1年って早い。あっという間だ。ついこの間春が来たと思って、かと思えば夏になって今年もあと半分だとか思ってたばかりなのに。今度はもう秋がやって来たというのだから驚きだ。朝は肌寒くて布団から出ずらくなってきて。制服も衣替えした私はクローゼットの一角へと大切にしまい込んでいたイヤーマッフルを取り出して耳に当てる。おじちゃん、もう長らく会ってないな。うーん。会いたいな、会えないかな。

いつしかおじちゃんに取ってもらった巨大ぬいぐるみをむぎゅう!と抱きしめてから家を出た。今日はなんだか早めに家を出てノロノロ歩きながら学校に行きたい気分で、公園に沢山赤や黄色の落ち葉が落ちてるのを眺めながら歩いていた。そしたら、前方の少し遠くに見慣れた大好きな後ろ姿。っえ、おじちゃん?

こんな朝早くにとかいう疑問はぶっ飛んで、反射的に私はその後を追いかけていた。弾む息と鼓動をなんとか押さえて、そっと忍び寄るなり「わっ!」とその人の両肩に手を置いて驚かせる。ビクビクと振り返るその表情に思わず笑ってしまった。


「おま、やめろよな、まじビビったー」

「えへへ、おじちゃん発見。どうしたの?こんな朝早くに」

「なんか、偶然早起きしたら優雅な朝飯が食いたくなってさぁ。外さみーけど出てきた」


そう、両ポケットに手を突っ込んだおじちゃんが言う。まじまじ私の前身を上から下までくまなく見つめたあと露骨に顔を顰めながらぎゅうと目を瞑るのが少しだけ可愛い。


「お前、寒くねーの?」

「まだ大丈夫レベル」

「膝真っ赤なんだけど。相変わらずスカート短けーし。父さんに言われたりしない?」

「言うけど、おじちゃん程煩くはない」

「…マジか」


おじちゃんもうお前の保護者みたいなもんだもんなぁ。イタズラっぽく笑ったおじちゃんに、私は胸の内側をほっこりチクチクさせながら苦笑する。嬉しいような、悲しいような。そんな複雑な気持ちが本音だったりする。私が産まれた時から今まで、ずっと私のそばで成長を見ていてくれたおじちゃん。小さい頃から面倒を見てくれたおじちゃんの事を、本当の家族のように感じた事だってある。でもきっとそれはおじちゃんも同じなんだよね。きっちりと引かれた線引き、保護者のライン。越える事はきっと出来ないって分かってるのに、私がおじちゃんに抱いてるのは結局家族愛に似た恋愛感情なのだ。


「…ねえ、おじちゃん」

「あー?」

「もうすぐいい夫婦の日だね」

「おー、そうだなぁ」

「…」


今年も、泊まりに行っていいですか。とは、なんとなく言いづらくて。そこで言葉を切ってしまう。怖くておじちゃんの顔を見るのもままらないでいると隣でおじちゃんが吹き出すように笑ったのでついつい視線を向けた。え、何故そこで笑う。


「随分としおらしいじゃん」

「へ?」

「お前、今までは開口一番で泊めて泊めてって煩かったのに」

「なっ、そんな事はないよっ?」

「少しは大人になったんだなぁ」

「…」


そう言われてしまうと余計に言い出しづらい。大人になったというか、この歳にもなると流石にモラルを意識してお泊りいえーいなんて騒ぎづらくなっただけなんだけど。どうやらおじちゃんの事を異性として見すぎてるのは私の方らしいと、気付いたところてどうにもならないので溜息をつきたくなってしまうのをなんとか堪えながら視線を地面に落とした。


「…でも本当は、私、」


おじちゃんとワイワイ騒げるあの日が、とてつもなく好きで楽しみにしてた。なんて、出そうになった本音をぐっと飲み込む。そんな私を見兼ねたようにおじちゃんがくしゃりと私の頭を撫でてそうだなぁと笑った。


「遊びに来るぐらいならいいんじゃね?」


ぱあっと自分でも分かるくらいあからさまに表情が明るくなる。「うんっ」大きく頷くと気分はもうルンルンで胸の内側ポカポカ温かくなって。なんだかんだ甘やかしてくれるおじちゃんは昔から変わらない。そんなおじちゃんが、私は…


「ねぇ、おじちゃん、…私」


おじちゃんの事…、


「あっ!」


おじちゃんが急に大きな声を出して空を仰いだ。雨だ。呟かれたおじちゃんの言葉と一緒にぽつり、頭上に落ちてきた雨粒にそういえば天気予報で傘マークついてたのに傘忘れたとかぼんやりした事を思う。


「ほら、急ぐぞ!」

「…うん」


おじちゃんがごく自然に、自分の着ていた上着を脱いで私の頭上に落とす。寒かったら着てろとか、どうしてそんなカッコよく笑うかな。その優しさがどうしようもなく胸に染みてつきんつきんと痛む。胸の奥がじわっとして、ついでに掴まれた腕が熱い。どうせ触れるなら手の平が良かったのに。だったら一層の事放して欲しい。そう思っても自分では振りほどけそうにないから、


「(嗚呼。恋って難しい)」


本当はおじちゃんももう、気付いてるのかもしれない。年々柔らかくなる私の態度に。無意識に向けてしまう甘い笑顔に。寧ろお父さんにもろバレてしまってるのだからおじちゃんも勘付いてるのは間違いないと思う。それでさっき私の台詞を敢えて切ったんでしょ。言わせねーよって?あーあ、傷ついちゃうなぁ。ね、おじちゃん。


好き、大好きなの。



(たとえ叶わない恋でも、この先ずっと苦しいままでも)
(それでも今は、おじちゃんの事が好き。ねえ、だから早く、おじちゃんも私の事見てよ)
(言葉に出来ない思いを胸の奥底に閉じ込めて)
(私はちらりとおじちゃんの横顔を一瞥したあと、軽く唇を噛んで手をきゅうと握りしめた)


20171112




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