乱は可愛い。


「…ねぇ、そんなにボクの服の下が気になるの?」

「うっ?ええと、まぁね」


乱は、かわいい。あまりにも可愛すぎて、時々男の子だというのを忘れてしまう程だ。だから傷だらけになって帰ってきた乱の手当てをしてる時、はだけた服の中身が気になってついついジロジロ見過ぎでいると当の本人にそう言われぎくりとする。主さんが脱いでくれるなら脱いでみてもいいけど。なんて悪戯に笑っていうので、私もその冗談に乗って帯を緩め前をほんの少しだけはだけさせてみた。え。案の定ぽかんと固まって少し焦った表情が珍しくてついつい冗談を延長してしまう。


「ちょっと!主さん…?」

「なーに」

「ほ、ほんき?」


すとんと帯が落ち、そのままするりと大胆にも肩を出してみたりして。完全に落ちそうになる着物の合わせ目を胸元へ手繰り寄せて恥じらうようにはにかむ様を、乱が目を丸めて驚いた顔をしながら凝視していた。ただ意外だったのは、少しくらい顔を赤らめてもっと強く止めるんじゃないかと予想していたのが全然外れてしまったこと。なんだぁ、もうちょっと慌ててくれたら面白かったんだけどなぁ。拭いきれない残念感に微笑しつつ、えへへ、なんちゃって〜、と間の抜けた顔で言って乱れた衣服を直すつもりだったのだけれど、その前に乱の手が制服のボタンにかけられて次々に外されていくのに呆気に取られて私は中途半端な笑顔のまま動けなくなってしまったよ。


「あの、みだれ、」


まって。しゅるり。衣服の擦れる音に私の声が掻き消されて、気が付けば乱の白い肌が露わになっていて焦る。華奢で細っこいと思っていたけど、乱の腕には意外と筋肉がついていて割としっかりした体型をしていて、私が想像していた以上に男の子で、「はい、次、主の番」目を細めて笑った乱に顔が急にかああああっと熱を持ち出した。


「え、えっと」


まずい、これは完全にタイミング逃した。今更冗談だよてへぺろとか言ったら乱怒るかな。ていうか拗ねそう。でもごめん審神者これ以上は脱げない!少しずつ距離を詰めてくる乱の事を直視出来ずにわたわたしながらなんとか「やっぱり私恥ずかしい」と視線逸らしたままぼやくと、不意に乱が顔を覗き込んできたもので変な声が出た。


「え、それボクが脱いだ直後に言っちゃう?逃げるなんてずっるーい」

「や、ホントごめんね」

「ねぇ主さん、どうして急にそんな、顔を赤くしてさ、」

「ひううう!みだれ、ちかっ!」

「もしかして、」


今更実感しちゃった?ボクが男だ、って。耳元で、しかもいつもよりも2トーンくらい低めの声で囁かれて背中がぞくぞく震えた。ごくんっ、唾を飲み込みたかったのに口の中はカラカラで上手く出来なくて目の前はチカチカしてくるわで、私の丸出しだった肩に乱が触れてきたのでついにうわあああ!となる。


「あっ、あのね乱、ごめんジョーク!審神者ジョーク!」

「確かに仕掛けたのはボクだけどさぁ、煽ったのは主さんだよね?」

「うううう…!?ちょっと、ちょっとまって!タイム、」

やらしい手つきで乱の手が私の着物を脱がそうとしてくるのでなんとか身を捩りながら回避していた。ぺぺいと払い除けてしまいたいのは山々だが、手を放してしまうと脱ぎかけの着物がそのままするりと落ちてしまうので私は必死になって合わせ目を手で押さえこむ。ていうか、中途半端に脱げてるせいで地味に重い。逃げづらいし。


「ふふ、もう逃げられないね、あーるーじ、さん?」


語尾にハートでもつきそうな勢いである。でもふりるたっぷりレースのついた制服を脱いでしまった乱は可愛いというよりもカッコイイという言葉の方が似合いそうで、いつもガラス玉みたいで綺麗だと羨ましく思ってたアクアブルーの瞳が、今だけはそのいつもと違う熱を孕んでいて。やだ、こんな乱、知らない。とか、漫画によくあるシチュエーションと脳内セリフを私も考えちゃって顔はあっついし胸はどきどきしすぎてなんだか苦しい。壁際に追いやられ、とんと手をつかれたのに完全に逃げ道を失う。


「あのっ、ちょ、うっ」


近い近い。目のやり場に困ってあたふたしていると、機嫌良く笑った乱に手首を掴まれそのまま壁へと縫い付けられた。はらり。ついにはだけてしまった胸元に赤面。そして涙目。ひー!


「やだなぁ主さん、別に取って食おうなんて思ってないよ」

「へ、」


ぱっ、と、乱の手が潔く放れ今度は私の着物の襟元を手にする。正直身構えたものの、乱は脱がすのでなくきちんと私に着せ直し襟元をきっちりかきあわせた。


「勿論、主さんがその気なら続けてもいいけど」


咄嗟にぶんぶん顔を横へ振るって拒否するとまた乱が可愛らしく笑ってみせる。でもその笑顔は天使というよりも小悪魔的だ。あ、あざとい…。結局はあれでしょう、見事に私は乱に遊ばれてしまった訳だ。


「…乱ってば意地悪」

「だーかーら、先に冗談の延長仕掛けてきたのは主さんの方。ボクはそれに乗っただけだよ」


言いながら乱が帯を手にし、私の腰へとあてがう。「それにさ、」乱がまだ何か言おうとしているので何気なく視線をやった。


「主さんに分かって貰うチャンスかな、と思って」


なにを?と、尋ねる前に腕を引かれ次の瞬間には唇を奪われていて。折角引きつつあった熱が一気にぶり返したのでまた嵌められたのだと気づくのに時間はかからなかった。や、やられた!


「ボクが可愛いだけじゃない、ってこと」

「っ、みだれえええ!」



20151214




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