「…あのね、哀しみの王」

「うん、どうしたの」

「その、私も一度クロノア達に会ってみたいなー、なんて」


えへへー、と、わざと間延びした口調でそんな提案を持ち掛けてみる。そしたら、哀しみの王がこの世の終わりみたいな顔でこちらを見やるのでギョッとしてたじろいだ。とてもじゃないけど、今度一緒に連れてってよーと言えるような雰囲気では無い。


「あの、えっと、哀しみの王?」

「…お前も、僕じゃなくてアイツの事選ぶのか」

「うううん?」

「っ!どうして、どうして、…!」

「落ち着いて!哀しみの王」


咄嗟に手を伸ばして彼の事を宥めようとするけれど、パシンと払い退けられてしまい目を瞠る。彼の声色と表情からも、怒りが滲み出ているのは明白で。私はただオロオロと狼狽える事しか出来ない。きっ、と睨み付けてくるその眼差しに怖気付いて、私はつい1歩後退した。


「ご、ごめんね…」


哀しみの王を落ち着かせる為にも、1回距離を置いて一人にしてあげた方が良いのかなと思って。私はそのまま背中を向けて歩き出した。後で頃合いを見て戻って来よう。何をしたら彼は機嫌を直してくれるだろうか。うーん。考え込みながらだだっ広い王宮内を歩き始めた私に、哀しみの王が「っ…!」と息を呑む。私の事を拒絶したのは哀しみの王なのに。だっ!と駆け寄って私を追い掛けるから愛らしい。


「僕の事を置いていくのか」


ぐい。服の裾を引っ張られてほんの少しだけつんのめる。ビックリして振り向くと、涙をポロポロに零しながら私の事を引き留めようとする哀しみの王が居て益々目を丸めた。…ふふ、僕の事を置いていくのか、って。


「そんな訳ないじゃん。約束したでしょ?私はどこにも行かないよ」

「…分からないだろ」

「ごめんごめん。可愛いねぇ、哀しみの王」

「嘘だ。本当は重たくて束縛激しくて面倒だと思ってるんじゃないのか」

「あはは、思ってないよ。でも哀しみの王、メンヘラしてる自覚あったんだね」

「…?めんへらって何…?」

「ふふ、何でもない」


大丈夫、メンタルヘラヘラな哀しみの王も可愛いよ。彼の耳元で囁きながらぎゅ、と、哀しみの王を優しく抱き締めて。そのフアフアな背中をゆっくりと撫で回す。思い立ったみたいに。「私の事そんなに好きなの?」と訊ねてみるけど。哀しみの王からの返事は無くてこっそりと苦笑いを零した。まぁ、だよね。答えてくれる訳ないか。…けど、不意打ちでぎゅっと抱き締め返して来るから、見事に心臓のど真ん中を撃ち抜かれる。


「……大好きだよ」


…んんっ。まさか、クロノア以上に好きなキャラが出来るとは思ってもいなかった。




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