おじちゃん、クリスマス暇?それとなく、軽い感じで、を意識して言ったけど内心バクバクで。怪訝そうに顔を顰めながらおう、と頷いたおじちゃんに私はなるべく自然な笑顔で続けた。


「デートしよ」


お前なぁ、こんなおっさんじゃなくてもっとクラスのイケメン誘えよ。と言われてしまったけど、めげずに「イケメンはとっくに売り切れだもん。ねぇ私をクリぼっちにさせる気っ」と言ってもおじちゃんは唸るだけ。いやぁ、でもなぁ、王ドラがなぁと渋るおじちゃんに、たまにはいいじゃないと適当に丸め込んで。駅前にね、すっごい大きなツリーが飾られてるの。イルミネーションだってあるのに、一人じゃ寂しいんだもん。と言って、漸くおじちゃんが承諾してくれた。驚き余って息を飲むと嬉しさがふつふつ込み上げてくる。


「えっへへぇ、やったー」


表情筋緩みまくりでついつい本音を漏らしてしまうと、おじちゃんに変な奴、そんなに嬉しいのかよと笑われる。もうめちゃくちゃ嬉しい、とは言えないから、クリぼっち回避が嬉しいんですぅと嘘をついたら少しだけ虚しくなったけど、デートが出来る喜びの方が大きくて私は手帳にこそっとデートの予定を書き込んだ。

少しでも私を意識してもらう為準備に気合いを入れたのは言うまでもなく。スカートは短すぎるとまた子供扱いされるから膝上くらいにしておいて、コートも落ち着いた色を選んでブーツも新しいのにして、くるくるになるまで髪を巻いたらいつもとは大分雰囲気が変わった。鏡の前で満足気に笑ってよしと呟く。

時計を見るとギリギリ遅刻で、慌てて玄関を出ようとすると案の定お父さんが小うるさく質問責めしてきたので終電までには帰るよー!と躱して。外は12月下旬の気温で寒かったけれど、これからおじちゃんに会えるのだと思うと不思議とポカポカ温かかった。



「おじちゃんっ!ごめんね、お待たせ」

「おーい、遅刻だぞー、って…」


くるりと振り向くなり、ぽかんと表情を固めたおじちゃんにめいいっぱいの笑顔を零してみる。ぱちぱちぎこちなく瞬きをして目を逸らすおじちゃんに少し、ううん、大分期待した。いつもと雰囲気の違う私にドキっまでは行かなくてもおおっと思ってさえくれれば上出来。


「随分気合い入ってんじゃん」

「クリスマスだからね!行こっ」


さり気なく腕とか組めちゃったら最高なんだろうけど。生憎そんな勇気は無かったし、こーら、と笑顔を混えて拒絶されるのが怖くて。結局少しだけ離れて隣を歩く。煌びやかに光るイルミネーションが綺麗だった。目的の大きなツリーの前について、クリスマスの雰囲気とツリーの迫力に私はただただ見惚れて固まってしまう。おっきなツリー。吐く息は真っ白で、キラキラに光る飾り付けが眩しくて、聞こえてくるクリスマスソングはロマンチックで。何より隣におじちゃんがいる事が一番、一番嬉しかった。


「ね、おじちゃ、…あれっ?」


綺麗だねっと言おうと思いふと隣を見るとおじちゃんがいない事に気付き慌てる。


「ええええっ嘘ぉ」


おじちゃん、どこ行ったの!周りをキョロキョロ見回すも人だらけですぐには見つけられない。不安と焦りからちょっとだけ涙目になりつつあっちこっちウロウロしていると、突然背後から二の腕を掴まれビクリとする。反射的に振り返ると、少し驚いたような顔をするおじちゃん。「おいおいどこ行くんだよ」とか言うので思わずムッとした。


「おじちゃんが!フラフラどっかに行ったりするから!」


どこ行ってたの、可愛い女の子でも見つけたんですか?はんっと一つ鼻で笑いながら言ってやる。やばい今のめっちゃお父さんぽかった、と自分でも痛感して何とも言えない気持ちになった。


「寒いんじゃねーかと思って」

「…!」

「でもお前ツリーに釘付けだったし」


ん、と私の前に出されたのはあったかいココア缶。お礼を言いながら受け取ろうとすると偶然手が触れて。お前!手あったけぇな、と不意にぎゅうと手を取られ心臓が跳ねた。


「なんだぁ、んじゃあココアいらねぇじゃん」

「いるよ。…おじちゃん、手、つめたい」

「さみーもん」


暖を取るためって分かってるけど、それでも重ねられたおじちゃんの手の平にどきんとする。これ以上手を握ってこないのはやっぱり、恋愛対象外だからなんだろう。だから私からぎゅうと握り締めた。こうすると相手はどきっとするらしい。何かで見た。でもおじちゃんは顔色一つ変えなくて、むしろ私の方が心臓ドキドキ煩くて。あ、やばい。顔、赤くなってるのばれちゃったのかもしれない。こら、離せと言うので胸の奥がちくりとする。


「ね、どきっとした?」

「…はい?」

「今度好きな人が出来たら試してみようと思って。おじちゃんをどきっとさせられたら確実じゃない?」

「俺実験台かよ。…んー、まぁ、70パーくらいで上手く行くんじゃね?相手の好感度によるが」

「…それって、少しはどきっとしてくれたって思っていいの?」

「すこーしだけな」

「…そっか」


顔がポカポカと温まりだす。おじちゃんにとって私は、相変わらず友達の娘。その位置付けは変わらないんだろうけど。少しでも私を女の子として意識して欲しいから。ほんの少しでもどきっとしてくれたんなら、ちょっとだけ前進、て思ってもいいよね。


「あ、そうだ、」

「え…っ?」


ぴとりと、なんの前触れもなくおじちゃんの手が私の頬と耳を撫ぜるのでびっくりしてしまった。お前はなんでこんなに体温高いんだよとおじちゃんが苦笑う。だけど私はドキドキしすぎて心臓痛くて、無駄に瞬きの繰り返し。


「でも耳は冷たいな。よし」

「へっ、あの、おじちゃん」


ガサガサとどこからか袋を出して、中から出てきたのはモコモコの耳当てで、クリスマスプレゼントな、と私の耳につけてくれたので思わず笑ってしまった。


「今時耳当て…」

「イヤーマッフルと言え」

「中々オシャレなイヤーマッフルですね」

「女子高生の好きそうなデザイン厳選したからな」

「どんなデザイン」

「冗談。お前の好みに合わせてきた」

「…さすが」


さすが、ずっと私の成長を見てきただけある。私の好きなデザインドンピシャで、おじちゃんから初めてのプレゼントで。純粋に嬉しい…


「ありがとう、おじちゃん。大切にするね」


耳当てに手を添えてそっと瞼を下ろす。喜びすぎ、送り主としては嬉しいけど。そう、おじちゃんが瞼の裏で小さく笑った。



(ただいま)
(お帰りなさい…今時耳当てですか?)
(耳当てじゃなくてイヤーマッフルだって。プレゼントに貰ったー)
(随分感性が豊かなお友達ですね)


20161226




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