結局、おじちゃんから貰ったイヤーマッフルが嬉しくてこの冬は毎日のようにつけて出掛けていた。お父さんは少し変に思ってたみたいだけど、だって温かいんだもんといえば納得してくれるから冬がちょっと好きになった。でももうすぐ、春が来る。ううん、本当はもうとっくに来ちゃったのかも。始業式が始まって私はまた一つ学年が上がって、イヤーマッフルが出来なくなるほど気温が上がった。また、春が来た。


「よぉ、久しぶり」

「…おじちゃん!」


前方からやって来てはヒラヒラと手を振ったおじちゃんに少しだけ驚く。予測不可能の状態で会うとちょっとだけ緊張してしまうみたいだ。ドキドキ高鳴る胸を誤魔化していると、おじちゃんがふはっと笑いながら指で私のイヤーマッフルを突っつく。


「お前、どんだけ寒がりさんなんだよ」

「なんか、毎日つけてたら習慣になっちゃって」

「其れ程気に入ったのか。なら贈った側としても嬉しい限りだな」


さり気なく私の隣に並んで歩き出すおじちゃんに、どこ行くのって訊ねたらゆうるり口角を緩めながら「ゲーセン」と笑った。


「もし良かったら放課後デートと洒落込みませんか?お嬢さん」


まさか、まさかまさか、おじちゃんからデートに誘われる日がやって来るなんて、思ってもいなかった。







「っし、なんか欲しいぬいぐるみとかあったら言えよ?おじちゃんがどれでも落としてやる」


ゲーセンに着くなり腕まくりをしておじちゃんが意気込むので、適当にめちゃくちゃでかいぬいぐるみを指差して「これ」と言ったら爆笑された。


「おま、それは無理だろ」

「だっておじちゃん、どれでもって言った」

「言ったけどさ。第一持って帰ってもお前の部屋が埋もれるだけだぞ?」

「…それもそうだけど」

「だろ?」

「じゃあ、ねえ…お菓子!お菓子の詰め合わせにしよ」


本当はぬいぐるみが良かったけど、これならおじちゃんと分け合えるし美味しいし、何より取りやすそうだ。と思って透明な壁にぺったり手を付いて覗き込むと今度はクスクス笑われる。食い意地はってんな。そんな意地悪を言うからつい睨みつけると、千円札を渡されて。


「これ、崩して来い」

「…」


ぱしられた。

しかも両替機の前にはそれなりに人が並んでいて大分時間が掛かってしまってソワソワする。おじちゃん大丈夫かな…。なんとなく嫌な予感がしつつ戻ってくると案の定、またおじちゃんは何処かへふらりと行ってしまったらしくもうお菓子UFOキャッチャーの前にはいなくなっていたので地団駄を踏む。


「っだああ!もーっおじちゃん!どこっ」


クリスマスの時もそうだったけど、なんでいつもフラフラどっか行っちゃうのあのおじちゃんは〜っ、


「あっ!いた、おじちゃん!」


片っ端から探し回って漸く見つけたおじちゃんにむすっとしながら近づくけど、おじちゃんは「おう」と私に見向きもしない。それどころかこれ持っとけ、とか言って何かを押し付けられる。なにこれ…さっき言ってた、お菓子?


「あっ、ちくしょ。惜しー」


おじちゃんが眉をひそめながら、今度は私の手から細かくなった小銭を受け取って早速投入口にコインを押し込んだ。そんな必死に何を落とそうとしてるのかと覗き込んで唖然とする。これは、さっき冗談で言ったでっかいぬいぐるみ…。しかもおじちゃんの操作が中々上手い。さっきから地道に格闘してたみたいで、ぬいぐるみがついに落とし口に…


「えーっ!すごいすごい!」

「だーろー?」

「やばい、おじちゃんがすっごくカッコ良く見えるー!」

「今更?俺様はいつでもかっこいーぜ」

「惚れるー!好きになってもいーい?」


結構心臓ドキドキだったのに、それはやめとけとかそこだけ苦笑いで返すから。


「…え?」


ついつい、固まってしまうのだ。こんなおじちゃんよりいい奴沢山いんだろ。なんて、酷いなぁ。冗談でもうんと笑ってはくれないんだ。おじちゃんは私に期待すら抱かせてくれないらしいので表情が曇る。


「ほら、大事にしろよ」

「…うん」


それでも今は、おじちゃんからの贈り物がこんなにも嬉しい。もらったぬいぐるみを強く抱きしめる。まるで自分の心を締め付けてるみたいで、胸の内側がきゅうと痛んだ。



(ちょっ、なんですかその馬鹿でかいぬいぐるみは!)
(可愛いでしょ。友達がゲーセンで取ってくれた)
(…その友達って、貴方に耳あてを送ったのと同じ人ですか)
(違うよ。お父さん勘ぐりすぎ)


20170415




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