もぞもぞ。布団の中に何かが入り込んできた感覚で目が覚めた。大方厠にでも立った安定が間違えて俺の布団に入ってきたのだろうと思い、俺の安眠妨害しやがってふざけんなの気持ちを込め蹴り飛ばしてやれば、あいたっ、と漏れたのは明らかに安定のとは違う声で。俺の意識が一瞬にして覚醒した。と同時に背中にはぶわっと冷や汗が吹き出す。


「え、…ある、じ?」

「ごめん、起こしちゃった?」

「いや、別にいいけど…てか、俺こそごめん!安定だと思って思いっきり蹴っちゃった!」


ううん、と小さく漏れた安定の呻き声に、俺も主も慌てて口を手で押さえた。といっても真っ暗で主の様子なんて全然見えないけど。それでも思わぬ状況に顔は一気に熱く火照って心臓ははやくなって。部屋が真っ暗で良かったと心底そう思った。あるじ、どうして、ここに。声が震えないようにして訊ねた。けど「じ、実はね、」と問いに答える主の声の方が震えているのに気がつき思考が少しずつ冷静さを取り戻す。


「すっごい喉が渇いたので目が覚めちゃって、台所まで辿り着いたのはいいんだけどね、喉潤った途端廊下に一人っていうのがなんか怖くなっちゃって…」


清光たちの部屋が一番近かったから。そう続けた主にああと納得する。と同時に、いかがわしい期待をしてしまった自分にすっと顔の熱が引いてく気がした。うわ、なにこれ恥ずかし。俺重症。

俺は主の初期刀だから、主と一緒に過ごしてきた時間は一番長かったりする。夜中の本丸怖すぎるよー、と泣きべそをかく主に、そういえば大分始めの方も主は一人じゃ眠れないとか言って初期メンバーの俺や前田、秋田と皆で布団並べて寝てたっけと必然的に思い出した。他の刀も集まってきて短刀部屋が出来てからはそっちに、最近なんかは執務が忙してくて夜はすとんと眠りにつけるからと一人で寝るようになっていたし、すっかり忘れてたけど。


「えっ、じゃあ主どこで寝るの」

「…えっ?」

「え、」


ここで寝るつもりだけど、と、実際口にはしてないもののその意思がひしひしと伝わってきてこめかみを押さえた。


「だって、だって部屋に戻っても一人じゃ怖いし!今から短刀部屋行って皆を起こしちゃうのも嫌だし」

「…」

「ぅ…一緒に寝ちゃ、だめ?」


だめ?とか、そんな疑問符つきの心細そうな声色に上目遣いで言われたらさぁ、


「わ、かった」

「へへ、ありがとう」


改めてもぞもぞと布団に入り直し、俺の側に寄った主になんだかそわそわしてしまう。幽霊がめっきり駄目なくせに、特集見たら眠れなくなった!と皆を掻き集めて眠った夏の蒸し暑い夜とは打って変わり、偶然触れた主の手が冷たくて無意識にも握りしめた。主はぴくりと少し反応したあと、ふふっと声を出して笑って俺の手を握り返す。


「清光あったかい」

「ちょ、主つめた、」


ぴとり、主の冷えた足の先が不意に俺の足へと触れ、そのまま温もりを求めて絡まってくるので心臓が持たない。主、危機感なさすぎ。いくら隣に安定がいるとはいえ同じ布団内でこんなに密着してお互いの体温分け合うとかさ、視界は真っ暗すぎてそれが逆にいかがわしいしその分聴覚の方が敏感になってて主ほんと、

理性と本能が頭の中を渦巻いて悶々としていたが、俺から暖を取って満足したらしい主がすっと離れ仰向けになった。それにホっとしたような、ちょっと残念なような。


「…主さ」

「うん」

「もし一番近かったのが、俺じゃなくて他のやつの部屋でも、主こうして一緒に寝るつもりだったの?」


短刀は別として。例えば、燭台切とか、長谷部とか。変に沈黙してしまう事だけは避けたくて、比較的面倒見がよく信用出来る奴の名前を挙げてみれば、主は短くうんと唸ってからそうだねーと続ける。


「もし違う子の部屋だったとしても、私は清光の部屋まで走ってくると思う」


それは、期待してもいいのだろうか。とか思ったもののここで焦ってはいけない。もっと自惚れてしまう前に「それは俺が初期刀だから?」と続けて訊ねれば、間髪入れずうんと帰ってきて敢え無く玉砕する。あ、うん、大丈夫、心構えしてたから、傷は浅い、多分。


「ね、清光、」

「…なに?」


再びこちらを向いた主がおもむろに俺の名前を呼び、指一本一本を絡めるようにして手を繋ぎ僅かながら力を込めた。相変わらず視界は暗くて主の表情は分からないが、きっと俺のことを真剣な眼差しで見つめているのだろう。心臓が小君良く音を立てて揺れるのが、心地いいような、少し苦しいようなで、なんだか難しい。


「信用してるからね」


言葉がこぼれ、そのままおやすみとだけ紡いだ主はそれきりこっくり黙り込んでしまう。すぐにすぅすぅと寝息が聞こえてきた辺り、やはり疲れが溜まっていて大分眠かったのだろうと悟った。

信用してる、なんて。ズルい言葉だよなぁと一人胸中で思った。そんな事言われちゃったらさ、手出せないじゃん。ふと雲の隙間から月が覗き、障子越しにも部屋の中へと月明かりが零れ主の表情が露わになる。それがとても綺麗で、俺は思わず距離を縮め伏せられた長いまつ毛をじっと見つめた。手を出すつもりは毛頭も無いけど、


「ごめんね、主」


俺も男だから。無防備に寝ちゃう主も悪いと思うんだよね。

だから口吸いくらい許してね。


主の顔に掛かる髪をはらりと退かし、そのまま距離を埋めるようにして自分の顔を近づけ今にも唇が触れそうになったその時だった。ざくっ、て、俺の後頭部すれすれの所に見覚えのありすぎる刀が刺さってて。「…なにしてんの、清光」多分この時ほど安定を邪魔だと感じたことは無いと思う。



20151214




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -