あいつは口数少なくて萌えない。化粧すれば可愛いし胸もある方なのに、色々惜しいよなぁ〜。「…はぁ?」ドスの効いた声でそう漏らしたのは、私ではない。いや口から出そうにはなったけど、違う。今日の近侍で政府まで付き添ってくれた安定だ。お前なんかに言われたくないわ余計なお世話、首落ちてしね!とか思ってしまったけど、安定が今にも刀を抜こうと手をかけて本当に首を落としそうになってるのに気付き慌てて止める。


「なにあいつら」

「ストップ!ストップ安定!」


そういえば以前清光でも似たような事があったなデジャヴ。なんて大量に冷や汗をかきながらなんとか安定を宥めると、私のことを悪く言ってた名前も知らない彼らも行ってしまいなんとかその場は落ち着いた。あ、うそ、落ち着いてはないな。だって安定が何で止めたのとでも言いたげに私のことじとっとした目で見てる。


「なに、あいつら」

「あのね、定例会議で、最近よく隣になるの。話しかけられてもうまく受け答えできなくて、」


まさかあんな事思われてるなんて知らなかったけど…

あ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。ずずんと落ちてきたテンションに苦笑すると、安定が不機嫌な顔つきをしたままふいと背を向けて。帰ろうと私の手を引いた。


「化粧って、この前の?」

「うん」


普段はあまり着飾らない方なのだけれど、この間は友達にたまにはお洒落しようよと清光みたいな事を言われて、それはもう華やかにドレスアップして審神者同士の集まりに参加した事があった。中々評判良かったけど、鏡を見ると当然ながらいつもの自分と全然違うので何だか素直に喜べない。だから本丸に帰ってきた時、皆に美人だけどいつもの主の方がいい、そっちの方が落ち着くよ、と、私からしたらとても嬉しい反応を貰えてほっとしたんだけどなぁ。


「やっぱり世間の男は可愛くて明るい子がいいんだろうねぇ」

「…だからってあんな親しくもない奴らにどうこう言われる筋合いはないよ」

「うん、それは同意」

「胸だけは大きいとかどこ見てんだって話だし、あいつらに主萌えとか言われても気持ち悪いし、化粧してようがしてまいが主は主だし」

「…うん」

「何で怒らなかったの」

「私が怒る前に安定が怒ってくれたから、かな?」


それに、この前受けたショックの方がでかかったし。ていうのは言わないでおく。前に清光を連れて定例会議に行った時、知り合いの男性審神者に影で言われてたことの方がキツかった。整形すればいいのに、だって。それなりに仲良くしてると思ってた人だったから、裏でそう言われてると知って頭は真っ白、清光は今にも切りかかろうとするしであの時の方が心身共に大変だった。今回のもムカつきはするけど。


「安定や清光が代わりに怒ってくれるから、なんかもういいやってなっちゃうんだよね」


思わずそう零してしまうと、不意に安定の足が止まり私もつられて止まった。「どうしてそこで清光が出てくるの」安定が訝しげに言ったので、そこで初めてさっきのが失言だったのだと気づきはっとする。


「もしかしてこれ、二回目?」

「えっと、その」

「どうなの主」

「うっ、」

「前は何言われたの」

「に、たような事だよ。可愛くないんだって、私。知ってたけどね!愛想良くニコニコしてみたり、化粧っ気はないからせめて可愛く見られようとアクセサリーつけてみたり服には気を遣ってたつもりだけど全然ダメだったよー。まあ、私が冴えないのは本当だし口下手だし、そう思われるのは仕方ないっていうか、ていうか男の子二人に同じ風に思われてたっていうのはもう本当に私って世間一般から見ても、」


あ、まずい、止まらない、と自分でも分かってたけど止められなかったそれを、安定は「主」と意図も簡単に止めてしまったのだから凄い。「う、はい、」しどろもどろに返事をするとするり、首筋に安定の手が入ってきて上を向かされる。


「それ以上自分の事卑下するなら、その口塞ぐよ」


蒼く透き通った双眼がまっすぐと私のことを捉えている。思った以上に安定の顔が近い。そのまま彼の親指が艶やかに私の下唇の膨らみを撫でたので途端に赤くなってしまうと、安定が声を出して小さく笑った。


「人間の男は見る目がないよね」

「へえっ?」

「僕の主はこんなに可愛い人なのにさ」


するすると手が上がってきて、すっかり熱くなってしまった私の頬を優しく撫ぜる。なんだか胸の内が擽ったくなってしまって俯くと、安定が「ほら、帰るよ」と私の手を引いた。


「安定」

「うん」

「…ありがと」

「別に」



20151214




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