別に、好きとか気になるとか、彼に対して特別な感情を抱いていた訳じゃない。ただ周りの刀剣男子は皆あるじあるじ言ってくるのに比べて彼だけは兼さん兼さんと、常に主<<<兼さんとなってる図がちょっと気に食わなくて寂しくて。いや、別に逆ハーレムを築こうとか思ってる訳じゃないけどさ、やっぱり悔しいじゃない。ホリーだししょうがないとは思うけどさ!でも少しぐらいはこっち向いて欲しいっていうか、


「ホリー!また兼さん兼さんって!主はっ?」

「えっと、落ち着いて主さん。そんな事ないよ?」

「そんな事あるよ!あるあるだよ!」


越えられない壁こそ越えてみせたくなるのが人間である。どうしても彼の中にある兼さんの壁を越えたくて、今までホリーの気を引こうとあれこれ地道に壁を登ってきた訳だけど。全然相手にされなかったし相変わらずの兼さん具合に何度も挫折しそうにもなって、その溜まりに溜まってた物がついに今さっき弾け飛んだ。


事の発端は私の鍛刀した刀にある。今日の近侍は正に私の越えたい人兼さんで、なんとなんと、今さっき初めてレア刀である鶴丸国永くんがやってきてくれたのです。わああああずっと待ってた!それはもうはしゃぎまくって歓喜してたところにホリーのいつものあの台詞。「やったね兼さん!」…はい?思わず笑顔のまま固まってしまったよね。あの、ホリー、主も頑張ったんだけど。いや、鶴が来てくれたのは兼さんのおかげの方が強いのかもしれないけど、一応主も霊力使い果たしてヘロヘロでそのつまり、


「主さんも、って、あれ?主さん?」


ホリーが何か話しかけようとしてたみたいだけど、今は何も聞きたくなくて寧ろこれ以上ここにいたら皆の前で声を上げてキレてしまいそうだったので「ちょっと疲れちゃったから」と理由付けして部屋へ戻ることにした。ああ、折角来てくれたのに、鶴にまともに挨拶出来なかったなとか兼さんへお礼の言葉も言いそびれてしまったとか自己嫌悪もあり大分イライラしてたのかもしれない。


「待って、主さん。どうしたの?調子悪い?」


ホリーが追いかけてきてくれたのにすっと心が軽くなったものの、兼さんも心配してたよと今は絶対タブーな名前がまたもやホリーの口から出てきてついに爆発した。上げて下げてなんて、ホリーもやるね。主の怒りメーター振り切っちゃったよ。「ホリー!また兼さん兼さんって、主はっ?」そしてさっきの展開に、という具合だ。一度口をついて出た言葉はマシンガンの如く止まらない。おろおろしてるホリーを目にしても、私の怒りは治まりそうになかった。寧ろ声を上げれば上げるほどヒートアップしてる。ああ、大人気ない…


「落ち着いてってば、ね?」

「…」

「どうしちゃったの、主さん。らしくないよ?」


あまり大きな声を出しすぎると他の皆にも騒ぎが伝わって余計心配を掛けてしまう。現にみだれんや加州ちゃんがどうしたの?と心配そうな面持ちで顔を出しており、それをホリーが大丈夫だから、ね、主さん?と私に問い掛けるので静かに頷いた。再び二人きりとなったところで、主さん僕のせいで怒ってるよねと言ったのにまた眉根が寄る。


「だってホリー、いっつも兼さん兼さんて、私なんて二の次で」

「そんな事ないよ?僕にとっては、兼さんも主さんも大切で、」

「じゃあ兼さんと私が同時に倒れたらどっちのお見舞い先に行く」

「兼さん」

「即答じゃないかばかやろー!じゃあまんばと私!」

「うーん、兄弟かなぁ」

「がーんっ!じゃあじゃあぶっしーと私!」

「あ、これは主さん」

「…!ほんとにっ?」


何で何で?歓喜あまって思わずそう聞いちゃったけど、聞かなきゃ良かったかもしれない。「この二人なら主さんの方が身体弱そうだなって」あ、当たり前だ!!


