「あるじさま!くちすいしませんか?」

「へ、口吸い?」

「はい」


なんかもう息を吐くみたいにさらっと今剣の口からとんでもない言葉が出てきたので、ぽかんと呆気にとられた。にっこり満面の笑みでいいですか?と首を傾げられたので咄嗟に頷いてしまったが、まぁ、ホッペくらいなら全然いいか。


「ん」


今剣に向かって頬を差し出せば音もなく口付けられる。なんだか胸の奥がこそばゆくてはにかむと今剣も微笑みを見せ私の前に回り込んできた。機嫌良さそうにニコニコと笑うので、なんだか私までニコニコしてしまう。


「じゃああるじさま」

「うん」

「おくちにもしていいですか?」

「うん?」


笑顔のまま思考が停止。しかしその合間にも今剣がずずいと顔を近付けてきたので反射的に避けてしまうと、今剣がしゅんと眉を下げたのでそれもまた困ってしまう。おおう、罪悪感が…


「あ、あのね今剣、口は好きな人にとっておかないと、」

「ぼくはあるじさまのことがすきなのに、あるじさまはぼくのこときらいですか?」

「うっ、す、すきだよ!勿論」

「じゃあ、きまりですね!」

「うううっ!?ちょ、まって、今剣、」


肩を掴まれると逃げる余地すら無くなってしまって、あああ、…し、してしまった。ちゅっとか可愛らしい音がしたぞ今。触れた唇からじわじわと熱が広がり、あっという間に頬までかっと熱くなると今剣も照れたようにはにかんだ。


「えへへ、すきですよ、あるじさま」

「あ、えっと、ありがとう…?」

「いっかいしてしまったんだから、もういちどしてもいいですよね?」

「えええ!もう駄目!」


ほんのりと頬を赤らめながらやっぱりにこにこと笑って言うので、危うくまた流されてしまいそうになってしまったが。「だめだめだめ!」ぶんぶんと大きくかぶりを振って必死に断りを入れるとまた叱られた子犬みたいにしょんぼりするから参ってしまう。「だ、め」あ、だめだって今剣その顔、泣きそうな顔されるとついほら、わたし…


「も、もう一回だけなら」

「さすがぼくのあるじさまですっ」


思い切り飛びついてきたので受け止める。早速ちゅっと唇が触れて、かと思えば離れてまたちゅうとくっついて…あれ。


「ちょっと、今剣!一回だけって、いっ、た、」

「えー、こういうのもだめなんですか?」

「だっ、だめ!」


キスの雨が、苦しい。ちゅっちゅと啄ばむようにして繰り返される口付けがくすぐったくて恥ずかしくて、「はいもう終わり!」と半ば強引に顔を離した。もうこれ以上は無いと認識させるようやぐいと手の甲で口元を拭う。今剣がわあわあと声を上げたのはその時だった。


「ごめんなさいあるじさま!これでさいごにしますから!ねえっ?」

「だめ!おしまい!」

「あるじさま…」

「そんな元気の無い子犬みたいな顔したって駄目なものは駄目、」

「ぼくのこと、きらいになっちゃいましたか…?」

「き、らいとか好き、っていう問題じゃなくて…」

「じゃあやっぱりおこってるんだ。ぼくが、やくそくやぶったから…」

「怒ってないよ」

「ぼくのこと、まだすきでいてくれます?」

「うん、好き」

「じゃあさいごにもういっかい、くちすいさせてください」

「…今剣、それとこれとは話が、」

「くちすいしちゃダメってことはやっぱりぼくのこときらいになっちゃったんですね」

「〜っ!…最後、一回だけだよ」


今剣のしょんぼりとしおらしくなってる姿に居た堪れなくなって、言葉にしようか何度も迷った末結局言ってしまった…。けれど今剣がとても嬉しそうな声を出して喜ぶから。それはもうぱああああっと、花が満開したみたいな素晴らしい笑顔でホントですかっ?と私の両手を取る。ああ、その嬉しそうな顔にはもっと弱いのよ。今剣のお願いには勝てないなあと思いながらうんと頷くなり、早速彼の唇がもう一度私の唇にちょんとくっつけられた。


「…んっ、」


な、なが、い…。それはもうちゅ〜って効果音がつきそうなくらい。先ほどのちゅっちゅよりは大分マシとはいえ、あまりにも長くて息もつきそうなのでやんわり今剣の肩を押し無理やり終わりにしようとした、のだけれど、逆にその手を取られ指一本一本絡め取られてしまいぎょっとしながら目を開けた。


「あっ、あの、いまっ、んんっ!?」


酸素も足りないし、さすがに恥ずかしすぎて死ねる状態だったのでなんとか言葉を紡ごうとしたらぬるっと舌が入ってきた。ほんとに、ぬるんて…!既に唇は塞がれてるせいで悲鳴は口内に閉じ込められて、混乱超絶パニック中の頭では何も考えられない。


「んっ!んっ、ふぅ、」


逃げようとするけどすぐに今剣の腕が伸びて後ろ頭を押さえつけられてあまり意味が無かった。逃げる私の舌を、彼のものが固執に追いかけてきてぬちぬちと卑屈な音を立てる。そのまま軽く舌を吸われたのに全身が震えて痙攣した。


「もっ、やだぁ」

「ふふ、かわいいですね、あるじさま」


酸欠で脳がクラクラしてきた頃、漸く今剣がゆっくりと顔を離す。唾液がぷつんと切れたのがまた羞恥心を煽り、今にも泣き出しそうな顔をしてしまうと目の前の今剣がにんまりと笑って言った。


「こんどはやくそく、ちゃんとまもりましたよ」



20160323




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