何気なく前方へと視線をやって納得。よう!元気良く手を振ったキッドに俺も軽く手を振り返す。やべ。いま手繋いでたの、見られたかな。頭のどこかでそんな事を考えながら、道の端っこで3人の談笑が始まる。


「お前…暫く見ない間に大人っぽくなったなぁ」

「えへへ、そう?」

「おう…率直にビックリした」


仮にも彼女。キッドに別に疚しい気持ちがあるとかじゃないのは百も承知だが、そうじろじろと見られるのはあまり気分のいい物ではない。そろそろ行くかと彼女の手を引こうとした前に、キッドが「そういえばお前が前に言ってたゲーム買ったんだけどさ、今からウチ来ないか?」とか言い出すのでついキッドを二度見した。コイツもコイツで目をキラキラにさせながら「いいのっ?」とか返してるし。いやいや良くないっ!いいのっ?じゃねーから!しかし内心でひっそりと慌てる俺に気付かず、話はトントン拍子に進んでいる…完全に置いてけぼり状態だ。


「(…落ち着け、あくまで平然を装うんだ)」


よし。一度冷静さを取り戻してから、じゃあ後で迎えに行くなと言うと途端に不安そうな顔を見せる。どうやら俺も一緒に行く物だと思っていたらしい。「え、おじちゃん行かないの…?」と言われ反応に困った。


「行かねーよ。俺ああいう系のゲーム興味ないし」


とか言いつつ、本当はゲームに盛り上がって会話に花を咲かす二人を見たくないからだったりして。自分の本音に自嘲しつつ、そ、そっかと渋々頷いた彼女の頭をポンと撫でる。


「また後でな」

「…うんっ」


なんて。本当は、おじちゃんが行かないなら私も行かないという言葉を期待していた。そんな自分に歯痒くなるし、俺も大概ゾッコンなんだなぁと気付かされてバツが悪くなる。


「キッド、間違っても手ぇ出すなんて事すんなよー?」


冗談混じり、けれどしっかりと釘は刺していくスタイルで。そう軽い調子でキッドの肩を叩いた、が…、


「俺をお前みたいなロリコンと一緒にすんな」

「…あぁ?」


割とガチトーンで返ってきたその言葉につい笑顔が引き攣った。まっ、真顔なのが余計に腹立つ…!「どういう意味だよ」疑問符なんて無いに等しい、俺も声のトーンを下げながらキッドへと詰め寄ると、「そのまんまの意味だろ」と冷静な言葉で返されて益々苛々を煽られる。そしてそのままマジで喧嘩になるっていう笑。いや笑とかつけてる場合じゃないんだけど…。胸ぐらの掴み合いを始めた俺たちの間に割って入って、ワタワタと仲介をするのは当然彼女しかいないという訳で。


「おおお、落ち着いて!エルマタおじちゃん!ストップ!キッドおじちゃんも…!エルマタおじちゃんはロリコンなんかじゃないもん…!」


必死にそう言う彼女にぐふっとなった。俺、討死…。いや、いいんだよ。キッドの言う通り、俺らじじぃからしたらお前は若いし、こんなちーっちゃい頃から面倒みて成長を見届けてきた訳だし…キッドからしたら俺はロリコンな上近親恋愛と近しい物も感じているのだろう。ドン引かれても仕方ないと思っている。だから止めてくれ。「エルマタおじちゃんに謝って!」とか、気持ちは嬉しいけど何か余計惨めになるから!いつの間にか彼女までもがキッドに噛み付く勢いで詰め寄っていたので焦った。何とか宥めつつ、もういいからと言えば不服そうな顔をされる。


「…!でもっ、」

「俺がロリコンなのは確かだ。キッドに非はない」

「…そんな事、」

「ほら、ゲームしに行くんだろ?ごめんな、楽しい雰囲気ぶち壊しにして。じゃ、俺後で迎えに行くから」


キッドの顔は最早見る事が出来なかった。ロリコン…その言葉がただひたすら胸に刺さってチクチクと痛む。まぁ、普通に考えたらそうだよなぁ。俺だってもしもの世界線でキッドとあいつが付き合いだしたって聞いたら、多分同じ反応するもん…。アイツが俺以外の奴とくっくつ未来なんて想像したくもないけど。はあぁ。大きなため息を零しつつ、俺は急速な不安と自信喪失に駆られて項垂れていた。







「ひっ、酷い、よぉ!おじちゃんはロリコンなんかじゃないし、わ、私からおじちゃんにアプローチしてたんだもん!おじちゃんは一ミリも悪くないもんっ!」

「分かった!俺が悪かった、な?だからもう泣くなってぇ」

「ひっぐ、もっ、はきょくとかに、なった、ら、どうするのぉ!そしたら、き、きっどおじちゃんの、所為なんだからねぇっ、」


エルマタおじちゃんを悪く言うキッドおじちゃんに腹が立って、その怒りが全部涙腺の方に回ってきたかと思うとボロボロに崩壊した。おじちゃんはロリコンなんかじゃない。少し歳が離れてるだけで、私の方からしつこくアプローチしていて好き全開だった訳だし。おじちゃんはただそれを受け入れてくれただけなのに…どうしてそんな言われようをしなくちゃいけないのか。嗚咽混じりにそう訴えるとキッドおじちゃんがオロオロとしながら謝り出す。だけど今更そんなの、何の意味も持たないもん。おじちゃん、ムッとしたような悔しそうな、すっごい複雑そうな顔してた。これで俺はロリコンだって思い詰めてしまって、やっぱり俺と一緒になるよりもお前にはもっと相応しい奴がいるとか言い出してしまったらどうするの。…あ、言いそう。あり得なくない未来にもっと思考回路が沈んでブルーになった。そうなったらいよいよ本気でキッドおじちゃんの所為だ。


「なー、悪かったって。娘同様に可愛がってきたお前に手を出したエルマタドーラがさぁ、許せなかったんだよ」

「…おじちゃんはそんな人じゃないもん。何回も何回もフラれて、漸く両思いになったんだもん。付き合い始めた今だって凄く大切にしてくれてるんだから…!」

「ふぅん?そっか。まぁ大切にされてるなら良いけどよぉ。王ドラパパにバレたらやべーんじゃねぇの?」

「…ヤベーどころじゃないよ。おじちゃんお父さんに殴られちゃう。だからこの話はコレで」


泣き腫らした顔で、人差し指をそっ、と唇に押し当てれば、キッドおじちゃんも真似して人差し指を口元に当てる。勘のいいお父さん。本当はもうとっくにバレているのかもしれないけど…。それでも今はまだバレていないフリを続けていたかった。何となく漂う秘密の関係が、僅かに甘酸っぱくて心地が良かったのかもしれない。あと、もしもの可能性の為にね…一応。お父さんなら本当に殴りかねない。私の娘に何するんですか!って。…そりゃあ、いつかはきちんとお父さんやお母さんに紹介する日が来るだろうけど、


「…今はまだヒッソリと、おじちゃんとの清い関係を続けていきたいの」


漸く泣き止みながらそう言ってみる。あっそう。とか、そう呟いたキッドおじちゃんは心底興味無さそうで。テレビの電源を入れながらお幸せにーと他人事のように呟いた。



20190910




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