蛍丸が遠征から帰って来た。私の癒し人物上位に入ってる蛍丸に会えるのをそれはもう何日も前から楽しみにしてて、廊下の先でその後姿を目にした私は我慢できずにその場で彼の名前を呼んだ。


「蛍まるー!」


しゃがみこんで両手を広げて蛍丸を向かいいれる。てくてく私の元まで向かってきた蛍丸をそのまま腿に乗せて向かい合わせで抱きすくめると、久々のふわふわな抱き心地に自然と頬がだらしなく緩んだ。


「おかえりぃぃい」

「はいはい、ただいま、主」

「怪我はない?」

「勿論。よっゆぅ」

「他のみんなも?」

「うん」

「そっか〜」


一瞬だけ真面目な顔になって空気がぴんと張り詰めたけど、蛍丸の返事を聞くなりまた頬がゆるゆるになる。そのまま蛍丸のもちもちすべすべのほっぺに頬擦りすれば、蛍丸の腕が私の首へ回ってきてぎゅっと抱きしめ返されたのに胸の奥がきゅんとした。可愛い。いつもは私がぎゅっとしてって注文をつけてからぎゅっとするのに。萌え死にする。


「蛍丸はかわいーねぇ」

「何言ってるのさ。主の方がかわいいよ」


聞きましたか。そういう事さらっと言っちゃうのがまた可愛いのです。こうして蛍丸にベタベタいちゃいちゃしてると必ずすっ飛んでくる蛍丸セコムの明石も今は出払ってるし、邪魔の入らない貴重な時間として私は蛍丸の温もりを感じ頬擦りしまくり頭を撫でまくった。最後にこうして抱きしめあったのはいつだったろうか。明石が来た時は泣いて喜んだけど、今は別の意味で泣かされてる。


蛍丸ー!と駆け寄ろうとする度にもれなく明石が邪魔してくる。それで一ヶ月丸々会えなかった時はガチで泣いた。「ならうちの蛍をそんな目ぇで見るのやめてもらえます?」とか言われたマジで納得いかん。何がうちの蛍だ、私の蛍だ!ていうかそんな邪な気持ちで見てないし!とか思ってたらまた明石への苛立ちで胸がムカムカしてきた。あああやめよう、折角至福の時を迎えているのに嫌な気持ちになっていては意味がない。そう思ってたら今度は蛍丸の口から「国行は?」と正に私の恋敵(?)の名前が出てきてきょどる。


「え、明石?今出払ってるけど」

「…ふーん。そっか」

「もしかして…会いたい、の?」


うんって言われたらどうしよう。そんな不安丸出しの顔でおずおず訊ねると、蛍丸のマスカットみたいなお目目がおもむろに細められてもっと心細くなてしまう。


「まさか、寧ろ好都合?とか思ってたりして」


えっ。元々近かった距離があっという間に埋まって、気付くと蛍丸の小さな唇が私のそれに触れていて色んな思考あれこれが一気にすっ飛んでいった。思わずぱちぱちと何度か瞬き。そのまま力に押されてすとんと尻もちをついてしまった私の頬を蛍丸の手が掠める。


「ほ、たる…っ?」


ちゅ、ちゅと啄むようなキスに困惑しつつ、なんとか顔を逸らそうとする私と蛍丸の攻防みたいなのが暫く続いてて、そんなのをしてる合間にも蛍の力に押され気味だった私は気付けば殆ど床に組みしだかれてる状態で冷や汗やばいのに顔だけは熱かった。


「ちょ、まっ」


キスの合間を縫いなんとか名前を呼ぶけれど、逆にその隙間から舌を入れられて目を見開いた。「んっ、…ん、ぅ」自然と鼻にかかった声が漏れて恥ずかしくなる。逃げる私の舌を追いかけ回すようにねっとりと蛍丸の舌が絡んできて擽ったい。経験の浅い私でもわかってしまうぐらい、蛍丸、うまい、のだけど。え、なんで、とか思ってたら不意に上顎をつつっと舌でなぞられて大袈裟なくらいに身体が反応した。身体の奥の方からふるふると震えてきゅっとなるのに目が自然と潤んでしまい、蛍丸が喉の奥でくすりと笑う。


「きもちぃ?主、顔がとろんてしてる」


ちゅっ、と、やけに水音を含んだリップ音が鳴ってやっと唇が離れた。もう全身に力が入らなくてくたっと床に頭をつけたまま、涙目で手の甲を唇に押さえつけ蛍丸を見上げればゆうるりとその笑みが濃さを増す。


「ふふ、顔真っ赤だね、主。口吸いだけでぴくぴくー、って」

「ほた、る、」

「やっぱり主はかわいーね」


でもさ、あんまり隙だらけだと、食べちゃうよ。ぐっと顔が近づいて、私の手首を掴みどかすなり本当に食べるようにして私の唇をはむと挟んで口付けられた。ぺろりと舌舐めずりをした蛍丸に胸が早鐘を打って苦しい。てっきり蛍丸セコムだと思い込んでいた明石に、実は守られてたのは私の方なのかもとか不覚にも思ってしまった。



20151214




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