「うわああんホリーのばかばかばかあ!」


なんてことだろう。まさか兼さんだけじゃなくて国広兄弟よりも優先順位低いだなんて…。もうじんわり涙目で今にも泣き出しそうな顔しながらぽかぽかホリーを叩くと、あ、じゃあこうしようよ、と相変わらず困り顔で何か提案されたのでう?と顔を上げた。


「主さんが倒れた時は、他の刀剣の誰よりも先にお見舞い行くよ」


ふんわりと、ホリーは女の子の弱い甘いあまぁい笑顔が出来るのでいつもそれに宥められそうになる。それをなんとか振り切り「う、嬉しくない、もん、そんなの」とむくれたまま抗うけど、ホリーはやっぱり穏やかにふふっと笑うだけだ。くそう、このアイドル顔が。かわいいんだよバカ、結局いつもと変わらず流されてしまうじゃないか。


とかなんとか、言ってたらほんとにぶっ倒れたのはそれから一週間程した時だったろうか。ちょっと調子に乗ってあれこれ鍛刀したのと最近の忙しさが祟ったのかもしれない。全然平気だと思ってたけど、身体は着々と疲れてたみたいだ。なんだか全身が重たくて座ってるのもしんどいので適当に布団を引き横へなった。

心配をかけたくなくて取り敢えずまだ誰にも具合が悪いことは言ってない。まあ言わずとも、ご飯の時間に集まらない私に気づいたへしべかみっちゃんが様子を見に来てくれるだろう。鈍くなってる思考でそれ以上思案するのも疲れるので何も考えずにいたらいつの間にか眠ってしまったらしい。熱でぼんやりする意識の中、額にひやっとした物を感じて薄っすら目を開けた。へしべ?…じゃない、


「…ほりぃ」

「あ、主さんごめん、起こしちゃったね」

「…なんで、ここに」


もうご飯の時間なのかなとか考えていた私に、ホリーが意外な事を口にしたので返事をするのに少しだけ時間がかかってしまう。


「主さん疲れてるみたいだったから。大丈夫かなって様子見に来たらやっぱり寝込んでて」


なんで、なんで分かったのだろう。身体の調子が悪いとかそんなの、自分でも倒れるまで気づかなかったのに。


「それに言ったでしょう、主さんが倒れたら一番に駆け付けるって」


約束、守りにきたよ。って。またそのアイドルスマイル。なにそのキザな台詞、似合いすぎなんですけど。弱ってるときはいつもの倍以上その笑顔がキラキラに見えて、なんだか胸がきゅんとしてしまうじゃない。


「嬉しい?」

「うっ、うれ、し、」


くない、と変に強がろうか迷った末、それでも嬉しいのは事実でありつい口からうれしいと零れ言葉になった。じりじりと頬が熱を持つのが分かり、赤くなったのを見られては堪らないと布団を目の下まで引き上げる。


「主さん大丈夫っ?急に顔が赤くなったけど、辛くない?」


バレてるし。でも幸い私の熱が上がった原因に彼は気付いてない、というか分かってない?ようなので、その辺はテキトーに「うん、ちょっとぼーっとするだけ。大丈夫だよ」と返しておいた。少しだけ慌てた様子のホリーがほうと息をつくのを見て一度瞼を下ろす。ふぅ。吐いた息は思ってた以上に熱っぽい。寝込むなんて随分久しぶりすぎて、結構しんどいかもしれないとか思ってたら不意にひやっこい物が布団から入り込んで首周りを撫でたのでゆっくり目を開けた。


「ホリーの手、ひんやりしてる」

「洗濯物干してきたところだっから。少しでも熱が下がるといいなって」


熱くなってる首をするりとホリーの手が滑る。あっ、ホリーそれ、すっごくきもちい。はあ、と、吐息混じりにそう言うとホリーの方から僅かに息を飲むのが聞こえて視線を上げた。見ると何故だか顔を真っ赤にして口元を手の甲で押さえているのに疑問を覚える。


「…ほりー?」

「っ、なんでもない!なんでもないよ!」

「え、もしかして今きゅんとした?」

「なんでもないってば。後で薬とお粥、持ってくるからね」

「うん、ありがとう」


鈍感と言われる私でもさすがに今のは分かる。なにがホリーのつぼに入ったのかは分からないけど今私にときめいた。そうでしょう、そうなんでしょう!じゃなきゃそんな顔赤くして照れるわけがない。何でか全然分からないけど!

一応ホリーの中の壁を少しずつ登れてるらしいので、いつかは越えられるかもしれないという希望に満足した私は再びうとうとし出す。おやすみ、主さん。微睡んでどんどん眠りが深くなる直前、聞こえた声に自然と口元が緩んだ。



20160131




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