「ねぇねぇ哀しみの王」

「…」

「…そんなにキツく抱き締めなくても、何処か行ったりしないよ」


返事をする代わりにぎゅ、と、私を抱き締める力が強くなった気がした。バッグハグを決めたまま、何も言わずに私の肩口へと顔を埋める哀しみの王を見て苦笑いが零れる。異世界からのトリッパーとはいえ、一人ぼっちだった世界に突然やって来た私の事が、どうやら彼は嬉しかったらしいのだ。哀しみの王はこんな風に、基本私にベッタリで離れない。必ず1日1回、私にご飯を取って来てくれるのでその間は1人になるけれど。それ以外はこうしてくっつき虫と化している。因みに、トイレとお風呂まで着いて来ようとしたので流石に熱弁して説得した。寝る時なんて完全に抱き枕状態だ。まぁでも正直、可愛いなぁとは思う。今までこんなに必要とされる事が無かったから、私は母性本能を擽られまくりで本音を言うと悪い気はしていなかった。哀しみの王へと向き直り、よしよしと彼の頭を撫でてあげる。ふあふあだ〜。触り心地が良すぎて、自然と口角が緩んで笑みが零れた。


「…本当に、何処にも行かない?」

「うん、行かない。約束」


なんて、自分で言っててあっと思う。これ突然元の世界に帰ったら、嘘つきって泣いて怒られるパターンだ。




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