「っううう、わあああああ!」

「どうしたの大将っ?」

「あっくんが、あっくんが可愛すぎて辛い、息が出来ない」


大将!って私を呼ぶあっくんを思い出して悶える。無理すんなって言ったろ?と私の頭を撫でて慰めてくれたあっくんを思い出して呻き声を上げる。よく頑張ったな、って太陽みたいに笑いながら褒めてくれたあっくんを思い出してついに呼吸困難。あっくんに、会いたい。

蹲りながら心境を語るなり、駆けつけてくれた信濃くんが心配そうな表情をがらりと一転させてなぁんだ、と呟く。その顔は呆れ半分不満半分、というところかな。


「厚ならもうあと何時間で帰ってくるじゃん」

「…あと5時間だよー?長いよ…」

「そんなに辛いんなら遠征なんて行かせなければいいのに」

「主殿もちょっとずつ厚離れしましょうねって一期に言われちゃったから…確かにここ最近べったりしすぎだったかなって反省はしてるし」

「…大将って本当さ、いつも厚ばっかり。ねえ、俺じゃあ駄目なの?」

「やだなぁ、私信濃くんだって大好きだよ?」


ほら、ぎゅー。って言いながら抱き締めると信濃くんは余計眉間に皺を寄せて。


「じゃあ厚よりも好き?」

「え、うーん、…」

「…大将のバカ」


だって、その質問は難しくてズルいやつだ。私の腕の中でいじけた顔をする信濃くんにちょっと困ってしまう。「厚がいない時くらい、俺の事見てよ」って呟いた信濃くんに胸キュン。


「あああん可愛い!やっぱり信濃くんも好きだよお」

「…大将の言うそれって子供に対して使うやつでしょ。秋田や前田に向けるのとおんなじやつ」


ちょっとだけ、ちょっとだけ信濃くんの声が低くなった気がしたのね。それで少し強い力で肩を押されて思わずとてっと尻餅をつく。


「でも厚に向けてるのはもうちょっと熱っぽい視線だよね、俺知ってる」


いつもはまん丸で宝石のような瞳が少し細められて、ギラギラと鈍く光りながら私を見ていた。そんな彼の視線の方が、よっぽど熱っぽいと思った。無意識に息を飲むとそのまま唇が押し付けられて、軽く食まれたのに目を大きく見開く。

びっくりして咄嗟に顔を背けてしまうと、信濃くんがきゅっと唇を噛んで「やっぱり俺じゃイヤなんだ」と自嘲気味に笑った。いやとか、そういう訳ではなくて、とか弁解の言葉も上手く出てこなくて、信濃くんは眉根を寄せながら私の目を射抜いた。


「俺、謝らないから。いつまでも厚と俺の間でフラフラしてる、大将が悪いんだもんっ」

「し、信濃くん、」


呼び止める前に行ってしまった信濃くんに脱力してそのままぺたんと座りこむ。はあ、と溜息をついて熱の残る唇に手の甲を押し付けた。


「…ちょっとドキっとしてしまった」


困った、なぁ。別にあっくんだけ特別扱いしてるつもりはなかったんだけど…どうしよう、はああ、


「…どうしよう」


顔、あつい。



20170401




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